「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」の審議が、国会(第204回)で始まっています。
この法案の目玉は、男性の育児休業取得促進です。そのために、「出生時育児休業」という制度を創設します。
今回の法改正は、安倍政権時代から続く「全世代型社会保障改革」(「高齢者中心の給付・現役世代中心の負担」という構造の見直し)の中の施策の一つです。2020年12月には、全世代型社会保障検討会議が、最終報告「全世代型社会保障改革の方針」をまとめ、この方針が閣議決定されました。
この方針では、少子化対策の推進などが示され、具体的には、不妊治療の保険適用、待機児童の解消、男性の育児休業取得促進が課題とされました。そして、今回の育児休業に関する法律改正案が提出されることになったのです。
今回は、本法案の詳しい内容を解説していきます。
厚生労働省が公開した「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」によると、男性の育児休業取得率は以下の通りです。
出典:厚生労働省
取得率は年々上昇していますが、2019年時点では10%にも届きません。他方、女性の育休取得率はここ10年以上、80%を超えています。
育児休業取得がなかなか進まないのは、以下のような理由があります。
同資料によると男性正社員が出産・育児に関する休暇・休業を取得しなかった理由として多いものは、次の通りです。数字は、回答した男性正社員の割合です。
- 会社で制度が整備されていなかった 23.4%
- 収入を減らしたくなかった 22.6%
- 取得しづらい雰囲気があった 21.8%
会社に育児休業制度が整っていなくても、育児休業の取得は法律で定められた権利であり、取得することができます。ただ、会社にない制度を利用するのをためらってしまう人は多いのかもしれません。
経済的な不安がネックになっていることも分かります。育児休業時には国から育児休業給付金が支給されます。しかし、給付金の額は、休業前賃金の67%と定められているので、どうしても収入源は避けられません。
また、男性社員が快く、育児休業を取得できるよう会社全体で取得を勧めてほしいものです。しかし、厚生労働省の資料によると、男性正社員に対して、人事や上司からに産前産後休業や育児休業の取得を勧める働きかけがあった会社は、2018年度時点でたったの約6.8%でした。
さらに、これ以外にも育児休業制度が柔軟でないため取得しづらいことが考えられます。
育児休業を取得するためには、1カ月前までに申請する必要があります。しかし、子どもは出産予定日どおりに生まれるわけではありません。生まれたものの、育児休業に入れないという事態が生じるのです。変更申請は可能ですが、1回のみと定められています。
また、非正規社員の育児休業取得のハードルが高いことも問題です。申請するには、その時点で1年以上同一の事業所で雇用されている必要があるため、一部の非正規社員しか取得できない状況です。
改正法案では、男性の育児休業取得促進等のため、新たに「出生時育児休業」という制度を設けます。概要は、以下のとおりです。
- 休業の2週間前までに申請する。
- 生後8週間以内に最長4週間(28日)まで取得できる。
- 2回に分割して取得できる。
- 休業中の就労も可能となる(労使協定を締結しており、かつ、事業者と合意している場合)
- 休業前賃金の67%を出生時育児休業給付金として支給
申請が、休業の2週間前までとなります。現在、1カ月前までとなっていて産前の状況変化に対応しにくい部分がありますが、この点が改善されています。
分割取得や、状況によっては休業中の就労も可能であり、仕事をしている男性にとって、取得しやすい制度なのではではないでしょうか。
他方、給付金は現行の育児休業時に給付される額と同じ、休業前賃金の67%と規定されています。育児休業の取得をためらう理由の一つに、収入が減ってしまうから、というものがありましたが、今回は同額の67%に留まりました。朝日新聞によると、本法法案の制度設計を行うにあたって、この給付金の額を引き上げることが論点になったものの、今回は見送られたとのことです。
現在の育児休業制度よりも取得しやすいものにするために、改正されます。改正されるポイントは以下の通りです。
現行 | 改正案 | |
---|---|---|
契約社員の育休申請条件 | ①同じ雇用主に1年以上雇用されている ②子が1歳6か月に達するまでに労働契約が満了することが明らかでない ①、②を満たす場合に限り、申請可 |
②のみ満たせば申請可 |
分割取得 (子が満一歳までの) |
なし | 2回に分割可 |
企業による従業員に対する働きかけ |
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育児休業給付金の支給 | 当初6カ月は賃金の67% (上限あり) 7カ月以降は50% (上限在り) |
当初6カ月は賃金の67% (上限あり) 7カ月以降は50% (上限在り) ※同じ子どもに対する3回以上の育児休業を取得した場合、給付金なし |
