放課後等デイサービスの抱える課題とは?見直しが必要な問題点を整理

放課後等デイサービスに関する質問主意書

提出議員 : 丸山 穂高

障害がある児童・生徒を放課後や休日に預かり、療育する「放課後等デイサービス」に関して、NHKから国民を守る党の丸山穂高議員から質問主意書が提出された。
「放課後等デイサービス」は2012年に発足した新しい制度だが、丸山議員はこの制度に下記のような不備、不公平があることを指摘して、政府にその認識と対策を質問した。

  • 専門性の確保を目指し、職員配置の基準を狭めることへの懸念
  • 多くの問題を引き起こしている料金システム
  • 基本料金の設定に関わる、障害の程度の判定に公平性がない

これらの問題の具体的な内容と、政府がそれにどう答えたのかを見て行こう。

放課後等デイサービスとは

障害者支援と児童福祉に関わる「放課後等デイサービス」は、2012年にスタートした比較的新しい制度なので、耳になじみのない人も多いだろう。まず、このサービスの概要を確認しておこう。

「放課後等デイサービス」とは、6歳~18歳の障害のある児童・生徒が、放課後や夏休みなどに利用できる福祉サービスで「障害児の学童」とも言われる施設のこと。

要介護の高齢者が、ケアマネジャーの作成するケアプランに基づいて介護サービスを受けるように、このサービスで利用者は、「児童発達支援管理責任者」が作成する個別支援計画に基づいた日常生活の充実と自立支援のためのサービスを受けることができる。

放課後等デイサービスの発足以降、サービスを提供する施設数や利用者数は年々増加。2019年度は全国でおよそ1万4千施設が確認されている。

放課後等デイサービス 推移

出典:厚生労働省(PDF資料)

利用料金は、おおむね1回あたり7,500円~12,000円。この料金は利用定員や受け入れ児童の状態などに応じて、自治体によって定められる。利用者の負担はその内の1割で、およそ750円~1,200円だ。さらに、自己負担額の上限が世帯収入に応じて設定されており、サービス使用量に関わらず、それ以上の負担が生じない仕組みになっている。

政府は2017年4月、施設における不適切または質の低いサービスについて見直しを行うなど、制度のよりよい運用を目指してきた。とはいえ、いまだ改善するべき事案は多く、2020年現在も、厚生労働省の「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」(以下「検討チーム」)による検討が続いている。


需要増の同サービスにおいて職員の基準を限定することは適当か

「検討チーム」は現在、専門性を備えた施設職員を確保するため、職員の配置基準の変更を検討しているという。

現行の基準では、施設職員は「障害福祉サービス経験者(2年以上)」「保育士」「児童指導員」のいずれかで、かつ「保育士または教育指導員の数が全職員の半数以上」でなければならないが、「検討チーム」は今後「保育士と児童指導員のみ」に限定することを提案している。これに対し丸山議員は、人材確保が間に合わず、配置基準を維持できなければ、施設の経営上大きな影響を及ぼすと主張。その対策について追及した。

質問
現行の人員配置基準を廃止し、職員を保育士、児童指導員のみに限定することによって生じる影響と、その対策についてどう考えているか。

答弁
配置基準の変更は、一定期間の経過措置を設けた上で行なう。見直しに伴う影響も十分踏まえて検討していく。

上述したように、放課後等デイサービスは需要が増加している。職員の資格を限定すると、十分な数の職員確保が難しく、現場が回らなくなることは容易に想像できる。ただ、サービスの質を高めるために、専門性の高い職員を配置するのには合点がいく。現状を鑑みると、必要な資格がない職員に対しては、研修や講座の受講を推進し、専門性を補う場を提供するのが得策かもしれない。


料金システムが利用者、施設にとってwin-winでない

障害者施設での虐待問題などを引き合いに出すまでもなく、福祉施設・教育施設では運営者にはビジネスマインドを超えたグッド・ウィル(良き意志)と使命感が求められる。

これに関連して丸山議員から次のような質問があった。

質問
施設によっては、30分未満など極端に短時間のサービス提供を行なうところがある。これは、短時間でのサービス提供でも1回当たりの報酬が算定されるシステムに問題があり、それが過剰な請求を常態化させる要因となっているのではないか。

答弁
現在は、サービスの提供時間が3時間以上の場合と3時間未満の場合に区分して報酬を算定している。ご指摘のような極端に短時間でのサービス提供が、障害児の状況を踏まえずに行なわれるのは適切ではないので、厚生労働省 の「検討チーム」において、報酬上の取扱いについて検討を行っている。

「30分未満」で十分な居場所の提供や養育ができるとは考えられない。実態を把握するのは難しい点もあるだろうが、そのような施設が多いとすれば放置はできない。サービスのシステムを作るのはある意味で簡単だが、その質を維持するのは人の問題だけに難しい。世間の監視(見守り)も必要だろう。

しかしながら一方で、療育の成果を求め、利用者に手厚い支援をすると、施設にとって悪い影響が出てしまう可能性もある。

放課後等デイサービスの売上は、利用者が負担する料金+国保連が負担する料金からなっているが、基本となる1回当たりの総利用料金は施設によって異なる。というのも、厚生労働省が定める基準に即して、各施設の基本料金が算出されているからだ。例えば、特に手厚い支援を必要とする「指標該当児」(※)が利用者の半数以上を占めている施設は、基本料金が高くなる。

