我が国の食料自給率が低いことが国民の共通認識になってから久しいが、種苗法の改正法案が注目を浴びる中で、食料自給率についての問題意識がより高まることが期待される。
農林水産省が、自ら「増やせ!国産ニワトリ」と提唱していることからもわかるように、実はニワトリの国産化比率を上げるべきとの声も高い。
宮沢由佳議員の質問を通じて、ニワトリをめぐる輸入の実態について見ていくこととしたい。
「ニワトリの国産化」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。日本の養鶏農家が国内で飼育していれば、それは国産のニワトリになるのでは?と考える読者も多いだろう。だが話はそれほど単純ではないようだ。
養鶏農家が飼育するニワトリは通常「コマーシャル鶏」と言われるが、問題は「コマーシャル鶏」の親がどこから来たのかである。「コマーシャル鶏の親」を「種鶏」、「種鶏」の親を「原種鶏」と言う。そして、「種鶏」や「原種鶏」を適切に組み合わせることによって(これをハイブリッド効果という)、肉質のよい「コマーシャル鶏」の生産が可能となる。
※以下、「種鶏」と記載しますが、実際には「原種鶏」も含みます。
日本では「種鶏」を海外から輸入しているが、海外の育種会社は「種鶏」を販売する際は雄か雌の一方しか販売しないので、国内で「種鶏」を再生産することはできない。 また、ハイブリッド効果は一代限りのものなので、コマーシャル鶏間で交配をさせても良質な製品(ニワトリ)にはならない。
つまり、良質な「コマーシャル鶏」を生産し続けるためには、「種鶏」を海外から常に輸入し続けない仕組みになっている。農林水産省が声を上げて「国産ニワトリ」を増やそうと働きかけている理由はここにある訳だ。
議員によれば、「種鶏」は、ほぼ100%が輸入とのことである。では、「種鶏」を国産に置き換えることはなぜ困難なのだろうか。
答弁:輸入された「種鶏」で生産されたニワトリは、国産の「種鶏」で生産されたものよりも、必要な飼料の量が少なく、出荷に適した体重に達する日数が短いなど、生産性が高い。
外国産の「種鶏」の方が、より少ないコストで良質のニワトリが生産できることが、国産の「種鶏」が普及しない原因の一つのようだ。 品質については置いておくとしても、よく映像でも紹介される海外の大規模生産ニワトリ工場?を思い起こしてみると、コストでは太刀打ちできなそうなことは安易に想像できる。 なお、このような問題は「種鶏」に限った話ではなく、種苗についても同様のことが指摘できる。
「種鶏」のほぼ100%が輸入ということは先に紹介した通りだが、では「種鶏」の輸入が「鶏卵」と「鶏肉」の食料自給率にどのように影響しているのだろうか。「種鶏」の輸入を考慮した場合の、「鶏卵」と「鶏肉」の自給率についての質問への答弁も見てみよう。
答弁:鶏卵の自給率は96%、鶏肉は64%(ともに2018年度)である。「種鶏」の輸入を考慮した場合の自給率については、鶏種の総量に占める輸入鶏種の割合に関する統計がなく、政府では把握していない。
鶏卵の自給率が極めて高いのは一般的な感覚とそれ程はずれていないところだろうか。しかし、鶏卵の親である「鶏種」がどこまで国産なのかは回答を得られていない。そもそも、「鶏種」の国産比率を上げようという政府(農水省)が、「鶏種の総量に占める輸入鶏種の割合に関する統計」を持っていない、というのは違和感しかないだろう。
議員の質問は「鶏種」の輸入が停止された場合を想定しての内容に移っていく。編集部が調べたところ、「鶏種」の輸入先は主に、アメリカ、ドイツ、カナダなどとなっているので、この質問はそれら輸出国との対立というよりは、鳥インフルエンザの拡大などを想定した質問だ。
鳥インフルエンザへの対応として、政府は以下のように述べ、「鶏種」を長期間繁殖に用いることや、産地の多角化などの措置を輸入業者に対して求めている指導を行っていると回答している。
答弁:種鶏等を繁殖に使用する期間の延長による鶏卵及び鶏肉の生産体制の維持や、輸入先国の変更による代替輸入等を行うことができる体制の整備について指導や助言を行っている。
