寿都町と神恵内村の文献調査から考える 核ゴミの最終処分地選定プロセスにおける問題

寿都町、神恵内村における文献調査開始問題に関する質問主意書

出典:原子力発電環境整備機構公式サイト

提出議員 : 逢坂 誠二

原子力発電を行えば、高レベル放射性廃棄物(再処理工場での廃液とガラス原料を高温で溶融させたガラス固化体)(※)が生まれます。政府は、ガラス固化体等を地下深くの岩盤に閉じ込めて処分する地層処分を計画していますが、いまだに最終処分地が定まっていません。

最終処分地を決めるためには、まずは地区の文献調査を行い、その上で、概要調査、精密調査と進んでいく必要がありますが、文献調査を終えた地区もない状態です。

こうした状況下で、2020年11月になり、北海道寿都町(すっつちょう)と北海道神恵内村(かもえないむら)を対象とした文献調査が始まりました。

この記事では、立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員による「寿都町、神恵内村における文献調査開始問題に関する質問主意書」やそれに対する答弁も参考としつつ、最終処分地選定のプロセスや、それに関わる問題について解説していきます。


最終処分地の選定プロセス~3段階の調査~

まず、高レベル放射性廃棄物等を地層処分する最終処分地区の選定プロセスについて解説します。高レベル放射性廃棄物の最終処理地選定は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(以下、最終処分法)に基づいて行われ、原子力発電環境整備機構(NUMO)(以下、同機構)が3段階の調査を行い、全ての調査をパスして初めて処分施設が建設されます。

選定の対象になるのは、自ら応募した自治体、あるいは国の申し出を受諾した自治体です。

最終処分場選定プロセス

出典:資源エネルギー庁

1.文献調査

第一段階が、文献調査(現地での作業はない)です。この調査では、地質図や学術論文などを収集し、施設建設地として不適切な状況(地層の著しい変動・有用な鉱物資源がある・強度が弱い地層がある等)がないか精査します。

2.概要調査

文献調査の次に行う2段階目の調査が、概要調査です。この調査では、地層処分を行おうとする地層やその周辺の地層に、空中・水上・水中からの物理探査・地表調査・ボーリング調査等を行い、地層の変動・坑道採掘の可否・活断層や地下水等の影響等に問題がないか確かめます。

3.精密調査

概要調査に続く3段階目の調査が、精密調査です。精密調査では、概要調査よりも精度の高い地表踏査・物理探査・ボーリング調査・岩盤や地下水の調査等を行います。

そして、岩盤の物理的性質・腐食作用の可能性・地下水による障害の可能性等を確認することになります。精密調査後、問題がなければ、実際に施設建設に進みます。

なお、各調査の後に次の段階に進もうとする場合、同機構は最終処分法に基づき、地域住民の意見を聴く場を設けなければなりません。その際、反対意見が強ければ、次の段階には進まないとしています。


文献調査をめぐる今までの経緯

文献調査については、2007年に高知県東洋町が応募してほどなく取り下げたほかは、応募や受諾がない状態が続いていました。しかし、2020年10月になり、北海道寿都町が応募し、北海道神恵内村が国からの申し出を受諾しています。これを受けて、同年11月17日から、寿都町と神恵内村で、文献調査が始まりました。

しかしこの文献調査に関し、2020年11月18日、北海道の鈴木直道知事が梶山弘志経済産業大臣に対し、申し入れを行いました。

その中で、鈴木知事は、2000年に、最終処分場受け入れを容認しないことを前提とした「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」を制定したことに触れ、「(文献調査から)概要調査等へ移行しようとする際、知事または当該町村長の反対があれば、当該町村は最終処分法上の処分地選定プロセスから外すこと」などを求めています。

この申し入れに対し、梶山経済産業大臣は同月27日、回答書において、「最終処分法第4条第5項で『当該概要調査地区等の所在地を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重』するとされており、都道府県知事又は当該市町村長が概要調査地区に選定されることに反対なら選定せず、当該市町村は最終処分法上の処分地選定プロセスから外れる」と回答しました。

ただし、「プロセスから外れる」ことの具体的な意味は必ずしも明確ではありません。また、条文では、「知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重」と規定されているのみです、「十分に尊重」することが「処分地選定プロセスから外れる」ことを意味するという現在の解釈が、未来永劫続くかどうかも分かりません。


「プロセスから外れる」とは?

先に紹介した鈴木知事の申し入れに対する梶山経済産業大臣の回答では、「知事又は市町村長が反対すれば処分地選定プロセルから外れる」とのことですが、「プロセスから外れる」という言葉の解釈は明確になっていません。この点に関し、逢坂議員が質問しています。

質問
「プロセスから外れる」とは、文献調査後、単に概要調査に進まないという意味に留まらず、それまでの手続が撤回され、文献調査対象地区でもなくなると解釈してよいか。また、「プロセスから外れる」ための反対の意思伝達に関し、最終処分法施行規則(※)を整備する考えはあるか。

答弁
「プロセスから外れる」とは、当該文献調査対象地区から概要調査地区を選定しないことである。また、同規則整備の考えはない。

答弁によると、文献調査後に「プロセスから外れる」とは、それまでの手続きが全て撤回され、文献調査対象地区でなくなるのではなく、単に次のステップに進めないということだと明らかになりました。これは、一旦、文献調査対象地区になると、知事や市長村長の反対によって次の段階に進まないことは可能でも、選定プロセス自体からの離脱はできないとも受け取れます。

また、政府は反対意思の伝達方法を法律で具体的に定める考えがないことも明らかにしました。自治体が選定プロセスから完全に離脱する方法はあるのでしょうか。


選定プロセスからの離脱は可能なのか?

