2023年度末までに1億枚は可能? マイナンバーカード普及に向けた政府の取り組みを解説

マイナンバーカードの普及促進に関する質問主意書

提出議員 : 丸山 穂高

マイナンバーカードの発行が始まったのは、2016年1月です。政府は、公的な身分証明書となるだけでなく、様々な場面で簡単に個人番号の確認ができるとして、カードの取得を国民に促してきました。しかし、なかなか普及は進んでいません。

そんな中、菅総理は、2020年9月25日の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ(第三回)」で、2023年3月までにほとんどの国民にマイナンバーカードを普及させると発言しました。現在の状況を打破し、この目標を達成させるには、これまでの反省点を踏まえ、適切な対策を講じなければなりません。

これに関連し、丸山穂高衆議院議員が、「マイナンバーカードの普及促進に関する質問主意書」を提出しています。その質疑を通して、マイナンバーカード普及の実情や、これまでの政府の取り組み、今後の展望などをみていきましょう。


マイナンバーカード普及の現状とこれまでの取り組み

1. 普及の現状

政府は従来からマイナンバーカードの普及を目指し、これまでも普及のための取り組みを行ってきました。しかし現状、普及が十分に進んでいるとは言えません。

総務省によると、2021年2月1日時点におけるマイナンバーカードの交付枚数や全国の人口に対する交付枚数率は、次の通りです。

人口 127,138,033人(2020年1月1日時点)
交付枚数 31,980,527枚(2021年2月1日時点)
交付枚数率 25.2%

なお、今回の政府答弁によると、総務省が公表している交付枚数率は、紛失等で再交付されたものを含む延べ発行枚数もとに算出した数値です。よって、これは人口に対する実際の普及率を示す数値ではありません。

質問主意書の中で丸山議員は、マイナンバーカードの廃止件数や、失効した署名用電子証明書(※)の件数、失効した利用者証明用電子証明書(※)の件数などを質問しています。これらをもとに、実際の普及率を計算してみましょう。

※マイナンバーカードには、署名用電子証明書・利用者証明用電子証明書の2つの電子証明書(有効期限付き)が搭載されている。署名用電子証明書は、e-Taxで確定申告を行うなど電子文書の送信時に使用する。利用者証明用電子証明書は、マイナポータルやコンビニ交付の利用時等の本人証明として使用する。

質問
マイナンバーカードの発行以来、廃止・回収となった件数等を示2023年度末までに1億枚は可能? マイナンバーカード普及に向けた政府の取り組みを解説されたい。また、署名用電子証明書・利用者証明用電子証明書の失効件数等はどうなっているか。

答弁
以下の通りである。(廃止・回収件数は、発行開始後、2021年1月22日まで、失効件数は、発行開始から2020年12月末までのデータ)

マイナンバーカードの廃止件数 2,012,197
マイナンバーカードの回収件数(廃止件数に含まれる) 580,885
署名用電子証明書の失効件数 14,915,170
利用者証明用電子証明書の失効件数 11,790,607
  • マイナンバーカードの主な廃止理由
       住民票の消除、有効期間の満了、紛失、盗難
  • 署名用電子証明書の主な失効理由
       住民票の修正や消除、更新、有効期間満了、マイナンバーカードの廃止
  • 利用者証明用電子証明書の主な失効理由
       更新、有効期間満了、住民票消除、マイナンバーカードの廃止

上記の資料をもとに、実際の普及率を計算すると、以下のようになります。

普及率
=(交付件数-廃止件数)÷人口×100
=(31,980,527-2,012,197)÷127,138,033×100
≒23.6(%)

よって、人口に対するマイナンバーカードの普及率は約23.6%です。

政府は2016年から5年に渡り、マイナンバーカードの普及活動を行ってきたにもかかわらず、所有者は日本の人口の4分の1にも満たないということが分かりました。国民全体に普及させるには、あと1億枚程度の発行が必要です。

2. これまでの取り組み①:交付円滑化計画の見直し

マイナンバーカードの普及を目指して、2020年10月27日に、武田総務大臣から地方自治体に対して大臣書簡が発出されました。

内容は、商業施設などでのマイナンバーカード申請受付、交付窓口や人員の増強・土日交付の更なる実施を行うための市町村の「交付円滑化計画」の改訂を要請するものです。

この書簡に関して、丸山議員は質問を行っています。

質問
交付円滑化計画改定の進捗状況はどうなっているか。

答弁
全ての市町村及び特別区で、すでに交付円滑化計画が改訂された。

毎日新聞の報道にあるように、自治体単位でもマイナンバーカード普及に向けた動きが始まっています。自治体によってスピード感に差はあるものの、政府の取り組みが功を奏したのかもしれません。

