片親による子ども連れ去りなど、離婚後の子どもの虐待を防ぐにはどんな法整備や自治体の対応が必要?

欧州連合欧州議会本会議より、我が国での子の連れ去りに関する決議が採択され、「子どもへの重大な虐待」と強調されたことに関する質問主意書

提出議員 : 海江田 万里

2020年7月に欧州連合(EU)欧州議会本会議は、日本政府に対するある決議書を採択しました。それは、EU加盟国の国籍者との結婚が破綻した日本人の親が、日本国内で子どもを一方的に連れ去り、別れた相手と面会させない事態(子どもへの重大な虐待)を早急に改善することを求めるものでした。

海江田万里議員(無所属)はこの決議を受けて衆議院に、離婚した夫婦の一方による「子の連れ去り」に関する質問主意書を提出しました。

海江田議員の問題意識は次の3点にあります。

  • 国際結婚の場合に限らず「子の連れ去り」が起きるのは、離婚後はどちらかの親が「単独親権」を持つとする日本の親権制度におもな原因があるのではないか

  • 共同親権が認められても、夫婦共同で子育てが行われなければ、「子どもが両親から愛される権利」を侵害することになる。どのように権利を保障していくのか

  • 地方自治体でも離婚後の親子関係の維持に取り組んでいるので、政府は離婚後の親子関係の維持に前向きな見解を地方自治体に向けて示すべきではないか

これに対して政府がどう答えたかを見ながら、離婚後の子どもの人権をどう守っていくべきなのかを考えてみたいと思います。


諸外国からの勧告もあり、政府は親権制度の見直しを検討中

日本では、離婚後は両親のどちらかが親権を持つ「単独親権」の制度になっています。この制度が離婚に際して「親権争い」が生じる元になっているわけですが、世界的には「離婚後も共同親権」とする国が圧倒的に多く、日本は特異と見なされています、

なぜ単独親権が「連れ去り」など子どもの虐待に結びつきやすいのでしょうか?一つには、親権を盾に取ってもう一方の親に子どもと合わせないケースがあることです。親権のある親が子どもを虐待しても、親権のない親は口を出せないというケースもあります。

海江田議員は、このような状況を踏まえて、政府に「チルドレンファーストの考えで、離婚後の単独親権制度を見直す考えはありますか」と質問しました。

これに対して政府は「父母の離婚後の親権制度の在り方については、現在、法務省において、子の利益を最優先に考える観点から、検討しているところである」と答えています。

「検討」とは法務省の次のような調査や研究を指しています。

  • 2019年11月に、離婚後の親権について検討する研究会を設置
  • 海外24か国について,父母の離婚後の子の養育に関する法制度の調査を実施(2019年4月に結果公表)
  • 比較法研究センターに委託して、米・英・独・仏・米・韓国など離婚後も共同親権を認めている9ヵ国の制度を調査(2014年12月結果公表)

政府が親権制度の見直しに取り組んでいるのは、諸外国からの要請(圧力?) もあると考えるべきでしょう。海江田議員の指摘するように、欧州議会の決議だけでなく、国連の児童の権利委員会から、離婚後も両親が「共同養育権」を行使できるよう制度改革することを勧告されています。

また、米国務省からは、ハーグ条約※に基づく義務の不履行国に認定されています。 ※ハーグ条約:国際的な子の連れ去りに関する条約。2019年10月現在、日本を含む世界101か国がこの条約を締結。

これらの状況を見ると、将来日本でも離婚後の単独親権から共同親権に制度改革される可能性は高いと言えますが、そのスピード感がいかほどのものかは分かりません。

ただ、子の連れ去りは共同親権が認められても起きる可能性があるため、民法の改正だけでチルドレンファーストが実現するわけではありません。


立ちはだかる子どもの人権保障問題

上で述べたように、共同親権が認められたとしてもすぐに問題が解消されるわけではありません。

例えばこんな状況が考えられます。両親の離婚後、母親と同居することになった子どもがいたとします。共同親権を持ち、別居する父親が子どもに会いたいと思っても、母親がそれを拒絶、子どもに会わせてもらえないといった事態です。

このような状況が起きるのは、「共同親権=両親揃って子育て」というわけではないからです。親権はあるものの、子育てに関わることができなければ、結果として子どもの連れ去りと同じような状況が起きてしまうのです。

