ポストコロナの財政健全化に道筋はあるのか!?

「二兎でなく三兎を追う」厳しい戦いを強いられる今後の我が国の財政運営に関する質問主意書

出典:財務省HP

提出議員 : 山本 和嘉子

政府は今月、総支出額73兆円にも上る新型コロナ追加経済対策を実施しました。

財政支出が雪だるま式に増えていく中、国の財政状態は悪化の一途を辿っています。この危機的状況をどう切り抜けるのか国内・国外ともに注目を集めており、政府はいち早く具体的施策を提示しなくてはいけません。

しかし現状は「財政成長によって財政健全化を目指す」という答弁の一点張りです。政治的に中立の立場から財政状況に関する検証等を行う「独立財政機関」の設立にも否定的なようですが、このままで国内外の信用を維持できるのでしょうか?
立憲民主党の山本和嘉子議員の質問からひも解いてみましょう。

基本方針から消えた「財政健全化」の文言

2020年7月17日に経済再生諮問会議の答申を経て閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」では、前年版まで中核的テーマに据えられていた財政健全化に関する記述が丸ごと消えて無くなりました。

前年度版では国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化や国内総生産比率に対する債務残高の安定的な引き下げなどに触れられ、財政健全化という単語が20回も登場したのに対し、今年度は一度も財政健全化という言葉が出てきません。これではまるで国は財政健全化という越えるべき課題の達成を諦めてしまったように見えます。

今回の答弁でも、財政再建への姿勢を国内外に示すべきではとの質問には答えを示していません。

質問:
毎年改定される「経済財政運営と改革の基本方針」の2020年度版(7月に閣議決定)には、前年版までにはあった、財政健全化に向けた文言が丸ごと削除された。 具体的には、「国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化」、「債務残高の国内総生産比率の安定的な引下げ」の文言が削除されている。
このように財政健全化の目標への言及を全面的に割愛することは、日本が財政健全化の旗を降ろしたとの誤ったメッセージを国内外に伝えることになるのではないか。

答弁:
2020年度版の「経済財政運営と改革の基本方針」は、2018年度および2019年度の「経済財政運営と改革の基本方針」に基づき経済・財政一体改革を推進するとされており、その方針の基引き続き、経済・財政一体改革を推進していく。

また財政制度等審議会※ による「令和三年度予算の編成等に関する建議」の中で「世界は新型コロナ対策・経済回復という二兎を追う状況だか、日本ではこれに加えて財政健全化という三兎を目指さねばならない」という上申についても答弁をせず、他の役所(とは言え財務省ですので無関係という事はないのですが)の審議会の意見に過ぎないと、まるで他人事の様な扱いです。

質問:
財政制度等審議会の指摘(日本では二兎ではなく三兎を目指すことが必要)について、政府としてどのように考えているのか。

答弁:
財政制度等審議会の建議は、経済・財政一体改革の道筋を考える上での外部有識者を委員等とする審議会の意見である。

※ 財政制度等審議会:財務省に設置され、予算や決算など国の財政に関して審議を行う財務大臣の諮問機関


財政再建の具体案を提示できない政府

答弁ではコロナ対策の財源も財政健全化を達成するための施策についても「経済再生なくして財政健全化なし」という説明にとどまり、具体案が見えてきません。

今年度は二度にわたる大規模補正予算を組んだため、総歳出予算が160兆円にも上りました。次年度以降もコロナ対策費用を積む必要がある可能性は高く、今までのように基礎的財政収支の黒字化による債務残高の引き下げだけでは状況の改善を見込むことは厳しいでしょう。

今回の答弁では国の債務残高を「極めて」多額と表現しており、国が強い問題意識を持っていることは伝わります。しかし、そうでありながらも現実的な具体案が見つからず、このような曖昧な答弁に終っているのでしょう。

