いまだ低水準の保育士給与 助成金の支給で改善なるか?

保育等従業者の人材確保のための処遇の改善等に関する特別措置法案

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提出議員 :西村 智奈美

保育園や幼稚園など、小さな子どもの成長を支える施設で働く職員の賃金が他業種と比べ低い水準にあることが問題視されている。また、片時も目を離せない、非常に重い責任を伴う仕事であるにもかかわらず、賃金が見合っていないとの声も多い。

この状況を踏まえ、内閣府はここ数年、保育士や幼稚園教諭などの処遇改善に努めてきた。厚生労働省が公開した資料によると、2013年からは給与の引き上げを行っている。また、2017年からは、スキルや経験、役職に応じて職員の賃金アップを可能にするシステムも導入している。

しかし、少しずつ賃金が上がっていても、他業種と比べるとまだまだ低いのが現状。さらに、近年、小学校入学前の子どもの教育や保育に対する多様なニーズが増大し、優れた人材を確保する必要性があることなどを踏まえると、さらなる処遇改善が必須だ。そこで提出されたのが「施設への助成金支給」と「勤務環境改善策のさらなる推進」を実現する今法案である。詳しい内容を見ていこう。

保育士の労働環境は不満だらけ?

まず、改善すべきポイントをまとめる。2018年に公開された平成29年度賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均年収は342.1万円、幼稚園教諭の平均年収は341.7万円で、全職種の平均年収491.2万円と比較すると、100万円以上低いことが分かっている。また、保育士の勤続年数平均は7.7年、幼稚園教諭は7.3年と、全職種平均の11.9年を下回っていることから、その勤務環境に不満を抱えている人が比較的多いことが予想される。

低賃金以外で、勤務環境に対する主な不満として考えられるのが、以下のような点だろう。

  • 予想外のハプニングが多いため、残業が多くなる
  • 子どもの世話以外の事務作業が多い
  • 人不足で一人当たりの業務量が多い
  • 労働時間が長く、自分の育児と両立できない  など

上記を踏まえると、勤続年数が他業種に比べ、短いことにも納得がいく。特に、職員自身の子育てと仕事の両立ができないのは、彼らの人生の選択肢を減らしてしまう極めて重大な課題だ。早急な改善策が必要だろう。


処遇改善助成金の支給による賃金上乗せ

本法案では都道府県が、職員の賃金を改善する取り組みをすると申請した保育等事業者に、助成金を支給する。ここで言う保育等従事者とは、各市町村長が施設型給付金の支給を認める教育・保育施設(以下「特定教育・保育施設」)の事業者と特定地域型保育事業者。簡単に言うと、公費による財政支援を受けている認定こども園、幼稚園、保育園、0歳から2歳児までを対象とした地域における多様な保育ニーズに対応するために設置する施設の事業者のことだ。

具体的な支給要件、金額、申請方法などは、定まっていないものの、お金という目に見える、かつ直接的な方法で支援するのは職員にとって非常に心強いだろう。

また、助成金の支給に必要な費用、助成金関連の事務を行うために必要な費用は全額、国が都道府県に交付することになっている。


処遇改善のための取り組みを推進

助成金の支給以外に、国や地方公共団体が以下の取り組みを進めていく。

  • 特定教育・保育施設にかかる事業費のうち、保育従事者にかかる人件費の割合を公表
  • 保育等従事者自身の子育てと仕事の両立を可能にする制度の設置
  • 行政に対する申請書類のオンライン化と簡素化
  • 専門的スキルを身に着けた保育従事者育成のための研修を設定
  • 適切な評価制度の確立
  • 保育従事者の社会的評価向上を図る活動の増進

また、これらの取り組みは、保育等従事者だけでなく、児童養護施設、児童クラブなどの放課後児童健全育成事業に従事する人にも同様に行うという。


本法案によって生じる懸念

  • 助成金の不正取得 新型コロナウイルス感染の拡大により、所得が減った事業主を支援する目的で設けられた「持続化給付金」の不正受給が発生している。二重申請や申請書類に記入ミスがあったために、間違って余分にお金を受け取っていた人もいれば、不適切な金額を故意に受け取っていた人もいるという。

