公文書管理法の改正に至る経緯まとめ~桜を見る会名簿・森友学園問題・廃棄PKO日報の隠蔽

近年、公文書管理に関連する法案がいくつか野党から衆院に提出されている。公文書管理の法制強化の動きが出たのは、安倍政権下で明らかになったずさんな公文書管理体制に起因する。

今回は、公文書管理法の改正等の動きが生じた原因とされる、政府の公文書管理の諸問題を見ていくとしよう。


問題1:南スーダンPKO日報の隠蔽

政府は2012年1月~2017年5月、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に陸上自衛隊の部隊を派遣した。現地部隊が作成した日報の情報公開請求を受けたが、防衛省は「陸自が廃棄した」とし不開示決定を下した。しかし、その後防衛省統合幕僚監部に電子データが残っていることが判明。防衛省はすぐ文書を公開したが、その後の調査で、廃棄したと断定した陸自内にも電子データが残っていたことが分かった。

この一連の流れに対し「隠蔽を行ったのでは?」と疑念が沸き起こり、当時の稲田防衛大臣が引責辞任する事態にまで発展した。隠蔽問題の調査・検証を目的に実施された特別防衛監察では、陸幕や統幕が日報の存在を認識していながら文書の不存在として不開示決定を下したこと、対応に合わせるために陸自内に保存されていたデータを次々に削除したことなどが認められた。ただし、稲田防衛大臣が、データ保管や隠蔽の事実を認識していたのかという点は明らかにされなかった。

当初の答弁では「保存期間1年未満の文書と判断したため廃棄した」と答えていた。保存期間1年未満の文書の対象が各省庁によってバラバラだったことが、今回の問題の大きな要因だと言えるだろう。この点、政府は2017年末、公文書管理ガイドラインの改正を行い、自衛隊の日報は10年以上の保存を義務付けるとした。


問題2:森友学園問題で明らかになった決裁文書の改ざん

「忖度」(そんたく)という言葉が世間を大きく騒がせた森友・加計学園問題。この言葉ばかりがクローズアップされているが、本質は公文書管理に関する問題である。まずは、事の経緯を説明する。

2017年2月、朝日新聞が、2016年6月に学校法人森友学園に払下げされた国有地の価格が不当に安いと報じた。不動産鑑定士による評価価格は9億5,600万円だったが、実際の取引価格は1億3,400万円と8億円以上も低い額だったのである。森友学園の籠池理事長は安倍総理夫妻と交流があり、昭恵夫人はが同校の名誉校長に就任している。これらを踏まえ、価格決定に関して首相の圧力が働いたのではと問題視された。

値引きの正当性について調査が行われたところ、財務省が国会議員に開示した文書と、契約当時の決裁文書の内容が異なることが発覚した。財務省内で徹底的な調査が行われた結果、決裁文書改ざんの事実が認められ、国会にもその旨の報告がなされた。文書改ざんは、決裁文書から安倍夫妻との関わりが認められる記述を削除する形で行われた。文書改ざんの理由については、安倍総理が国会の答弁で「私がこの問題に関わっていたら、首相と国会議員を辞める」と発言したことから、首相の意図を推しはかる目的(=忖度)で行われたと見られる。

メディアの取材において、当時の麻生財務大臣は改ざんについて「理財局の一部の職員が書き換えたもので、責任の所在は当時理財局長であった元佐川国税庁長官にある」と答えた。元佐川国税庁長官は同日依願退職し、退職金の減給処分が行われた。

公文書管理法で決裁文書等の公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と記載されている。公文書の改ざんが職員の意向で勝手に行われたとしたら、民主主義の根幹を覆す大問題である。公文書の改ざんの防止のための策を講じることが、今回の法改正等の大きな目的である。


問題3:桜を見る会の名簿廃棄

内閣総理大臣が毎年開催する「桜を見る会」について、2013年~2017年の5年間にわたって、名簿が文書管理簿に記載されておらず廃棄の記録もつけられていない点が明らかになった。

政府の公文書ガイドラインでは公文書を廃棄する際は廃棄簿に記載するというルールがあったので、明らかにガイドライン違反である。それどころか、公文書管理法には公文書を廃棄する際は首相の事前の同意を要するという規定があるので、法律に違反している可能性も高い。ルールを無視した公文書管理が行われていると、大きな問題になった。


公文書管理法改正など法規制強化の動きへ

これまで見てきた通り、安倍政権下の公文書管理体制は非常にお粗末だと言える。公文書管理法の規定が守られていないばかりか、改ざんや隠蔽といった法制定当時は考えられなかった問題も生じてしまった。

政府は公文書管理に関するガイドラインを改定したが、野党からは法律の改正が必要だとの声が多く挙がり、公文書管理に関連する法案はいくつか提出された。改ざん防止のために電子決裁を義務化する、行政文書の範囲を見直す、公文書管理院という新たな組織を設置するなど、法案の内容はさまざまだが、公文書は政府の活動を国民に説明するための重要な知的資源という点を念頭におき、適正な管理を実現できるようにしてもらいたい。

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@ケンタ

2020/11/15

必要な事を確実にして欲しい。