現在の育児休業制度が改正され、分割取得が可能になると、男性は先に説明した新たな「出生時育児休業」と合わせ、計4回の取得が可能となります。
同じ子どもについて3回以上の育児休業を取得すると、3回目以後の育児休業給付金が支給されません。育児休業の取得を容易にするためには、経済的に手厚い保障も大切ですが、支給額はそのままで、支給回数に制限を設けています。
常勤の雇用者が1000人を超える企業は、少なくとも年1回、育児休業の取得状況を公表することが義務づけられます。公表により、事業主として、従業員の育児休業取得を促すことが期待されます。
男性の育児休業取得を促進することで、男性の子育てへの関与や関心を強め、子どもを養育しやすい状況を整備することは、少子化対策において、重要なことの一つです。
今回の改正案では、「出生時育児休業」を創設するなど、男性が育児休業を取得しやすい環境の整備に努めています。また、契約社員が休業を申請しやすくなります。また、社員に対し個別に育児休業等に関する説明と意向確認することを義務化し、育児休業の分割取得を可能とするなど、育児休業を取得しやすくする工夫も盛り込まれています。
さらに、一定規模を超える事業主に義務づけている最低年1回の育児休業取得状況公表も、育児休業取得を促す効果があるでしょう。
こうした工夫により、育児休業制度が使いやすいものとなり、男性の育児休業取得率が向上することが期待されます。ある程度向上していけば、育児休業を取得するのが当然だという職場の雰囲気も生まれ、さらに取得が進む可能性も高いでしょう。
ただし、収入が減ることが、育児休業を取得しない大きな要因の一つとなっています。この点の議論も深め、経済的な不安もなく、子育てを行っていける環境を整備することが望まれます。
@restog
2021/04/03
法改正で男性が育休を取りやすくなるのは良いことだと思う。法改正が行われても、社会や職場の認識が変わらなければ男性の育休取得状況は変わらないと思うので、しっかりとした周知を行うことも政府の役割だと感じた。
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@restog
2021/04/03
法改正で男性が育休を取りやすくなるのは良いことだと思う。法改正が行われても、社会や職場の認識が変わらなければ男性の育休取得状況は変わらないと思うので、しっかりとした周知を行うことも政府の役割だと感じた。
@rolling893
2021/03/29
育休が取りやすくなるのは賛成です。出産に伴い上の子の送迎や世話といった事も生じるため、時短勤務も需要があると思います。時短勤務に対しても収入減とならないような措置があると男性の参画が進みやすいと思います。
@m_kmtm@0101
2021/03/29
子育て世代は、働き盛りでもある世代。育休取得によって収入が減るのは家計に大きな負担を与える。育休取得の呼びかけだけでなく、収入減についても対策をとってほしい。
@もも
2021/03/27
賛成します。勤めていた会社(女性の育休は浸透している環境)でも、男性が育休を取ったというのは聞いたことがないので、現状は相当取りづらいのでしょう。制度の改正は、会社にとっても男性社員にとっても、育休について考えるいいきっかけになると思います。
@なんたん
2021/03/26
男性が休みを取りやすくなり、本当に育児に参加してくれるならありがたいけど、休んで何もしなくて収入減るなら妻としては取って欲しくない。男性も取得するなら報告書作成義務とかあるといいと思います。
@TONOさん3号
2021/03/26
今の若い人たちは気兼ねなく取ると思う。 世代交代して行けば普通のことになって来ると思います。 今のトップ下にいる人たちの一部に男が何故?って考えの人がいると思うのでその方たちへ無理矢理でもよいから教育することが必要。
@ichi369
2021/03/25
制度改正については賛成です。しかしながら、これで促進されるかという点については、まだまだ不十分と感じます。従業員と雇用者ともに、育休制度を利用することでメリットがある制度、雰囲気作りを目指して欲しいと思います。
@だるばーど
2021/03/25
育児休業制度が使いやすくなる工夫がたくさん盛り込まれていて賛成です。男性も育児休暇を取って当然、従業員が育児休暇を取得しない会社はまれという社会的雰囲気の醸成に繋がることを期待します。ノルウェーでは父親が育児休暇を取らなければ休暇や給付金をもらう権利が消滅してしまう制度があったり、育児休暇中の給付金は給料の80~100%だそうです。日本もそういう子育てに優しい社会になるといいなと思います。
議案件名 : | 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案 |
提出国会回次 : | 204 |
議案番号 : | 42 |
議案種類 : | 閣法 |
提出者 : | 内閣 |
提出日 : | 2021年2月26日 |
公布日 : | |
法律番号 : |