質問:
財務省による「一般会計における歳出・歳入の状況」のグラフは、一貫して増加する歳出に対し税収は伸び悩みフラットであることから「ワニ口グラフ」と呼ばれる。しかし今年度は二度の大規模補正後の歳出が160兆円を超えた為、「ワニの口」は大きく開き、「ワニの大あくび」へと一変した。
コロナ対策に不可欠な財政出動の結果ではあるが、同様に大きな支出を必要とした東日本大震災の復興事業の場合とは異なり、今回は財源論が必ずしも十分に議論されていないとの印象。景気回復後に、低率増税など「課税平準化」を軸に対応を検討するべきではないか。
また、1000兆円近い累積債務をどうするのか、完済を目指すのか目指さないのかなど論点整理だけでもするべきではないか。

財政債務

出典:財務省HP

答弁:
「経済再生なくして財政健全化なし」の基本方針の下、当面は新型コロナウイルス感染症対策に取り組み、経済再生のための取組を進めつつ、引き続き、歳出・歳入両面の改革に取り組んでいく必要がある。
また、それにより日本の財政に対する信認を確保することが極めて多額に上る債務残高へ対処する上で重要である。


お手盛りを継続?「独立財政機関」には否定的

過去の値から判断するに、政府が行う経済予測は楽観的になる傾向があり、そもそも財政政策を実施する当事者による推計は信頼がおけないとの指摘もあります。

このため、政治的に独立し中立的な立場で経済予測や財政見通し等を策定する「独立財政機関」を設立してはどうかという意見が兼ねてより出ていました。しかし、今回の答弁によると政府は独立財政機関の設立には否定的なようです。

従来と同様、経済財政諮問会議※の議論の下策定された「中長期の経済財政に関する試算」を判断のよりどころとするつもりです。これでは「お手盛りを継続するのか?」と揶揄されても致し方ありません。

質問:
政治的に中立の立場過去から財政政策等の監視分析を行う、いわゆる「独立財政機関」を我が国でも創設すべきとの提言もあるが、政府はどう認識しているのか。

答弁:
政府では、経済財政諮問会議(内閣府に設置された合議制の機関)にて経済財政運営に関する議論を行う。内閣府では、同議論を踏まえ「中長期の経済財政に関する」試算を作成している。その試算を参照しつつ、同会議が財政健全化の進捗状況について評価を行っている。

※ 経済財政諮問会議:経済政策に関し内閣総理大臣のリーダーシップを発揮することを目的に内閣府に設置された合議制の機関


財政運営の打開策は見えず依然として霧の中

厳しい財政運営を打開する具体的な政策を、政府は見いだせていません。歳出予算の増大や莫大な債務残高を考慮すると、基礎的財政収支の黒字化だけではとても賄いきれないでしょう。
この歴史的緊急事態を解決に導く画期的な対策を菅政権は構築できるのでしょうか?


補足:「経済財政運営と改革の基本方針」と「中長期の経済財政に関する試算」と「健議」の違い

  • 中長期の経済財政に関する試算:内閣府が経済財政諮問会議において公表する経済財政の中朝的な試算
  • 経済財政運営と改革の基本方針:「骨太の方針」とも呼ばれる政府の経済・財政の基本方針。内閣府が策定
  • 建議:財政制度等審議会が財務大臣に提出する来年度の予算編成や今後の財務方針への意見書


@TONOさん3号

2021/01/31

コロナ禍のなかでは財政健全化は棚に上げましょう。日本の財政は財務省等がいうほど逼迫していないと思います。経済を回す方向でとにかく下へ流して欲しい。流れを良くしないと吸い上げることも出来ないと思います。独立財政機関については人材がいるのかが疑問ではありますが創設した方がよく見える化するとは思いますね。

@rolling893

2020/12/30

野党は言いたいことをいうだけだけど、では立場を変えて財政健全化の方策が何か立てられるのか。与野党関係なく日本の課題に対して知恵を絞ってほしい

@もも

2020/12/29

現在、政府によるコロナ対策も経済政策も失敗しており、これから日本がどうなるか不安しかありません。独立財政機関はぜひ創設してほしいですね。今までのように政府内で会議や検討をしても、色々な忖度のせいで正確な意見・データは出ない気がします。

 詳細情報

質問主意書名 :「二兎でなく三兎を追う」厳しい戦いを強いられる今後の我が国の財政運営に関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :203
提出番号 :74
提出日 :2020年12月1日
転送日 :2020年12月4日
答弁書受領日 :2020年12月11日

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