「鶏種」は「種子」とは異なり、在庫しておくことはできない。「種子」については、輸入比率が9割を超えるとのことだが、種苗業者が1年程度の在庫を常に保管しているため、輸入が途絶えたとしても最低1年間はなんとかなるというのが政府の見解だ。 しかし、「鶏種」については「繁殖に用いる期間の延長」というできるだけ長く出産させるという、やや残酷ともとれる内容になっているが、「鶏種」を在庫できるわけではないので、それも致し方ないところ。
国内の鶏卵や鶏肉の生産業者にたいして生産性が劣る国産の「鶏種」の利用を強いるわけにもいかないので、政府の答弁にあるように、備蓄の確保、輸入先の多様化に加え、国内生産の確保が必要になるのだが、国内生産については「生産性が劣っている」ということなので、直ぐに対応をとることは難しいのだろう。答弁の中でも、具体的な施策には触れられていないことから、農水省の苦悩がうかがえる。
答弁:国内での生産の確保や輸入先国の多様化、備蓄の確保のほか、農畜産物の生産性向上などの施策を組み合わせることにより、これらの安定的な調達を確保する必要がある。
国産鶏というと、ブランド化しているような風潮が無きにしもあらずだが、実際に大量消費されている鶏はそのほとんどが輸入されている訳で、何らかの事情で輸入がストップすると、日本の食卓事情へのインパクトも大きそうである。そういった意味でも、ある程度の自給率を、種(この場合は「種鶏」)レベルで高めていくことは、やはり重要な課題なのではないだろうか。
併せて、種苗におけるF1種のような状況が、ニワトリにも起きていることについては、あまり国民の理解が進んでいないのではないかと感じる。常に企業から、「種」を買い続けることで成り立っている我々の生活の脆弱性について、もう一度よく考えるべきなのだろう。
@TONOさん3号
2021/06/01
国産というだけで希少価値とまでは言わないが高価なものという印象を持っている。本当の価値を伴った高級品なら需要はたくさんあるはず。 その方向で国産を守っていく。安い肉は輸入に頼る。2方向で両立できればよいのかなと考える。
@restog
2021/05/22
鳥インフルエンザなどが起こった場合、鶏肉の価格が高騰化してしまうので、やはり国産の種鶏を増やす必要があると感じた。一方で、国産鶏の過剰なブランド化による価格高騰も避けなければいけない。
@ichi369
2021/04/30
経営者がコスト優先で輸入に頼るのは仕方がないことなのだから、政府が将来の食料自給率をどうすべきなのか方針を明確にして、補助金等で国産へ舵を切るようにしなければ、国民が飢えることになってしまう。問題が起こってから対応するのは遅すぎる。
@だるばーど
2020/12/24
もし日本に種鶏が輸出されなくなった場合の影響が心配です。生産性に劣らない国産の種鶏の育成を国としてと戦略的に取り組み、業者を資金面で支援することはできないのでしょうか。
@m_kmtm@0101
2020/11/25
日本で飼育されている鶏もほとんどが輸入だとは知らなかった。
@rolling893
2020/11/16
国内のブランド鶏業者は自分たちの種鶏を確保する努力をした方がいいと思います。 その分価格に乗せても、味がよければ一定のニーズはあるんじゃないかな。
@Beagle
2020/11/15
「生産性に劣っている」の一言で片づけられているが、どれくらい劣っているのかがよくわかりません。国産の優秀な「種」を国主導で作成したらどうですか。
@369c
2020/10/21
ヴィーガンが増えています。クリーンミートの開発へ方向転換するという道もあるのではないか。 畜産に関する質疑はもっと活発にしていくべきだ。
@kimuu
2020/08/05
知らなかった...鶏肉さえもこんな状況になってるとは。安さや生産性を求めすぎると歪みを感じる。
質問主意書名 : | 食料の安定供給に関する質問主意書 |
提出先 : | 参議院 |
提出国会回次 : | 201 |
提出番号 : | 161 |
提出日 : | 2020年6月17日 |
転送日 : | 2020年6月17日 |
答弁書受領日 : | 2020年6月30日 |