※「大声・奇声を出す」「突発的な行動をする」などの25の判定指標により、そのうち13以上に該当する児童・生徒のこと。

よって、より重い障害を抱えた子どもを多く受け入れた方が施設の収益が上がるということになる。逆に、適切な養育の結果、児童の能力が向上すると、「指標該当児」に当てはまらなくなり、施設の収益が下がってしまうことも考えられる。

これを踏まえ、丸山議員は評価報酬の設定を検討するべきだと主張し、政府の見解を追求した。

質問
児童の能力改善の程度に応じて、成果報酬を支給する制度を導入することは、施設の療養支援において有用だと考えられるが、どう考えているか。

答弁
ご指摘の制度を設けることについては、子どもの能力向上が、放課後等デイサービスによるものか、子どもの成長によるものか、区別することが困難なため、現時点では検討していない。

指摘されている問題を解決するには早急に料金システムの改善が必要だ。しかし、政府の回答からは、政府が対策を検討しているのかどうかすら推測することができない。


障害の程度を公平に判定するための仕組みが必要

上述したように、障害の程度が重い児童・生徒の割合に応じて、施設が受け取る金額が異なる。よって、サービスの利用に際して、障害の程度を公平に判定する必要がある。

丸山議員は、自治体によって指標該当児の判定に差があるという問題について質問した。

質問
「検討チーム」が指摘するように、地方自治体によって指標該当児の判定に差がある。この状況は、障害のある児童生徒や施設の不利益に繋がるのではないか。
また、指標該当児の判定には、介護保険制度の認定調査員や介護認定審査会(要介護の高齢者の介護度を判定する)のような、判定の公平性を担保する手順が必要ではないか。

答弁
現在、市町村による差の改善方法について検討を行っている。ご指摘のような手順を設けるかどうかについては、市町村の事務負担も考慮しつつ慎重に検討することが必要だと考えている。

2000年に創設された介護保険制度に比べて、2017年にスタートした「放課後等デイサービス」にまだ不備な点があるのはやむを得ないが、市町村間の差は早急に改善されるべき重大な課題だろう。


まとめ

2012 年に障害児支援強化の一環として児童福祉法と障害者自立支援法の一部が改定され「放課後等デイサービス」が発足した。これは、共生社会の実現のための意義ある制度であるが、新しい制度ゆえに不備な点も多い。特に改善すべきなのは、質の高い支援で、利用者の生活能力向上を目指すサービスであるにもかかわらず、発達した利用者が増えると、施設の報酬が減額となってしまうという状況だろう。報酬体系の見直しが必要不可欠だ。

さらに、放課後等デイサービスをより有効に機能させるには制度の改善だけでなく、事業者のグッドウィルと社会全体の見守りが必要だろう。


参考リンク

放課後等デイサービスの売上の仕組み(アクシア総合コンサルティング)


@もも

2021/06/29

職員の人員不足問題については、本文にも書かれている「研修や講座の受講を推進し、専門性を補う場を提供する」が一番いいと思います。そもそも保育士自体がすでに人員不足ですし、今のままでは人員の取り合いになりそう。まだまだ新しい制度なので、検討・議論を重ねて制度や料金体系を改善していって欲しいです。

@restog

2021/02/10

保育士、児童指導員だけでなく、医療的ケア児に対応できるような看護師なども配置していく必要があると思う。 利用者の負担金額に上限が設けられていることは良いことだと思う。

@だるばーど

2020/12/27

適切な養育で児童の能力が向上すると、施設の収益が下がってしまうというのは本末転倒だと思います。質の良い療育の提供のために、施設側を運営資金や職員の資格取得補助の面でもっと支援してほしいです。

@TONOさん3号

2020/12/13

現状認識の為に現場サイドを踏まえてこういった質問は有効だと思います。どうしてもこういう現場は人任せ、人の良心に頼る場合が多いです。 ある程度ビジネスとして成立してこそ手厚いサービスが提供できるものと考えます。実態調査が大事ですね。

@m_kmtm@0101

2020/12/13

職員の資格を限定することは、預ける側からすると安心材料になるが、それにより人員不足になっていては本末転倒。資格の講座支援などを十分に検討してほしい。

@なんたん

2020/12/12

放課後等デイサービスも質の悪い事業所はつぶれていると聞きます。介護職員の利用者様に対する暴言、暴力のように質の高い職員、事業所でなければ安心して子供を預けられない。よく審議して頂きたいです。

@ichi369

2020/12/11

このような問題は現場の声や当事者の意見が、どれだけ反映されるかにかかっている。外部から内情を想像して議論しても、妙案は生まれない。現場の声を正確にくみ取って、システムの改善を行って欲しい。

@kimuu

2020/12/10

何年か前から、近所に新しく放課後デイサービスができては潰れていくのを目にして気にかかってました。 事業所によって質が大きく異なりそうなのに、一律の料金設定なのは問題に感じます。

 詳細情報

質問主意書名 :放課後等デイサービスに関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :203
提出番号 :16
提出日 :2020年11月13日
転送日 :2020年11月24日
答弁書受領日 :2020年11月27日

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