今回の、処遇改善助成金については、具体的な申請方法や受給条件が定まっていないため、持続化給付金の件と一概に比べることはできないが、条件に当てはまる事業者が申請してお金を受け取るという流れは同じ。同様に、不正受給が発生する可能性が考えられる。

  • 助成金支払いの遅れ 報道によると、育児休業を取得した人に国から支払われる「育児休業給付金」の給付に遅れが生じているという。通常は申請受付から一週間ほどで振り込まれるが、大阪や東京の大都市部では1カ月以上遅れているようだ。主な理由として挙げられているのが、新型コロナウイルスの影響で増えた電子申請に現場が対応しきれていないことで、十分な人員確保が望まれている。

今後しばらく、人との物理的な接触を避けることが多くなる昨今の状況を踏まえると、処遇改善助成金の申請は間違いなく、電子申請がメインになるだろう。育児休業給付金と同様の事態が起きないようにしなければならない。

  • 助成金が本当に職員の賃金上乗せに使われるのかどうか 報道によると、保育士の賃金を増やすために国が施設に支出した交付金のうち、7億円余りが、賃金の上乗せに使われていないことが分かっている。多くの施設がその理由を“失念していた”と、回答しているというが、他の報道では、施設の利益を優先したという可能性も指摘されている。

処遇改善助成金が適切な使われ方をしているか明白にするため、政府や各自治体による、徹底的な管理監督が必須だろう。

今法案における助成金支給は、保育園や幼稚園で働く職員の賃金アップに非常に有効だと感じるが、具体的な金額や条件が定まっていないため、どれほどの効果をもたらすのか、いまいち分かりかねる。また、前述したように、過去、助成金関連のトラブルが起きているため、それらを防止する仕組み作りができるかどうかが重要になるだろう。

最新の賛成コメント

@rolling893

2020/12/25

近隣では保育士さんの確保が難しくこども園の統廃合が相次いでいます。こどもの発達に重要な役割を担ってくれる方たちはもっと厚遇されてしかるべきと思います。

最新の反対コメント

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@rolling893

2020/12/25

近隣では保育士さんの確保が難しくこども園の統廃合が相次いでいます。こどもの発達に重要な役割を担ってくれる方たちはもっと厚遇されてしかるべきと思います。

@m_kmtm@0101

2020/12/13

こども園に預けて仕事をしています。先生方は本当に子供をよく見てくださるし、たくさんのことを学ばせてくれます。安心して仕事ができるのは先生方のおかげです。そんな先生方がこれからも増えていく業界にしてください。

@かるた

2020/12/06

@restog

2020/12/04

保育従事者の賃金や労働環境が変わらない限りは、少子化に歯止めがかからないと思う。 記事に、保育従事者の連続就労期間が他の職種に比べて短いと記述されていたが、果たしてその原因の全てが労働環境の悪さに起因するとは断定できないのではないだろうか。

@もも

2020/12/04

私には保育士の友人が4人程いますが、全員が給与の低さを嘆いていました。保育士さんの給与アップのためにも処遇改善助成金は必要だと思います。適切な使われ方をしたかどうかの報告書を義務付けてもいいかもしれませんね (報告書を作る負担が増えるデメリットもありますが…)。

@なんたん

2020/12/03

保育士さんには大変お世話になりました。仕事を続けられたのも、子供がここまで育ったのも保育士さんのお陰です。処遇が改善されるよう、助成金を使って頂きたいです。

@だるばーど

2020/12/03

給料改善は、保育士不足の解消のために必要不可欠。不正受給が起こる可能性はもちろんあるが、不正受給の割合と給料の改善で確保できる人材の数やその恩恵を受けられる人を比べれば、給料の改善のほうが社会に有益なのは一目瞭然。どんどん進めて欲しいです。

@TONOさん3号

2020/12/03

元々大変な現場で人材の確保が難しいのは分かっているのだからどんどん支給すればよい。助成金でも特別手当でもとにかくお金を投入すべき。 基本給も追って上がって行くべきで反対の余地はない。 不正受給は後でしっかり捜査して下さい。

 詳細情報

議案件名 :保育等従業者の人材確保のための処遇の改善等に関する特別措置法案 
提出国会回次 :196
議案番号 :39
議案種類 :衆法
提出議員 : 西村 智奈美
提出日 :2018年6月19日
公布日 :
法律番号 :