同時にこの状況は、日本が批准している子どもの権利条約の第9条第1項(※)に基づく、子どもが両親からの愛情を受けることができる権利を奪っていると考えることができます。そこで、海江田議員は離婚後の共同養育を促し、子どもの権利を保障するため、厚生労働省が定める児童虐待の定義について以下のような質問をしました。 ※子どもの権利条約9条第1項:締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。

質問 「育児の意思がある片親が育児に関わることができず、結果として両親揃っての子育てを放棄すること」をネグレクトに、「同居する親が別居する親を疎外、拒絶すること」を心理的虐待に含めることを提案する。政府の見解を伺いたい。

答弁 ご指摘の提案の意味するところが明らかでないため、お尋ねにお答えすることは困難である。なお、児童虐待については児童虐待の防止等に関する法律第二条に基づき、個別事例ごとに判断する。

子どもの人権を重要視するなら、共同親権の議論と合わせて、共同養育の実効性を担保するための施策を議論すべきでしょう。しかし、政府は海江田議員の提案について、明確な回答を避けました。現段階では、どのような事例が児童虐待に値するのか、現行の法律で個別判断するとのことです。


自治体によるきめ細かな対応が子どもの権利を守ることに繋がるのではないか

離婚する夫婦に、離婚後の親子関係維持と両親で協力しながらの子育てを促すことは、子どもの権利を守ることに繋がります。海江田議員は、そのためには政府が離婚後の共同養育に前向きな姿勢を示すべきだと主張しています。すでに離婚後の親子関係の維持に取り組んでいる兵庫県明石市を紹介し、以下の質問をしました。

質問 少子化対策と同様に政府は、離婚後の親子関係の維持に前向きな見解を地方自治体に向けて示すべきではないか。

答弁 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、離婚する夫婦に各自治体が渡すパンフレット(面会交流に関する合意書のひな形などを記載)を作成するなどで、周知活動に取り組んでいるところである。

たしかに、海江田議員の「親子関係の維持に前向きな見解を地方自治体に向けて示すべき」という言葉は意味が明確ではありませんが「少子化対策と同様に」と述べている点から考えると、財政支援を含めた国と地方自治体の連携を求めていると受け取るべきでしょう。

それに対する答えが「パンフレットを作っている」では、国民としては肩透かしをくったような気になります。

児童相談所の人員不足などによる機能不全の現状をみると、個々のケースへの対応を充実させるのは簡単ではありません。ただ、法改正では救えない深刻な事態にいかに対応していくかが、子どもの虐待問題の本質であることは強調されるべきでしょう。


@TONOさん3号

2021/06/29

犯罪を犯すまたはそれに近いことがある人以外は共同親権でよいと思う。 そうすることで子供達にも余裕が出来る気がする。 自分も片親でしたが子供心に変な窮屈感があった。ある程度成長した時点で自由に行き来出来たら心の葛藤を吐きだせたのになあと思う。

@ichi369

2021/04/11

離婚しても、共同親権によって、父母ともに子育てをする諸外国の法律は、理にかなっていると思う。核家族化が進む現代においては、昔のように後継ぎを重視することは少なくなってきているので、法律も見直していくべきであり、少子高齢化の是正のためにも、自治体も積極的に取り組むべき問題だと思う。

@m_kmtm@0101

2021/03/30

共同親権という方法があり、世界ではそちらの方が多いことを初めて知った。離婚後も、子供が両親に会いに行けるのは良いと思う。

@restog

2021/02/01

法律だけの力で解決しないことがあると思う。片親世帯への給付金を親自身の娯楽のためにつかうなど、国が期待している使い方をなされていない現状がある。 各家庭に訪問する支援センターの維持費など、税金の使い道を改めて考える必要があるのではないか。

@もも

2020/12/31

共同親権という言葉は初めて聞きましたが、世界ではそちらのほうが主流なのですね。子供が、両親に会いやすい環境を作っていこうという動き自体には大賛成です。個人的には、離婚後の親子関係の維持についての活動は、地方自治体がそれぞれ行うのではなく、政府が一括でやったほうが分かりやすくてよいのではないか?と思いました。

 詳細情報

質問主意書名 :欧州連合欧州議会本会議より、我が国での子の連れ去りに関する決議が採択され、「子どもへの重大な虐待」と強調されたことに関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :203
提出番号 :36
提出日 :2020年11月25日
転送日 :2020年11月30日
答弁書受領日 :2020年12月4日

 関連するイシュー・タグ・コンテンツ