逢坂議員は、最終処分場の選定プロセスからの離脱に関して、次のような質問を行いました。

質問
経済産業省によって同機構の文献調査が認可された後、一定期間(例えば2年)が過ぎても、知事や市町村長に対し、概要調査地区選定の意見を問う連絡がない場合、知事または市町村長が反対の意思を伝え、最終処分選定手続きから離脱する施行規則制定の考えはあるか。また、経済産業大臣による回答書の法的効力を伺いたい。

答弁
最終処分法において、知事または市町村長から概要調査地区選定に反対意見が示されれば、概要調査地区としないと規定している。よって、ご指摘の施行規則を制定する考えはない。回答書は、経済産業省設置法第4条第1項第54号に基づき回答したものである。

政府答弁は、反対意思が示されれば、次のステップには進まないの一点張りで、一度文献調査対象になった地区が選定プロセス自体から離脱するための法整備は行わない考えを示しました。

また、法的効力については分かりやすい回答はありませんでした。回答にある経済産業省設置法第4条第1項第54号では、同省が「エネルギーに関する原子力政策に関する業務」をつかさどることを規定しています。


まとめ:地域住民にとって納得のいく選定プロセスの整備はできないのか

高レベル放射性廃棄物の最終処分地を定めるにあたっては、文献調査、概要調査、精密調査が必要です。これらを経て、初めて処理施設の建設に進むことができます。

北海道の寿都町と神恵内村において、公募や受諾によって、文献調査が実施されていますが、北海道の姿勢は、目下のところ、道内に最終処分場建設は受け入れないというものです。

しかし今回、政府は、最終処分場選定プロセスから離脱する手続きについて法整備を行わないことを明らかにしました。

また、北海道新聞によると、経済産業省は、プロセスから外れた後でも、知事や市町村長の意向が賛成に変わり、概要調査に必要なデータがそろえば「調査を再開させる可能性もある」(放射性廃棄物対策課)と説明していることが分かっています。

一度、文献調査対象地区になると、プロセス自体から離脱できず、知事や市町村長から反対意見が示されても、将来的に調査再開の可能性があるとなれば、不安な気持ちをぬぐえない住民も多いでしょう。

さらに、知事または市町村長の意見は、民意を反映する必要があると考えられます。したがって、自治体において、知事や市町村長が民意を反映した意見を述べるような手続きを整備しておくことも大切です。



@restog

2021/03/23

段階を踏まないと次の工程にいけないようだったら、いつまでたっても解決しない。また新たな核廃棄物が出たらどうするつもりなのか。いち早い処理が必要。

@TONOさん3号

2021/02/26

何も決まらないあいまいであやふやな法律ですね。 誰かが手を上げないといけないと思う。 あくまで候補だけど調査の上で決まるのであれば充分な補償の上でお願いするしかない。 プロセス云々の議論は揚げ足取りのようでどうでもよいように思える。

@だるばーど

2021/02/26

この2つの自治体のすぐ近くに住んでいます。何かあったときには被害は北海道全体に及ぶのにも関わらず、この2つの自治体の判断だけで物事が進んでいっているのが怖いです。しかも一度対象になるとプロセスから抜けられないと言うのはほとんどの人が知らない情報だと思います。プロセスに入る法整備があるならば抜ける法整備もしっかりしてほしいです。

@ichi369

2021/02/24

地震が頻発している状況では、住民が不安になるのも仕方がない。絶対に人体に影響があることは起こらないと住民が納得できなければ、文献調査すらして欲しくないというのが心情だと思う。法整備も重要だが、住民が納得できるプロセスとは何かという議論も必要だろう。

@なんたん

2021/02/24

そもそも何故文献調査に同意したのかなと思います。いつまでも候補になっているけれど先へ進まないのなら処分場がいつまでも決まらない。もっと事前に県、市、住民の意見を統一してからの方がいいと思います。

@rolling893

2021/02/22

どこも引き取り手がない中で名乗りを上げてくれた2町村なのだからやってもらえばいいと思う。村は収入が増えるし廃棄物の終着点は決まる。2町村は議会を通して文献調査を始めている以上地元にそれなりのコンセンサスは取れているはずなのに、なんで外野がプロセス離脱ありきの論調なのかな。

@もも

2021/02/22

とてもややこしい手続きがあるのですね。一回文献調査を行って、その成果が無駄になるのはもったいないから保留にしておくのでしょうか。最後に地域住民による投票を設けたり、反対署名を受け付けたりすることが出来ればいいのではないかなと思います。

 詳細情報

質問主意書名 :寿都町、神恵内村における文献調査開始問題に関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :204
提出番号 :16
提出日 :2021年1月26日
転送日 :2021年2月1日
答弁書受領日 :2021年2月5日

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