3. これまでの取り組み②:公務員への普及

政府は、マイナンバーカードの利用と活用のために、2019年度内に国家公務員・地方公務員等が(以下、公務員等)マイナンバーカードを一斉取得する方針を示しました。その後、公務員等への普及状況を丸山議員の質問に沿って見ていきましょう。

質問
公務員等における最新のマイナンバーカード申請・取得率はどの程度か。

答弁
申請・取得率は、行政府の国家公務員が2020年3月末時点で58.2%。地方公務員等(一般行政部門)が同年9月末時点で40.5%である。

政府は公務員に対し、マイナンバーカードの一斉取得を促していたにもかかわらず、政府に雇用されているともいえる行政府の国家公務員の申請・取得率は58%余りにとどまっています。


郵便局とコンビニを活用? 普及に向けた今後の取り組み

1. 自治体の窓口と人員の増加

丸山議員は、政府の目標どおりに2023年3月までにほとんどの国民がマイナンバーカードを持つためには、毎月約300万枚の交付を続ける必要があると指摘しました。そのうえで、基礎自治体では手続窓口が混雑し、手続きに詳しい職員も不足していることに言及し、窓口や人員について質問しています。

質問
毎月300万枚以上を交付するために、どの程度、基礎自治体の交付窓口と交付担当人員が増加すると考えているか。

答弁
市町村から提出された計画によると、2023年3月には、交付窓口が1,690ヵ所、担当人員は4,991人増加する見込みである。

ある程度の窓口と人員の増加が見込まれますが、全国の市町村数(特別区を含む)は、1,747です。一つの自治体あたりで計算すると、交付窓口は1つ増える程度、人員は2.9人増える程度です。月300万枚程度という目標を達成するのに十分といえるのでしょうか。

2. 郵便局とコンビニエンスストアの活用

マイナンバーカード交付事務に関係し、指定都市市長会(※)は、「行政のデジタル化に関する指定都市市長会緊急提言」(2020年10月28日)を行い、事務負担の軽減等を要望しています。この点について、丸山議員が取り上げています。

※指定都市市長会:全国の指定都市の緊密な連携のもとに、大都市行財政の円滑な推進と伸張を図ることを目的とした組織

質問
指定都市市長会の要望についてどう考えるか。

答弁
郵便局で、署名用電子証明書の発行と更新、利用者証明用電子証明書の発行と更新ができるよう、地方公共団体の特定の事務の郵便局における取扱いに関する法律を改正する法案を今国会に提出する。また、郵便局で暗証番号の初期化と再設定をできるようにし、コンビニエンスストアでも署名用電子証明書の暗証番号初期化と再設定をできるようにする予定である。

政府は、郵便局やコンビニエンスストアを活用し、自治体の負担を軽減しつつ、マイナンバーカードの普及を図る方針のようです。しかし現在、コンビニエンスストアの業務が多様化しているのは周知の事実でしょう。便利さと引き換えに、スタッフの負担が重くなってしまうという懸念があります。

3.インターネットの活用

先に触れた指定都市市長会の緊急提言では、マイナンバーカード更新手続きのオンライン化も要望されています。これについて、政府はどう考えているのでしょうか。

質問
更新手続きのオンライン化についての要望をどう考えているか。

答弁
マイナンバーカードの有効期間は、発行日から10回目の誕生日までであり、更新時に容貌の変化がある。また、電子証明書の発行について国際的な標準で最高位(米国国立標準技術研究所によるDigital Identity GuidelinesのIdentity Assurance Level 3)を担保するために対面で身元確認をせねばならない。よって、更新手続のオンライン化は現時点では困難である。

現時点で、オンライン化には政府の力が及ばない障壁があるようです。


菅内閣におけるマイナンバー普及は?

