コロナ渦でも頻発する都心ルートによる羽田空港への着陸

羽田空港の新飛行ルートに関する質問主意書

提出議員 : 山添 拓

最近、都心の上空を飛ぶ飛行機が近く見えると思った人はどれくらいいるだろうか。報道などでお気づきの読者が多いとは思うが、羽田空港は2020年3月29日から新ルートで運航を開始している。これは本来開催予定であった東京オリンピックにおける国際便の発着増加を見越しての施策である。

この新ルートをめぐっては東京上空を通過することから騒音問題はもちろん、着陸角度が0.5度急になるなど安全対策についても議論になっている。

コロナウイルス、オリンピック中止という想定外の出来事を経てもなお「新ルート」が廃止されることはなかった。

今回の答弁は政府にどんな思惑があるのかを知る手助けになるだろう。

相次ぐ批判と「新ルート」の必要性への疑念

山添議員は、答弁の皮切りとして住民や自治体からの「新ルート」への批判が少なからずあることに言及している。

東京都や川崎市の住民計29人が東京地裁に新ルートの撤回を求める行政訴訟を提起したことや、品川区議会が2019年9月20日の決議で「早急かつ具体的にルートの再考および固定化を避ける取り組みを示し、実行に移すことを強く求める」との結論に至った経緯など例に挙げている。

さらには新型コロナウイルスの影響で国際線利用は9割減と、新ルートは運用開始以来上限便数による運用が一度も行われていないことも指摘した。

こうした住民の批判と政府の主張していた必要性がなくなりつつあることから、山添議員は新ルートにのみ依存する運航は中止すべきとし、質問を始めている。


「南風運用」の争点

南風と北風が多くみられる羽田空港では、風向きに合わせた2通りの滑走路の使い方がある。

そのうち、「新ルート」においていわゆる「南風運用」と呼ばれるものは都内上空を縦断することから批判の種になっている。

国土交通省はホームページ内の資料で特に騒音問題となりうる航空機の「南風運用」は運用全体の4割程度だとしている。

本格運用が始まった2020年3月29日以降でみると、4月は17日間(約57%)、5月は20日間(約64%)、6月は21日間(70%)と、頻度が多い。

ここで山添議員は7月と8月の「南風運用」の回数を確認し、全体の4割というのは現実的であるのかと質問している。

答弁: 羽田空港において、南風運用を行った日数は7月においては20日、8月においては23日である。

「南風運用」の割合が約4割との記載は、2018年までの3年間のデータに基づいており、新ルートの運用開始後における南風運用の割合の「見通し」をお示ししたものではない。いずれにせよ、ご指摘の「南風運用の比率」については、季節により変動するものであることから、新ルートの運用開始から6か月程度しか経過していない現時点では評価することが困難である。

ここには政府と山添議員との間で「4割」という表現に考えの違いがあったようだ。この数字はあくまで過去3年間の「南風運用」の割合である。

現在までの「新ルート」での「南風運用」が行われた回数は少ないとは言えない。いずれにせよ運用開始から1年も経たない状況では正確な情報を得ることは難しいだろう。


コロナと増便

やはり市民にとってはコロナと増便についての相関関係が気になるところだろう。緊急事態宣言が解除され、「GO to キャンペーン」が施作、国内に賑わいが戻りつつあるが海外への移動に関してはあまり芳しくない。

JALが公式発表した2020年4月度の国際線利用実績は前年比2%、つまり98%もの減少になっている。

山添議員は現在の状況をふまえ、新型コロナの収束の見通しも立たないなかで千葉県に限らず、新ルート下の関係自治体、議会、そして住民の意見を改めて聴取し、運用そのものを継続することの是非について再検討すべきであるとした。

答弁: 日本の国際競争力の強化、首都圏における騒音影響の分散化等のためには、新ルート運用は必要不可欠である。そのため「新ルートの運用を継続することの是非について再検討」することはしないが、引き続き、関係地域の地方公共団体及び住民の方々からのご意見を伺いつつ騒音対策や落下物対策を実施する。


新ルートの「固定化」回避をめぐって

新ルートの騒音問題などから各自治体から経路の「固定化」を回避する要望の声が上がっている。天候や技術革新に応じて柔軟に経路を変更できるようにすべき、という考えが背景にある。

それらを受けて国土交通省は2020年6月に「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」(以下「検討会」という)を設置し、航空機の管理や技術革新によってルートの固定化を避けるように検討するとした。

検討会は今年度中にメリット・デメリットを含め新たな案を出す計画である。そこで第2回以降の検討会の開催日程や結論や見通し、また今後議題になるであろうテーマなどを確認したいと山添議員は述べた。政府の回答は以下の通りであった。

答弁: 検討会は、最近の航空管制及び航空機の技術革新の進展を踏まえ、騒音影響の軽減、固定化回避等の観点から、新経路の見直しが可能な策がないかについて技術的観点から検討を行うものである。

現在は、第1回検討会における議論を踏まえ、国土交通省が海外空港における事例調査等をもとに考えられる技術的選択肢の思案をしている。お尋ねの「第二回以降の」「開催計画」については、当該事例調査等の状況を踏まえて決定することとしており、現時点では未定である。

山添議員によれば、新ルートがもたらす騒音、落下物また事故の危険など住民への配慮をするならば、都心上空を低空で飛行する離着陸ルートそのものを見直すべきではないか、とのことだ。

また検討会における「固定化回避」の定義に、減便や航路変更は含まれているのや、新型コロナウイルスの影響を考慮し、「新ルート」自体の見直しを図るべきではないかなど、追及している。

答弁: お尋ねの「新経路の固定化回避」とは、2014年7月8日の「首都圏航空機能強化技術検討小委員会の中間とりまとめ」において羽田空港の航空需要の増大等に対応するための方策としていわゆる「新ルート」が取りまとめられたことをふまえ、見直し後の滑走路の運用方法を前提としたうえで新ルートの将来的な固定化を回避することを意味しており、検討会において「新飛行ルートの滑走路運用及び発着便数」を「再検討」することは考えていない。

すでに述べたように政府は品川区など周辺自治体の要請をうけて、最新のテクノロジーを使って何ができるか考えるためこの検討会を開いた。 答弁を見る限り政府は「新ルール」再検討や廃止を考えてはいない、と受け取っていいだろう。


避けられない増便、裏には何が

政府の回答をみると、羽田空港の新ルート運航が必要不可欠であるとの主張は揺らぐことがない。

検討会も開催されているが、「新ルート」をすぐに変更する、廃止するといったものではなくより良い選択肢や方法はないのかを専門家とともに長期的に検討することが目的であることもわかった。

「南風運用」については今後も争点になりそうだが、残念ながら現在の時点ではもとになる情報量が少なくその妥当性を推し量るのは難しい。

しかし政府はなぜここまで「新ルート」に固執するのか。なにか忖度や利権が関係しているのだろうか。来年以降の動向にも注目したい。


@rolling893

2020/11/16

従来ルート上の住人は騒音等を織り込み済みで家を建てただろうが、 新ルートの住人はそうじゃないだろう。 それ以外に問題点はあるのかな。

@Beagle

2020/11/15

新ルートがどれほど問題なのかもよくわかりません。

@westman

2020/10/28

 詳細情報

質問主意書名 :羽田空港の新飛行ルートに関する質問主意書 
提出先 :参議院
提出国会回次 :202
提出番号 :16
提出日 :2020年9月18日
転送日 :2020年9月18日
答弁書受領日 :2020年10月2日

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