麻生大臣の「2000万円発言」を覚えているだろうか。
公的年金だけでは老後の生活費がまかなえないという金融庁の報告書が事の発端だったわけだが、その公的年金の財源さえ大きく目減りする可能性があるのだ。
年金を資産運用するGPIFが企業の株式を多く保有しすぎていることが問題になり、保有できる株式に上限を設ける法案が提出される事態になった。本法案に関する年金制度やGPIFの役割についても解説していこう。
GPIFの正式名称は、年金積立金管理運用独立行政法人という。 2006年に設立した組織で、年金積立金を管理・運用している。その運用規模は150兆円以上に及ぶ。日本の1年間の予算が100兆円程度と比較しても、いかに取扱額が大きいか分かるだろう。
世界でも、これほどの額を年金運用する組織は例がなく、前安倍総理はGPIFを「世界最大の基幹投資家」と評している。
GPIFが果たしている役割を分かりやすく説明するために、まずは日本の年金制度の仕組みを紹介しよう。
日本では、高齢者の生活を現役世代が支える「年金賦課方式」を採用している。つまり、今高齢者が受け取っている年金の財源には現役世代が支払う保険料や税金が使われているのだ。自分が若い頃におさめた保険料がそのまま戻ってくるわけではない。
現役世代と高齢者の数を比較して、現役世代の数が多ければ、支払うべき年金が不足することはない。しかし、今は65歳以上の高齢者の割合が全人口の25%を超える超高齢化社会だ。このまま、高齢者の数が現役世代に比べて相対的に増え続ければ、現役世代の保険料と税金だけでは年金を賄いきれなくなる可能性が考えられる。そこで、その不足分を補うためにGPIFが運用する年金積立金が充当されるのだ。
GPIFの運用の特徴は、資産を分散して持つ点にある。運用額が未来世代の年金の財源になる以上、絶対に運用失敗は許されない。リスクヘッジのために、さまざまな資産に分けて保有している。また、長期的に保有することで短期的な収益の減少を打ち消しているのも特徴だ。
2020年9月時点でのGPIF資産割合の内訳は、国内債券が26.6%、国内株式が24.1%、外国株式が25.9%、外国債券が23.5%である。つまり、債券と株式を50%ずつ保有している。
今回何が問題になっているかというと、日本企業の株式の多くをGPIFや日銀などの公的機関が占めていることだ。公的機関があまりにも株式を保有しすぎると、株価が経済の状況を反映しない数値となってしまう。
GPIFは、資産の運用状況から全保有銘柄を公表している。下の表は、2020年3月時点でGPIFが保有している企業を保有株式数でランキングにしてみた。
GPIFや日銀は信託銀行等を通じて、東証一部上場企業の株式を購入している。そして、東証一部に上場する企業2166社のうち、8割以上にのぼる約1830社において日銀やGPIFなどの公的機関が会社株式の5%以上を保有しているという状況だ。
両者の保有割合を合算すると10%を超える企業も630社に及び、東証全体の時価総額の10%以上を占めている。必然的に日銀とGPIFの活動が株価に大きな影響を及ぼすことになり、市場関係者は両者を「二頭のクジラ」とも評している。
公的金融機関の大規模取引が相場をけん引することを官製相場と呼ぶが、今はまさにこの状態だ。官製相場によって株価の下支えができているとの声もあるが、実際の経済状況が適切に株価に反映されていないとも言えるだろう。GPIFの株式市場での膨大を防ぐために、今回の法改正でGPIFの株式保有率に20%の上限を設ける。安定株主の影響を小さくすることで、企業の経営改善等の促進につながると見られている。
もしも株価が暴落した場合、年金資産は大きく目減りすることになる。政府は支給額を制限したり支給年齢を遅らせることで、「年金制度は破綻していない」と豪語するのだろう。しかし、その場合は「2000万円問題」どころか、「5000万円問題」になりかねない。なぜ、このような法案が提出され、最終的に撤回されたのか。みなさんはこの法案についてどう感じているだろうか。
@westman
2020/12/02
様々な経済指標がある中で、政府が着目しているのが株価ではないでしょうか。株価と実態経済が乖離しているいわゆるバブルの状態にありますが、バブルである以上は崩壊時のことを想定して置く必要があります。そのバブルを演出しているのが政府であれば、それはとてもヘルシーな状態とは言えないのではないでしょうか。
@ichi369
2020/12/01
上限を設ける必要は無いと考える。官製相場による株価の下支えは、すでに周知の事実であり、投資額や保有比率を隠さずに公表し、監視することで、不正や恣意的な運用を防ぐべきである。
@westman
2020/12/02
様々な経済指標がある中で、政府が着目しているのが株価ではないでしょうか。株価と実態経済が乖離しているいわゆるバブルの状態にありますが、バブルである以上は崩壊時のことを想定して置く必要があります。そのバブルを演出しているのが政府であれば、それはとてもヘルシーな状態とは言えないのではないでしょうか。
@ichi369
2020/12/01
上限を設ける必要は無いと考える。官製相場による株価の下支えは、すでに周知の事実であり、投資額や保有比率を隠さずに公表し、監視することで、不正や恣意的な運用を防ぐべきである。
@kimuu
2020/12/01
今は株高なので、誰でも勝てる相場なんでいいですよね。今後、下落相場での売りのタイミングを逃してほしくないなぁ。 ポートフォリオは株と債券を半々なので、ごくごくオーソドックスな正攻法だと感じています。ただ、国内株式の割合はもっと減らして外国株式に振ってほしい気もします。日本企業より成長率高そうじゃないですか。
議案件名 : | 年金積立金管理運用独立行政法人法等の一部を改正する法律案 |
提出国会回次 : | 201 |
議案番号 : | 7 |
議案種類 : | 衆法 |
提出議員 : | 岡本 充功 |
提出日 : | 2020年4月10日 |
公布日 : | |
法律番号 : |