和牛の人気が国際的に高まっており、不正な海外流出の危険に見舞われている。例えば、受精卵を中国に4度も不正流出させて逮捕された事件が記憶に新しい。
このような状況に歯止めをかけるために、家畜遺伝資源不正競争防止法案が衆院に提出された。これは、和牛の精液や受精卵などを知的資源と位置づけ、流通規制等を強化する内容だ。
本法案では不正行為の類型が示され不正行為の内容が具体的に記され、民事・刑事双方における罰則も明示されている。本法案の具体的な内容や施行により生じるメリットなどを解説する。
家畜遺伝資源は、長年にわたる改良により付加価値が高まり、知的財産としての価値を持つように変化した。しかし、性質上培養して増殖させることが可能なため、再生産が容易である。
窃盗や持ち出しなどによって、ひとたび家畜遺伝資源が流出してしまえば、我が国の畜産業は大打撃を被る危険も高い。このような点を考慮し、家畜遺伝資源に関する不正行為を取り締まる必要に迫られ本法案が誕生した。本法案では、まず家畜遺伝資源に関する不正行為を以下の通り具体化している。
不正競争行為の定義
※1:取得時に不正行為を知っていた、もしくは重過失により知らなかった転得者(第三者から取得した人)が家畜遺伝資源を使用、譲渡、引き渡し、輸出することも不正競争行為とされる。
対象は、家畜遺伝資源の使用によって生じた派生物にも及ぶ。例えば、受精卵や家畜本体についても不正取得や不正領得行為は禁じられる。
まとめると、家畜遺伝資源を不正に取得・利用した場合、刑事罰や民事上の処罰が下ることになるのだ。
悪質なケースに該当する違反行為をした場合、違反行為を行った者に対し、10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金を課す。(併科もあり)
また、上記で解説した秘密保持命令に違反した者に対しては、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、もしくはこれを併科とする。さらに、法人の代表者や従業員、使用者が、法人等の業務においてこの法案で規定する違反行為をした場合、行為者のほか、法人にも3億円以下の罰金刑も課す。
不正行為の被害に遭ったり、被害に遭う危険性のある事業者に対し、民事上の救済措置を整備する。具体的には、以下の通りだ。
また、損害賠償額の推定ルールも規定。例えば、家畜の譲渡であれば「譲渡した家畜の数量×家畜遺伝資源についてその封入される容器一個当たりの利益の額」を損害賠償額と推定できる。
さらに、裁判所は、当事者に対して当該侵害行為の立証のために必要な書類を提出させる権限を有するとしている。
裁判所は、不正競争における営業上の利益に関する訴訟において、訴訟の当事者に対して「当該営業秘密を当該訴訟以外で使用しない」「開示の命令を受けた者以外には開示してはいけない」と命じることが可能になる。また、公開の審判で営業秘密が明かされることで事業継続が難しくなると裁判官全員一致で認めた場合、尋問を公開しないことも可能とする。
つまり、訴訟となった場合、審理の過程で独自のノウハウなど業務遂行上重要な秘密が外部に漏れる危険があるので、その場合は当事者に対して秘密保持命令を出したり、裁判を非公開にできるという内容だ。
本法案が成立すれば、家畜遺伝資源の流出を止める効果を持つ法律がはじめて誕生となる。昨年、和牛の受精卵などを冷凍保存して中国に持ち出そうとした事件が起きたが、流出自体を止める法律が無かったため、家畜伝染予防法の不正輸出の規定を使用した。
海外への家畜遺伝資源流出が懸念される中、流出の抑止力を保つためには、罰則も定めた法律が必要だ。本法案が施行されれば犯行グループも、うかつな行動を慎むようになるだろう。
家畜遺伝資源不正競争防止法案により、遺伝資源の保護が進むと見られる。指止請求や損害賠償、刑事罰の適用など具体的な罰則規定が設けられるためだ。本法案に関する意見をお持ちの方は、ぜひ賛成・反対のボタンを押していただきたい。
<参考リンク>
@westman
2020/11/04
種苗法に比べると反対要素がない法案ですね。
まだ反対意見が投稿されていません。
@westman
2020/11/04
種苗法に比べると反対要素がない法案ですね。
議案件名 : | 家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律案 |
提出国会回次 : | 201 |
議案番号 : | 36 |
議案種類 : | 閣法 |
提出者 : | 内閣 |
提出日 : | 2020年3月3日 |
公布日 : | |
法律番号 : |