”待望”の生殖補助医療法が成立 一方で課題は山積み

生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案

賛成 (5)
反対 ()

提出議員 :秋野 公造

2020年12月4日に「生殖補助医療」と「出生した子の親子関係」に関する法案が衆議院本会議で可決・成立しました。日本では初の生殖補助医療についての法律です。

体外受精などの生殖補助医療(不妊治療)が発達する中で、これまで日本では実施に際しての倫理規定などを日本産婦人科学会が定めるルール(会告)に任せてきました。しかし、生殖補助医療によって生まれる子が増えるにつれて、親子関係の認知などについて裁判で争われるケースが生じ、司法サイドからも法的整備の必要性が指摘されていました。

このたび、いわば「待望の法律」が成立したのですが、その具体的な内容と今後に残された課題とはどのようなものなのでしょうか。

長年手つかずだった不妊治療の法整備

生殖補助医療に関するこの法案が成立した背景には、次のような課題がありました。

  • 生殖補助医療の急速な発達で、それによって出生する子が増加したが、医療記録の保管や開示についての制度がない
  • 生殖補助医療によって生まれた子どもの法的身分が定められていない
  • アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどと比較し、法整備が遅れている

臓器移植や生殖補助医療など生命倫理に関する日本の法整備の遅れは、慎重さの度を越してサボタージュに近いものがあったのかもしれません。本法案は、長年手つかずに放置された不妊治療に関する法整備の第一歩といえます。


本法案がカバーする出産の種類は狭い

本法案によって、民法の特例として定められた親子関係は次の2点です。

  1. 卵子提供を受けて出産した場合は、出産した女性を生まれた子の母とする―卵子に由来する胚(受精卵)を含む
  2. 妻が夫の同意を得て、夫以外の精子により妊娠・出産した場合、夫はその子が嫡出※であることを否認できない―精子に由来する胚(受精卵)を含む ※嫡出―婚姻関係にある男女から生まれること

これを見て「これだけ?」と思ったのは筆者だけでしょうか。たしかにこの規定によって、卵子や精子を提供した人が「自分がその子の親だ」と主張しても、門前払いで退けることができるようになります。しかし、課題はそれだけではなかったはずです。

この「法整備の第一歩」がどれくらいの一歩なのかを考えるには、生殖補助医療の種類について少し知っておく必要があります。

生殖補助医療 出典:殿村 琴子(2007)「生殖補助医療と親子関係について-先進諸国の法整備状況との比較から- 」『Life design report = ライフデザインレポート』,177, p.26

上図のAとBは、精子も卵子・子宮も夫婦のものなので、親子関係の問題は生じません。

本法案が規定しているのはCからFまでの、精子、卵子のいずれかが夫婦以外から提供された場合です。CからFに共通しているのは、子を産む(子宮を用いる)のは妻だということです。

本法案が触れていないのは、Gの「代理出産」とHの「代理母」の場合です。夫婦の受精卵を第三者の子宮で育てる代理出産や、夫の精子を第三者の子宮で育てる代理母の場合の親子関係についてはまったく触れられていません。

上表で「✕」印が付いているのは、日本婦人科学会が認めていない治療で、代理出産と代理母も✕です。しかし、代理出産や代理母に触れずに、本法案のように「出産した女性を生まれた子の母とする」とだけ定めると、思わぬ事態が起こる可能性があります。代理母が親権を主張するという、不妊治療の目的を考えると、本末転倒な展開が生じうるのです。

代理出産、代理母の問題以外にも、生殖補助医療に関しては多くの課題があります。


残された課題は2年後に検討する

法案成立後に日本弁護士会は会長声明を発表して、この法案に次のような問題点があると指摘しています。

  • 生まれた子が自分の出自を知る権利など、子どもの人権の保障に欠けている
  • 法律の文言に「心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮」とあるのは、障がいや疾病を有する子の出生自体を否定的に捉える懸念がある
  • 生殖医療技術の利用についての規制や具体的制度整備が、「検討事項」として挙げられるにとどまる
  • 生殖医療技術の実施医療機関の登録制度が取り入れられていない
  • 生殖医療技術の利用に関する情報管理制度にも言及がない

確かに、本法案の不備の多さは否めません。しかし、法案提出者もこれは理解しているようで、法案の附則の部分に、「必要な事項については、おおむね二年を目途として、検討が加えられ、その結果に基づいて法制上 の措置その他の必要な措置が講ぜられるものとする」とあります。つまり、残された課題については、おいおい検討していくということです。

この法律の成立が、生殖補助医療の法整備の遅れを取り戻す「意味ある第一歩」になるのか、小さな一歩のままでまた、立ち往生することになるのか。あなたはどう考えますか?

最新の賛成コメント

@rolling893

2020/12/25

不妊治療に対する社会の理解を広げるために少しずつでも法整備が進むことはいいと思います。同時により大きな課題として、不妊の問題が多くならない若いうちに出産がしやすくなるような環境づくりも必要と思います。

最新の反対コメント

まだ反対意見が投稿されていません。

すべてのコメント

@rolling893

2020/12/25

不妊治療に対する社会の理解を広げるために少しずつでも法整備が進むことはいいと思います。同時により大きな課題として、不妊の問題が多くならない若いうちに出産がしやすくなるような環境づくりも必要と思います。

@ichi369

2020/12/24

不備の多さはあるとしても、法整備を進めるための第一歩として評価すべきだと思う。すべてのケースを網羅するような法整備は時間が掛かるので、問題点を整理しながら法整備を進めていく方が、現実的だと思う。

@もも

2020/12/17

賛成します。今回の法案をベースに、今後に法案が精緻化していけば、生殖補助医療が必要な人たちにとってどんどんいい環境になっていくと思います。この問題は、色々なケースがあってだいぶ複雑だとは思うので、法案の整備に時間が掛かってしまうのはある程度仕方がない気がします。

@なんたん

2020/12/17

第三者が入ってくると、遺伝子を引き継いでるのに親ではないという複雑なことが起こるのでここでこの法律が決めて次の一歩を進めて欲しいです。出産は大変だから、代理出産のほうがもめそうですね。

@TONOさん3号

2020/12/16

まだ問題も疑問も残りますが意味ある一歩と考え賛成します。日本なので思うように進まないとは思いますがよく検討してより良い方向に進めて頂きたい。どうしても子供が欲しい人への最大限の援助と生まれてくる子に不利益にならないようにしっかり議論して法整備して欲しい。

 詳細情報

議案件名 :生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案 
提出国会回次 :203
議案番号 :13
議案種類 :参法
提出議員 : 秋野 公造
提出日 :2020年11月16日
公布日 :
法律番号 :