水産物の密漁の増加と資源の減少を食い止めるための、流通過程での監視システムの設置

特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律案

賛成 (6)
反対 ()

提出者 :内閣

私たちが日ごろ食べている水産物の中には、ハマグリ、ナマコなど海岸線の浅い海域に生息していて、素人でも簡単に採取・捕獲できるものがある。

農林水産省は、違法に採捕されやすい水産物を密漁現場で取り締まることに限界があり、いったん流通してしまうと合法的に採捕されたものと区別がつかない、という問題を解決するためにこの法律案を提出した。

法律案の骨子は、合法的に採捕された水産物に漁獲番号を付けて、すべての流通過程でその番号を共有し、取引の記録を残すことにある。つまり、漁獲番号や取引記録のないものを違法と見なして密漁物の流通を防ぎ、枯渇する恐れがある資源を保護するとともに漁業者の権利を守ろうとするものだ。

法律案の概要

この法案の目的は、ハマグリ、アワビ、ナマコ、イセエビなど、違法かつ過剰に採捕されやすい水産物の流通を防ぐことで、水産資源の持続的利用を維持し、漁業者の経営を守ることにある。

そのための施策は次の通り。

  1. 漁業者の届出と漁獲番号の受領 特定第一種水産動植物(国内で違法かつ過剰な採捕が行われるおそれが大きい魚種)を採捕する漁業者はその旨を行政機関に届け出て、届け出の際に漁獲番号を受け取る。

  2. 情報の伝達 届出採捕者、一次買受業者、流通業者、加工業者は、漁獲物の名称と漁獲番号を事業者間で伝達しなければならない。

  3. 取引記録の作成・保存 特定第一種水産動植物等取扱事業者は売買に際して、漁獲物の名称、重量(数量)、年月日、相手方の氏名、漁獲番号を記した取引記録を作成・保存しなければならない。

  4. 輸出の規制 特定第一種水産動植物等取扱事業者は、国が発行する適法漁獲等証明書を添付してあるものでなければ、輸出してはならない。

  5. 輸入の規制 国際的にIUU(違法・無報告・無規制)漁業のおそれの大きい魚種を特定第二種水産動植物とし、適法に漁獲されたことを示す外国の政府機関発行の証明書を添付してあるものでなければ、輸入してはならないこととする。


法案の提出背景 ~密漁件数の増加と漁獲量の減少~

この法案が提出された背景には、近年の密漁摘発件数の増加と、漁獲量の減少がある。 水産庁の資料によると、漁業者による密漁の検挙件数(青線)が減少傾向にあるのに反して、漁業者以外の密漁(赤線)は増加傾向にある。

出典:水産庁資料

また、下のグラフは、ナマコとアワビの密漁件数と漁獲量の推移を表したものだ。両者に100%の因果関係があるとは言えないが、密漁件数の増加にともなって漁獲量は減少している。

出典:水産庁資料


罰則規定

この法律に違反したものには下記の罰則が科せられる。

  • 特定水産動植物の採捕禁止違反 3年以下の懲役 又は 3,000万円以下の罰金 【対象行為】 許可、漁業権などに基づかずに特定水産動植物を採捕

  • 密漁品流通 3年以下の懲役 又は 3,000万円以下の罰金 【対象行為】 密漁した特定水産動植物又はその製品を、情を知って運搬、保管、取得、処分の媒介・あっせん

  • 無許可操業等の罪の罰則引上げ 許可を受けずに許可対象となる漁業(例:潜水器漁業、底びき網漁業など)を営んだ者に対して適用される 【改 正 前】3年以下の懲役 又は 200万円以下の罰金 【改 正 後】3年以下の懲役 又は 300万円以下の罰金

  • 漁業権侵害の罪の罰則を引上げ 漁業権の対象となる水産動植物(例:サザエ、イセエビなど)を権限なく採捕した者に対して適用される。 【改 正 前】20万円以下の罰金 【改 正 後】100万円以下の罰金


まとめ

水産物密漁の取り締まりには、警察、海上保安庁、自治体、漁業組合などが当たっているが、違反者に犯罪意識が希薄なケースも多く、現場での摘発には限界がある。今回の法案は、適法な漁獲物に「漁獲番号」をつけて流通過程で監視することによって密漁を減らそうとするものだ。関係業者には手続きや記録の管理などで事務負担が加わることになるが、持続可能な漁業を維持するためにはやむを得ないだろう。

最新の賛成コメント

@ichi369

2021/04/28

犯罪意識が希薄というのが最大の問題点のように感じる。法整備をして、周知徹底することで、密漁が減少することに期待したい。また、悪質な業者を排除できる点も良いと思う。

最新の反対コメント

まだ反対意見が投稿されていません。

すべてのコメント

@ichi369

2021/04/28

犯罪意識が希薄というのが最大の問題点のように感じる。法整備をして、周知徹底することで、密漁が減少することに期待したい。また、悪質な業者を排除できる点も良いと思う。

@restog

2020/12/13

漁業従事者の所得を守るためにも、早急にこうした対策をしていくことは重要だと思う。具体的な方策が提案されていることが良いと思った。

@TONOさん3号

2020/12/11

ただでさえ漁獲量が減っている中漁業従事者の苦労は計り知れない。何らかの規制を強化することは必要と考えます。 最近でも自衛隊員が伊勢えびを密漁のニュースが出ていましたがみんな気軽にやってしまうようです。これを漁業を守る動きになればよいですね。

@だるばーど

2020/12/08

漁獲番号が取った人や流通経路の公的証明になることは、資源管理や違法漁業の締め出しに有効だと思います。すごく手間と施設整備がかかりそうですが、田舎の小さな漁協でもできるのでしょうか。ネット通販でも漁獲番号から生産地や流通をトレースできたら安心できるのにと思います。

@もも

2020/12/07

以前、勝手に貝が採られているシーンの映像をニュースを見かけました。あの様子を見ると、普通の取り締まりで対処できるとは到底思えないので、漁獲番号での管理に賛成です。素人が海産物を採ったり保存したりすると衛生的によくない場合もありそうですし、衛生状態の悪化も防げるのではないかと思います。まとめにも書かれている通り、漁師さんに事務負担が加わることになるので、番号を付ける作業を簡略化できる仕組みを作っていただきたいですね。

@なんたん

2020/12/05

漁獲番号は仕事を増やすことになり大変だが、あさりなどは大量に取ってる人をよく見かけます。私はダイビングをしてましたが、ダイバーがサザエやウニを取るらしく、地元漁師に嫌な顔をされてました。この法案で減るといいなと思います。

 詳細情報

議案件名 :特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律案 
提出国会回次 :203
議案番号 :4
議案種類 :閣法
提出者 : 内閣
提出日 :2020年10月30日
公布日 :
法律番号 :

関連コンテンツ