NHKとの受信契約が遅れた場合の割増金などを規定する「放送法の一部を改正する法律案」が、内閣から提出され、国会(第204回)で審議されています。
総務省は、2015年11月から「放送を巡る諸課題に関する検討会」の開催を続けています。その分科会での受信料の公平な負担等への問題意識に基づき、制度を整備する必要性が認められました。
加えて、インターネットによる動画配信等によって放送事業者の事業環境が苦しくなってきているところ、今後、事業を休止・廃止する事業者が生じる可能性があるため、制度を整備しておく必要もあります。こうしたことから、受信料の徴収や値下げに関する仕組みの導入や、放送の休止や廃止に関する規定を設けた改正法案が提出されるに至っています。
それでは、改正法案の概要をみていきましょう。
最初に、現時点におけるNHK受信料と支払率について確認しておきましょう。
衛星契約(地上波も視聴可) | 2,170円 |
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地上契約 | 1,225円 |
2019年度末 | 81.8% |
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2018年度末 | 81.2% |
受信料収入 | 6,714億円 |
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その他の事業収入 | 186億円 |
事業収入(全体) | 6,900億円 |
NHKの資料によると、推定支払率は8割程度、そしてNHKの収入のうち、実に97.3%が受信料収入となっています。
通常は、受信契約を締結し、その上で受信料を支払うことになります。 受信契約が締結されていない場合、NHKの訪問員が家庭を訪問し、受信機の有無等を聴取したうえで、契約を締結することもあります。契約を締結しなければならないことは、放送法第64条1項に規定されています。
受信契約を締結しない場合は、NHKが民事訴訟を提起します。受信契約締結に関する最高裁判所判決(2017年12月6日)では、受信契約を締結していない男性に対し、テレビを設置した日にさかのぼって受信料を支払うよう命じています。
契約を締結した後、支払いがない場合は、NHKの申立てにより簡易裁判所での「支払督促」を行ったうえで、強制執行や民事訴訟を行います。
受信料に関しては、種々の問題点が指摘されています。例えば、次のような点です。
改正法案では、「不当な理由により受信料の支払を免れた場合」や「正当な理由なしに定められた期限までに受信契約の申込みをしなかった場合」に、割増金を支払うことになります。
割増金は、NHKが定め、総務大臣の認可を得た金額です。支払いが滞った時点、あるいは定められた受信契約の期日からの割増金を支払う必要が生じます。
現在は、NHKの規約により、契約者に対してであれば、支払いに関して不正があった場合などに受信料の2倍の割増金を徴収することができることになっています。法改正により、割増金徴収の制度を未契約者に対しても拡大することなったわけです。
改正法案では、収支がプラスになる年度には、一定の額を「還元目的積立金」として積み立てることとしています。積立金は、受信料を引き下げるための資金に充当します。
なお、現時点で、NHKは、2023年度に衛星契約に限って受信料を引き下げ、衛星契約と地上契約の差額を縮小することを検討しています。地上契約のみの世帯は値下げの恩恵を受けることができません。差額を縮小し、衛星契約を増やしたいようにもみえてしまいます。
現行の放送法第64条第1項では、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備(中略)のみを設置した者については、この限りでない。」と規定されています。この条文は、「NHKの放送を受信できる受信設備があれば受信契約をしなければならないが、放送の受信を目的としない受信設備は例外となる」という分かりにくいものとなっています。
現実には、いくつかの裁判で受信契約の必要性が民事訴訟で争われてきています。いずれも、受信契約が必要である旨の判決となりました。その概要は次のとおりです。ワンセグ機能付きの携帯電話とカーナビについては、テレビを所有して受信契約を締結していれば、追加の受信料を支払う必要はありません。
ワンセグ機能付き携帯電話 | 契約締結が必要 | 2019年3月最高裁 |
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ワンセグ機能付きカーナビ | 契約締結が必要 | 2019年5月東京地裁 |
NHKを受信できないテレビ(注1) | 契約締結が必要 | 2021年4月東京高裁 |
注1:工具等を使用すれば視聴できるようになる
NHKは、民事訴訟に勝訴することで、受信料を徴収できる機器の範囲を広げてきています。こうした流れからみると、現在は、インターネットによる視聴ができる機器(パソコン等)があっても受信料は徴収されませんが、将来的に同時ネット配信が進めば、ネット接続されているパソコン、携帯電話等を所有している場合には、受信料を徴収されるようになるかもしれません。
