政治家の街頭演説には許可が必要?山本太郎氏の「演説中止」騒動を例に考える

政治活動の自由と道路使用許可に関する質問主意書

出典:れいわ新選組公式YouTubeチャンネル

提出議員 : 熊谷 裕人

大阪都構想の住民投票が告示された2020年10月12日、大阪市中央区の戎橋(えびすばし)にて街頭演説を行っていたれいわ新撰組の山本太郎代表のもとに、大阪府警の南署署員が駆け付け、演説の中止を要求。山本氏は「中止するその根拠を教えて下さい」など、応酬を繰り広げ、あたりは騒然となった。

警察側は中止要請に関して「道路使用許可が下りていないのに強行したので中止を求めた」と説明する一方、れいわ新選組側は「今回の街頭演説には道路使用許可を必要とする法的根拠がない」と主張し、意見は対立している。両者の主張の根拠は、共に道路交通法第77条だ。

今回の騒動を受け質問主意書では、道路交通法77条における道路等での政治活動について、政府の見解を追求。政府は「街頭演説には道路使用許可が必要」との見解を示したものの、「道路使用規制における具体的な指針を設けるべき」という意見に対しては具体的な回答を避けた。質問主意書の詳しい内容を以下で解説していく。

街頭演説には警察署長の「許可」が必要なのか

道路交通法第77条第1項で例示されている以下の項目に該当する場合には、警察署長による許可が必要とされている。

  • 道路において工事もしくは作業するもの
  • 道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする行為
  • 道路に石碑、銅像、広告版、アーチその他の工作物を設けようとするもの
  • 道路において祭礼行事、ロケーションをする等により人が集まるなど一般交通に著しい影響を及ぼすような行為

質問
街頭演説は、道路交通法第77条第1項が定める「所轄警察署長の許可が必要な行為」に該当しないと考えられる。政治活動を行うものが公道などで街頭演説をする際には、事前に道路使用許可を取得する必要はあるのか。それとも、必ずしも一律に使用許可の取得を求めていないのか。

答弁
警察庁においては道路における演説など人寄せをする行為は結果的に一般交通に影響を与える可能性があると考えている。したがって道路交通法第77条の「一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」の例示に当てはまり得るものとする。

以上のように答弁していることから、政府は街頭演説には許可申請が必要であるとしている。


許可/不許可の判断基準はなにか

道路の使用許可については警察署長の判断に委ねているのが現状だが、以下の3つの要点に該当する場合、所轄警察署長は必ず道路使用許可をしなければならないことが道路交通法第77条2項に定められている。

  • 交通の妨害となる恐れがないと認められるとき
  • 許可に付された条件に従えば交通の妨害となるおそれがなくなるとき
  • 交通の妨害となるおそれがあるが、公益上または慣習上やむを得ないとき

とあるが、ここで定める「交通の妨害」がどのような状態を意味するのかが曖昧で、明確な基準になっていないことが分かる。

さらに、街頭演説は、憲法第21条「表現の自由」で保障される活動であるため、道路交通法によって制限される可能性があるのであれば、道路交通法によって制約を受ける限界を検討しなければならない。政府が「規制の目的・手段」などをまとめた具体的な指針を明らかにする必要があるだろう。

質問
道路交通法によって政治活動の自由を制約するのであれば、法令の根拠に基づく「規制の目的・手段を具体的に検討した指針」を示すべきではないか。

答弁
「規制の手段・目的を具体的に検討した指針」の意味するところが明らかではないが、警察庁として道路使用許可に関する執務資料を各都道府県警察に配布している。

この返答では、具体的な指針を設けているのかどうかが分からず、どういったケースが許可/不許可に該当するのか予想することは難しい。


混雑していない戎橋での街頭演説は違反だったのか

報道によると、山本氏側は同月9日、大阪府警を訪れ、街頭演説のために許可申請を行ったという。しかし、警察側は「人通りが多く危ないため、戎橋の使用許可を出さないでほしい」という地元からの要望があるとの理由でこれを却下している。

当日、山本氏側は道路交通法第77条第1項にある警察署長の道路使用許可が必要な例示には該当しないと解釈し、演説を実行した。今年は、コロナウイルス感染拡大の影響で人通りはまばらで、以前のように、観光客でごった返すような状況になることは考えにくい。実際、動画に映っている演説中の戎橋は人通りがまばらで、通行人の妨げになっているようには見えなかった。

今回の答弁によると政府は、街頭演説には道路使用許可が必要であると明文化されてはいないものの、許可の取得が必要だと捉えている。それを踏まえると、れいわ新選組はルール違反だったということになる。 しかし、申請しても許可/不許可の判断は警察署長の裁量に委ねられる部分が大きく、どのケースなら許可されるのかどうかははっきりしていない。不当に却下された場合は、憲法が定める言論・表現の自由など最大限尊重されるべき権利の侵害に当たる可能性もある。


まとめ

山本氏の演説中止を巡る騒動は、動画と共にSNSで拡散され、非常に多くの注目を集めた。演説中止を求める警察とそれに対し法的根拠を問う山本氏のやりとりを見て、公権力による政治活動への妨害と捉える人、許可なしで演説を始めたら警告するのが警察の役目だと警察の対応を擁護する人など意見は様々だ。

今回の質問主意書における、「規制の手段・目的を具体的に検討し、示すべきである」という熊谷議員の問いに関して、具体的な返答がないことから、政府は許可/不許可の基準についてグレーなままにしておきたい理由があるのかもしれない。今後も同じようなトラブルが起きる可能性があるため、引き続き注目していきたい。


@カワウソーヤ

2021/04/06

おかしいと思うならなんで議員の時に改正に動かなかったのかね。単なるショーをしたいならテレビやユーチューブでやってくれ。

@TONOさん3号

2020/12/18

公共の場を使うのであれば基本許可が必要なのでは? 指示しない人の演説は騒音でしかないし、これからの世の中人を集めて何かをやるのは難しいし必要もないと思う。

@ichi369

2020/12/04

数値により規定できない事案に具体的な基準を設けることは、手続きが煩雑になって不便さが増すことや、抜け穴ができてしまう可能性が考えられる。管理責任を負う側の裁量に任せ、そこに不正や偏りがあるならば、責任者を追及すべきと考えます。

@rolling893

2020/12/01

明記されていない理由で妨げられると不満に思うのも理解できる。街頭演説は交通の支障になりうるので、許可が必要と規定すればいいと思う。

@もも

2020/12/01

山本氏に限らず、何かしらの街頭演説が通行を妨げていたならば、警察が注意したり中止を求めること自体はある程度当然のことだと思います。今の時期は、特にコロナウイルスが流行っているから密が起きたらよくないですし。でも、道路使用許可に関する指針がはっきりしていないのはおかしいですね。

 詳細情報

質問主意書名 :政治活動の自由と道路使用許可に関する質問主意書 
提出先 :参議院
提出国会回次 :203
提出番号 :6
提出日 :2020年10月28日
転送日 :2020年11月4日
答弁書受領日 :2020年11月10日

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