法務大臣養育費勉強会に関する質問主意書

出典:森まさ子議員公式HP

提出議員 : 嘉田 由紀子

2016年に厚生労働省が行った「全国ひとり親世帯等調査」によれば、離婚後に養育費を受け取っている母子家庭は、わずか24パーセントしかいない。ひとり親世帯の貧困率が50パーセントを越えてしまっていることを踏まえると、現状を変えていくためには養育費の確保が急務と言えるだろう。

2020年4月に民事執行法が改正され、不払いに対する強制徴収や立替払いなどの実施に向け法整備が行われているものの、改善の兆しは見えない。また、2019年の離婚件数は21万組におよび、金銭面以外でも離婚後の子どもの養育が社会問題となっている。

乱立する組織それぞれの役割とは

これらの問題については、民間の団体である公共社団法人商事法務研究会の中に「家族法研究会」が設置され、法務省や最高裁判所の職員が参加し、議論と検討が進められていた。

森まさこ法務大臣は、直轄の私的勉強会として「法務大臣養育費勉強会」を開催し、同会による取りまとめを「我が国の子どもたちの未来のために」と題して紹介した。(2020年5月29の記者会見にて)

この「法務大臣養育費勉強会」に加え、今後、法務省と厚生労働省の審議官級職員が連携して検討を行う「タスクフォース」や「法務省内検討会」の設置も予定されている。

しかしながら、法務省にはすでに「民法(親子法制)部会」が置かれており、政治家、行政官、法学者などの専門家を構成員とする会議体が数多く設置されていることになる。現状では、いつ、どの会議の場で重要な決定がなされるのか、非常に分かりづらい状況になっている

また、「法務大臣養育費勉強会」は私的諮問機関であり、委員の任命や運営、政策形成に対する影響力の大きさに対して、審議の公平性や透明性が低いとの課題が指摘されている。養育費の支払いだけではなく、家庭内暴力・虐待被害者の保護や離婚後の面会交流の実施など、子どもの生育環境を取り巻く問題が山積みのなか、法令上の審議会ではない私的な勉強会での取りまとめを元にして、しっかりとした制度を作っていくことはできるのだろうか。

2020年6月2日に自民党女性活躍推進本部が安倍総理大臣に対して、内閣府に養育費の不払い問題に対応する省庁横断の対策本部の設置を求めた。安倍総理大臣はこれに対し「しっかり提言を受け止め、関係省庁の取り組みを加速する」と答えたと報じられている。

複数の会議体が乱立している現状は、関係省庁の取り組みの加速からはかけ離れてしまっている。それぞれの役割と関係性の確認から嘉田由紀子議員は質問を始めている。

答弁:まず、「法務大臣養育費勉強会」は、法務大臣の私的な勉強会として開催され、研究者、ひとり親の支援団体等からヒアリングを行うなどしたうえ、養育費の履行確保に関する現状の問題点を整理し、今後の取り組みの方向性などについて検討をしたものである。

「タスクフォース」は、法務省及び厚生労働省の担当官を構成員として、養育費の支払い確保のための新たな公的支援制度の在り方などを検討することを予定している。

一方の「法務省内検討会」は、弁護士、研究者等で構成し、現行制度の枠内で実施可能な施策等を検討することを予定している。

これらはいずれも、勉強会の成果である「法務大臣養育費勉強会取りまとめ」の内容を踏まえたうえで検討が進められている。

国民生活に重大な影響を及ぼす議論が不透明でいいのか

離婚後の子どもの養育については、子どもの権利を守るという視点から、面会交流の実現や養育費不払いへの対応、共同養育計画の策定、共同親権の導入など、数多くの議論と検討が進められている。

私的な諮問機関を含む複数の会議体を使い分ける検討の進め方は、国民の生活に重大な影響をおよぼす政策課題に関する議論を不透明にするばかりか、国民の不信をも招きかねない。

「家族法研究会」は、2019年11月に第1回の会議が行われ、これまでに7回開催されている。2016年の再婚禁止期間の見直しや、2018年の婚姻開始年齢の引き上げ、2019年の特別養子縁組の成立要件の緩和など、近年家族法の分野では相次いで法改正が進められてきた。法務省と厚生労働省の人間が参加している「家族法研究会」がすでにあるにも関わらず、なぜ新たに複数の会議体を設置する必要があるのかと議員は疑問視している。

答弁:御指摘の「家族法研究会」は民間の団体が行っており、養育費の支払確保や面会交流の促進を含め、離婚後の子の養育の在り方全般について、法改正も視野に入れた検討が進められている。法務省の担当者がこれに参加していて、検討結果を踏まえ、法改正の要否が問題になる場合には、法制審議会に諮問をし、さらに調査審議を尽くすこととなる。

また、法務大臣養育費勉強会における取りまとめは公表されており、今後も、法制審議会が開催される場合には議事録を公表するなど、透明性は充分に確保されている。「国民の不信を招きかねない」との御指摘は当たらないものと考えている。

当事者たちの声はしっかりと届いているのか

森まさこ法務大臣は、2020年6月2日の記者会見の中で「養育費の不払い解消は喫緊の課題である」という認識を示している。子どもの貧困問題の中でも、特に、養育費の不払いを解消する施策を進めるには、国民の理解と幅広い支持が必要になってくる。

「法務大臣養育費勉強会」には、シングルマザーを支援するNPO法人や子育てを支援するNPO法人の理事長、養育費相談支援センター長など、当事者たちと関わりが深い有識者が多数参加していた。養育費の確保を訴える側の声だけではなく、面会交流を求める側の声にも耳を傾けなければ、この養育費問題の根本的な解決の糸口が見えてこないのではないだろうか。だからこそ、議員は次のように聞いているのだ。

養育費不払いを解消するには国民の理解と支持が必要だからこそ、養育費の確保を支援する団体だけでなく、面会交流を支援する団体などを始めとした国民各層から幅広く意見を聴取していかなければならないのではないか。

答弁:養育費および面会交流を始めとする父母の離婚後の子の養育の在り方については、国民各層の意見を踏まえたうえで検討を進める必要があるものと考えている。

「家族法研究会」や「民法(親子法制)部会」など、離婚後の子の養育の在り方について議論と検討を重ねる組織はすでに存在している。直轄の勉強会を開催することによって、森まさこ法務大臣はこの問題に危機意識を持っていると強調する狙いがあるのかも知れないが、政府が一刻も早く取り組むべきなのは、やみくもに複数の会議体を設置することではなく、当事者である国民の声を聞いたうえで、事態の解決に必要な制度の導入や法改正を推進していくことのはずだ。


<参考リンク>

平成28年度全国ひとり親世帯等調査の結果

令和元年(2019) 人口動態統計の年間推計


@kimuu

2020/08/05

養育費未払いがシングルマザー家庭の貧困の引き金になり、学力格差にも繋がっていく。この問題を放置したままでは、この国の先行きまで怪しくなるのではないだろうか。ぜひとも、各委員会が連携を取り、早期解決へ向かっていってほしい。

 詳細情報

質問主意書名 :法務大臣養育費勉強会に関する質問主意書 
提出先 :参議院
提出国会回次 :201
提出番号 :143
提出日 :2020年6月10日
転送日 :2020年6月15日
答弁書受領日 :2020年6月19日

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