エネルギー協同組合法案

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提出議員 :近藤 昭一

立憲・国民民主・共産・社民・社保の野党共同で、分散型エネルギーの促進に関する4法案が提出された。その中の一つ、エネルギー協同組合に関する法律案は、地域住民と小規模事業者を構成員とする、エネルギー供給や利用に関する自発的な協同組合の設立を認め、地域の発展に寄与するという内容だ。

この法案によって日本のエネルギー事情がどのように変わっていく可能性があるのだろうか。もう少し具体的に解説していこう。


ヨーロッパでのエネルギー市場の変化を参考にした背景

現在においても、農協や生協・漁業組合など、協同組合に関する法制度はいくつも整備されている。しかし、いずれの協同組合においても、個人が出資して組合を設立できない点が問題視されていた。

外国に目を向けると、ドイツでは再生可能エネルギーの協同組合が活発に活動しており、2015年時点で800以上ものエネルギー協同組合が存在する。「日本でもドイツをモデルケースに、エネルギー協同組合の設立を可能とする制度を設けるべきなのでは?」との要望が多く出たため、今回の法案が提出されたのだ。


エネルギー協同組合の仕組み

今回の法案では、エネルギー協同組合を細かく定義している。ここでは、主要な部分を紹介しよう。まずは組合の基準である。エネルギー協同組合は、以下の条件を満たさねばならない。

  • 一定の地域内の人及び小規模事業者の結合体であること
  • 組合員は任意に加入し、また脱退できる
  • 出資一口の額は均一であり、組合員は一口以上を保有する
  • 議決権や選挙権は出資口数に関わらず、全員一個

次は、エネルギー協同組合の種類と事業内容である。本法案でエネルギー協同組合と規定するのは、以下の3種類だ。

  • エネルギー利用協同組合
  • エネルギー利用協同組合連合会
  • エネルギー供給協同組合

組合自らエネルギーを創出するだけでなく、購入することも可能としていることが分かる。ちなみに、「省エネのために実施した改修額以上の光熱費削減を保証する事業」はESCO事業とも呼ばれ、組合員がサービス利用料を組合に対して支払う代わりに、省エネ診断や資金調達設計等、光熱費削減に関する包括的なサービスを受けられる事業だ。

一方、エネルギー供給協同組合は、地域エネルギーを生産して組合員以外に販売する事業を担う。 設立のためには、エネルギー利用協同組合が10人以上、エネルギー利用協同組合連合会が2人以上、エネルギー供給協同組合が4人以上必要とされている。


なぜ「協同組合」なのか?

エネルギー利用を目的とした組織構築にあたり、なぜ本法案が「協同組合」というスタイルを採用したかという点だが、これは協同組合が市民による組織や地域発電とマッチするからに他ならない。

有志を募り、地域エネルギーを供給する株式会社を作る場合と比較してみよう。会社を作ると、どうしても利益を挙げなければいけない。利益が捻出できなければ、事業を継続することはできない。安定供給が厳しいと、エネルギーというインフラ的要素が強い素材を扱う事業としては致命的だ。また、株式会社の場合、出資した金額に応じて、議決権や利益を変動させる必要がある。

上記で紹介した通り、エネルギー協同組合は出資金額に関わらず議決権は平等なので、定義に反してしまう。「NPOにすれば良いのでは?」との意見もあるが、 NPOはそもそも出資が認められていない。

エネルギー事業を行いたいと検討する多くの人が事業を営利だけでなく、非営利目的で考えている。ただ、単なるボランティアではなく、地域のために役立ちたいという想いが強い。できれば収益をコミュニティーに還元したいと考えているし、余剰資金を使って施設等の整備を実施したいとも考えている。このため、事業として継続的に利益を挙げる体制が必要なのである。

このような点を踏まえると、協同組合に法人格を与え、共益目的で構成員がお金を出し合う法人を認めるのが適切だと言えるだろう。


本法案のメリット・デメリット

メリットは、再生可能エネルギーの普及を促進する点にある。日本は2030年時点で、再生可能エネルギーの割合は22~24%に上げると目標を定めているが、本法案が成立・施行されれば、目標の達成に寄与するだろう。

デメリットは、現状、地域の自主性にによるところが大きいため、事業として成り立つフェースまで進めるのか疑問があるところだ。ただ、この点は、個人だけでなく事業者も構成員として認めることで、バランスを取っているともいえる。個人よりは資金力や技術力に優れる事業主が加入すれば、事業を成立させるレベルにまで持っていくことも可能だろう。


<参考リンク>

経済産業省資源エネルギー庁

再生可能エネルギーの担い手”市民エネルギー協同組合|東京財団政策研究所

農林金融2016年7月号

最新の賛成コメント

@kimuu

2020/10/21

普段の買い物も生協(生活協同組合)でまかなっている主婦としては、ライフラインであるエネルギーも協同組合で参加できるようになるのは、かなり魅力的です。イタリアの例だとお金持ちだけでなく、少ない出資金でも参加できるような取り組みをしているようですし、SDGsへの取り組みにもなる希望が持てる法案ではないでしょうか。

最新の反対コメント

@TONOさん3号

2021/04/14

みんなが平等にという考え方が元にある協同組合ですが不思議と利権(お金の問題じゃなくて強制力みたいなもの)が絡みます。この案がそういう方向に行く懸念はある。 また日本は地域の自主性は弱く何もできないのでは?と思う。 エネルギー会社が地域に根付いて地域の産業にも出資する形で共生する形をとれないだろうか?

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@TONOさん3号

2021/04/14

みんなが平等にという考え方が元にある協同組合ですが不思議と利権(お金の問題じゃなくて強制力みたいなもの)が絡みます。この案がそういう方向に行く懸念はある。 また日本は地域の自主性は弱く何もできないのでは?と思う。 エネルギー会社が地域に根付いて地域の産業にも出資する形で共生する形をとれないだろうか?

@restog

2021/04/03

今までは、節約のために節水や節電をしていた人が、人間らしい生活をすることが出来るようになるのは良いことだと感じる一方で、戸籍上の理由(無国籍など)で、協同組合の恩恵から外れてしまう人が一定数出てきてしまうのも無視できない問題だと思う。

@kimuu

2020/10/21

普段の買い物も生協(生活協同組合)でまかなっている主婦としては、ライフラインであるエネルギーも協同組合で参加できるようになるのは、かなり魅力的です。イタリアの例だとお金持ちだけでなく、少ない出資金でも参加できるような取り組みをしているようですし、SDGsへの取り組みにもなる希望が持てる法案ではないでしょうか。

 詳細情報

議案件名 :エネルギー協同組合法案 
提出国会回次 :198
議案番号 :24
議案種類 :衆法
提出議員 : 近藤 昭一
提出日 :2019年6月14日
公布日 :
法律番号 :