マイナンバーカード普及を目指す内閣の構成員は、マイナンバーカードを取得しているのでしょうか。この点についても、丸山議員は質問を行っています。

質問
菅内閣における国務大臣、副大臣、大臣政務官、内閣総理大臣補佐官(以下、政務三役等)で、マイナンバーカードの未取得者・マイナポータルの未登録者の割合と氏名を尋ねる。

答弁
マイナンバーカードの未取得者・マイナポータルの未登録者ともに、割合は約13%(マイナンバーカードを取得していないと、マイナポータルに登録できないため)。未登録者は、赤澤亮正内閣府副大臣、宇都隆史外務副大臣、中西健治財務副大臣、丹羽秀樹文部科学副大臣、梨康弘農林水産副大臣、岩井茂樹国土交通副大臣、小林茂樹国土交通大臣政務官、鳩山二郎国土交通大臣政務官、大西宏幸防衛大臣政務官及び柿﨑明二内閣総理大臣補佐官であるが、全員申請予定または申請済みである。

マイナンバーカードを取得していない政務三役が存在しています。申請の意思はあっても、答弁の時点で、申請・取得していない者もいたわけですから、内閣のマイナンバーカード普及に関する本気度に疑念を持つ人がいてもおかしくありません。


まとめ:マイナンバーカード普及は進むのか

2016年1月に始まったマイナンバーカードの交付は、2021年2月1日時点で、交付枚数率が約25%にとどまっています。これまでの政府の普及に向けた様々な取組も十分な効果があるとはいえない状況です。

政府が発表した「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」によると、政府は今後マイナンバーカードの健康保険証としての利用、お薬手帳やハローワークカードとしての活用、納税手続きでの活用の拡充、公的サービス等での活用機会の創出等を予定ないし、計画しています。それとともに、マイナンバーカード申請のための出張窓口の拡充も積極的に行う姿勢です。 

マイナンバーカード普及のためには、政府がこうした取り組みを行う中で、国民がマイナンバーカードを持つことでの利便性を実感できることが大切でしょう。十分な実感を得るためには、現在の計画以上に利便性を拡充することも必要かもしれません。また、セキュリティ面の不安を払しょくするために、しっかりした根拠を持って安全性を周知することも不可欠でしょう。


@restog

2021/04/20

マイナンバーカードを使うことに対するメリットが正直分からない。 健康保険証の代わりになる、と言っても、保険証があれば十分だし、マイナンバーカードを使わなくても身分を証明することが出来るので、マイナンバーカードの必要性が分からない。 新たな身分証明書が増えることによる不安要素の方が大きい。

@TONOさん3号

2021/02/28

意識の問題だと思います。 日本のサービスはある程度行き届いていたので何も困らなかった。 ただこれからは医療費の問題(過剰な投薬、処方等)と迅速な支援、サービスの提供を行う場合には必要となってきます。 国がどうとか行政がどう?という問題ではないと思います。 我々個人の意識も変えて行くこと。考えていくことが重要。

@なんたん

2021/02/20

マイナンバーカードは持っていません。 手続きのために会社を有休したくないし、身分証明なら免許証もある。 何より落とすと面倒なものはこれ以上持ちたくないです。何かしらの便利な機能がないと持つメリットないですね。

@だるばーど

2021/02/19

マイナポイントのためにやっと申請しました。思ったよりスムーズに手続きが進んで驚きましたが、逆にスマホや携帯を持たないお年寄りは手続きがすごく大変だろうなと思いました。なくても困らない現状だから普及しないのだと思いますが、デジタルでの手続きができない人たちマイナンバーカード難民をどうサポートするか対策してほしいです。

@rolling893

2021/02/19

現状作らなくても不便がないので普及しないでしょうね。生活上の色々なことに紐づいてマイナンバーカードの利便性が上がれば変わると思いますが、あまり多方面に紐づけされると悪用のおそれもあり。

@もも

2021/02/18

今マイナンバーカードを申請していない人は、面倒だからやっていないという人がほとんどだと思うので、発行できる場所を増やすだけではあまり効果がないのではないでしょうか。マイナンバーカードを申請すると何かがもらえる、というような国民にメリットのあるキャンペーンでもやらない限り、申請者はあまり増えないのではないかと思ってしまいます。

@ichi369

2021/02/17

公務員にすら普及していない現状で、国民に利便性やセキュリティについて理解してもらうのは無理がある。目標を掲げるのは立派だが、現状分析と原因究明、他国の成功事例を研究するなど、やるべきことをやってもらいたい。

 詳細情報

質問主意書名 :マイナンバーカードの普及促進に関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :204
提出番号 :14
提出日 :2021年1月22日
転送日 :2021年1月27日
答弁書受領日 :2021年2月2日

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