今回の改正法案では、上記の他にも、次のような改正がなされます。
注2:基幹放送とは、「電波法の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数の電波を使用する放送」(放送法第2条第2号)。具体的には、地上波テレビ、BS、110度CSなど。
メディアの報道では、「受信料徴収強化の前にすべきことがあるのではないか」という意見が目に入ります。
肥大化してしまった事業のスリム化、1213億円の内部留保など、受信料未払いの罰則強化よりも先に手を入れるべき問題が残されています。人口が減少し、テレビ離れが加速する若者が多い中、受信料頼みの経営体質に不信感を持つ視聴者は少なくないでしょう。
受信料負担の公平化は大切です。現に、2割近くの世帯では受信料を払っていません。 だからといって、いきなり割増金という強権的な制度を作ることには疑問を感じざるをえません。
NHKの繰越剰余金は、2019年度決算で1,213億円にのぼります。さらに、日経新聞の報道によると、2020年度末には1,450億円となる見込みです。この余剰金の原資の大部分は国民の受信料です。
NHKは、余剰金の一部等から700億円を捻出して受信料の値下げを検討していると読売新聞が報道していますが、余剰金の一部ではなく大部分を使った大胆な受信料の値下げを、割増金の導入よりも先に行うべきではないでしょうか。
そのうえで、国民(特に若年層)のテレビ視聴時間が減少し、受信料が割高だと感じる人が多い中で、どのような形の負担や聴取方法が公正なのか、更には、あるべき公共放送の姿とはどんなものなのかといったことなどを広く議論し、国民が納得する形での結論を見出していくべきだと考えますが、みなさんはどうお考えでしょうか。ぜひ、コメントや投票でご意見をお聞かせください。
<参考リンク>
@okasigenn
2021/12/27
@maru
2023/03/28
@maru
2023/03/28
@okasigenn
2021/12/27
@restog
2021/05/12
そもそも、「何をもってNHKの受信料とするのか」という点が曖昧で範囲も広いところがいけないと思う。 NHKやその他の放送を視聴しないテレビ保有者までもが受信料を払わなければいけないというのはおかしい。 一方で、NHKを視聴しているにも関わらず受信料を払っていないということが起きるのを防止するために、NHKの視聴を確認する機器の装着を義務付けるのは、色々と大掛かりな準備が必要になることから、現実的ではないと思う。かと言って、民放のように受信料がなくなると、ドキュメンタリーなどの質の高さが失われてしまう。 難しい問題だが、長い期間をかけて向き合っていく問題であって、早急に受信料の徴収を強化すれば済むという問題ではないことは自明だと感じる。
@だるばーど
2021/04/28
2020年度末の時点で余剰金が1,450億円もあることは、今までの受信料が適切な金額に設定されていなかったことの表れではないでしょうか。徴収の強化より、大胆な値下げを検討して欲しいです。
@もも
2021/04/23
割増金の導入を検討するよりも、受信料の値下げを先に行ってほしいです。テレビをほとんど見ない層にとってはどうしても高すぎると思います。ただでさえテレビを見る時間が減ってきている時代、もう少し視聴者に優しくしていかないと、テレビ自体を家に置かない人なども増えて逆効果になるのでは。
@なんたん
2021/04/23
CMがあっていいから受信料金を無くして欲しいです。地上波ならしょうがないけれど、地区でケーブルテレビに入らざるを得なくなりそこでBSが見れるからとBS料金を取られてます。 入らない人は必ずいるし、今時入るのが義務というのがおかしいです。
@TONOさん3号
2021/04/22
正しい公正な報道をして頂けるのであれば協力はしますが今の姿勢は信用できないです。受信料の徴収(訪問)も委託していると思いますが社員で訪問を行って実情を把握して欲しい。余剰金があるのであればそういう面でお金を使って頂きたい。
@ichi369
2021/04/21
法律によって規制するという体制が、すでに時代に合っていない。やはり、受信料ではなく、見たい人が契約する形に移行すべきだと思う。それが健全な姿で、そうしなければコスト意識や、より良いものを作るという自浄作用が働かない。
@kimuu
2021/04/21
1500憶円にも上る剰余金を抱えているなんて、そもそも受信料が高すぎるという証拠じゃないでしょうか。経営改革をすれば、受信料の値引きが1割といわず半額以下になるのでは?
議案件名 : | 放送法の一部を改正する法律案 |
提出国会回次 : | 204 |
議案番号 : | 39 |
議案種類 : | 閣法 |
提出者 : | 内閣 |
提出日 : | 2021年2月26日 |
公布日 : | |
法律番号 : |