現在のところ、日本にはセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)を禁止する法律はありません。男女雇用機会均等法(以下、均等法)第11条で、事業主に、セクハラを防止するために必要な「措置」を講ずる「措置義務」があるとするにとどまっています。
そんな中、2020年6月8日に、議員立法による、業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案(以下、本法案)が衆議院に提出されました。
この法案は、2019年4月に提出されて廃案となった同名の法案に、ILOの動き(※)も加味して「国際的動向を踏まえ」等を追記したものです。
※ILOの動き:2019年6月にILO(国際労働機関)で、職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する初の国際条約が成立した。
法案では、業務に関連し又は業務上の地位を利用して、フリーランスを含む従業者や就活生・教育実習生に、その意に反し、精神的・身体的な苦痛を与えるおそれがある性的加害言動を行うことを禁止しています。また、事業主・国・地方公共団体の責務についても定めています。
近年、セクハラや性的暴行の被害者を支援する「#MeToo」運動がブームになったこともあり、セクハラを巡る議論は世界で活発化しています。そんな中、日本初となるセクハラ禁止法案がどのように決着をつけるのか気になるところです。
今回は、本法案の特色や課題などについて、わかりやすく解説していきます。
本法案において、禁止されている「業務等における性的加害言動」、いわゆるセクハラは以下の通りです。
事業者の使用人や会社役員、従業員、個人事業主などが「業務に関連し、又は業務上の地位を利用して行う、(被害者の)意に反する性的な言動」のうち、被害者に対して以下の精神的または身体的な苦痛を与えるおそれがあるもの
その苦痛の例としては、
が示されています。
現在、労働現場におけるセクハラ防止に関する規定は、2006年に改正された均等法第11条に定められています。
第11条
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
同条で規定しているのは、セクハラを受けた従業員の不利益等がないよう、事業者に対し、体制の整備等必要な「措置」を求める「措置義務」です。
今回の法案では
第三条 従業者等は、業務等における性的加害言動をしてはならない。
と、明確にセクハラ禁止を盛り込みました。
本法案では、セクハラの被害者となりうる対象を拡大しました。均等法11条においてセクハラの被害者となりうるのは、事業主に雇用されている労働者のみです。本法案では、個人事業者(フリーランス等)や従業者になろうとする者(就活生や教育実習生)にも対象を広げています。
フリーランスがセクハラを受けたとして民事訴訟を提起したり、就活生が大手商社や大手ゼネコンの社員にセクハラを受けたりしたというニュースを目にした人は多いでしょう。最近では、オンライン面談中に部屋全体や全身を見せるよう要求する新手のセクハラ被害も報告されているようです。
コロナ禍の影響で、「買い手市場」の時代に突入しています。就職に対する不安が大きくなり、立場が弱い就活生に対し、このようなセクハラが増えることも考えられます。本法案で、被害者の対象が広がったことにより、このような人への救済も可能になりそうです。
しかし、企業に対してただでさえ弱い立場のフリーランスや就活生が、セクハラ被害を受けた場合にそれを告発するのはそう簡単ではないでしょう。セクハラ被害が泣き寝入りにならないような仕組み作りが求められるでしょう。
セクハラ禁止規定がない日本で、本法案が成立すると、セクハラ撤廃に向けた大きな一歩となりそうなものですが、実効性の面で課題を残しています。というのも、本法案には罰則規定がなく、本当にセクハラ被害の抑止力になるのかどうか疑わしい部分があるからです。
世界銀行による2018年の世界189か国・地域の調査によると、セクハラに対して何かしらの罰則を設けている国がほとんどです。
- 刑事罰・民事救済(※)がある 48か国・地域
- 刑事罰のみがある 31か国
- 民事救済のみがある 41か国
- 両方ともない 69か国(日本を含む)
※民事救済:裁判所において損害賠償が得られる
実効性を高めるためには、何かしらの罰則を検討するべきですが、本法案には盛り込まれませんでした。
罰則を規定する代わりに、本法案が定めたのは、事業者・国・地方公共団体が、セクハラ被害に関して行わなければならない施策です。
事業者
加害者に対する懲戒、研修の実施
被害者に対する情報提供
国
セクハラの禁止に関し、指針を作成
国・地方公共団体
相談体制の整備、専門知識を有する人材の確保、養成
トラブル解決のために、事実関係を調査、セクハラか否かの判断
上の判断の結果を就業環境の改善等に活用するため、体制の整備
被害者が行う損害賠償請求を援助、その他の必要な施策
被害者支援の施策実施にあたって、名誉、生活の平穏への十分な配慮
セクハラに対する国民の関心と理解を深めるよう教育、啓発の推進
このように、本法案はこれまでとは異なり、事業者以外にも必要措置を求めています。
なお、国や地方公共団体は被害者の損害賠償請求を援助することが求められていますが、ここで言う損害賠償請求は、請求の権利があるという一般的な規定のことです。セクハラ被害者が必ずしも損害賠償を得られるという規定ではないことに注意してください。
また、どのような言動が禁止されるのか、具体的な内容を定めた指針は国に作成を委ねるということから、法案成立後に禁止規定がどれほどの効果を発揮するのか図りかねます。現段階で本法案は、セクハラを全面的に撤廃するための小さな一歩に過ぎないのかもしれません。
みなさんは、本法案についてどう考えますか?
@なんたん
2021/05/23
昔に比べてセクハラは大分厳しくなったと思います。相手がそう感じたらアウトと言うことで気にして喋れないと言う男性がいました。無理のない線引きをしてくれたらと思います。
まだ反対意見が投稿されていません。
@なんたん
2021/05/23
昔に比べてセクハラは大分厳しくなったと思います。相手がそう感じたらアウトと言うことで気にして喋れないと言う男性がいました。無理のない線引きをしてくれたらと思います。
@restog
2021/05/22
対象がフリーランスの人や就活生にも当てはまるという点が大きいと思った。ただし、フリーランスの場合、セクハラを受けたという証明をどうやって示すのか、ということに課題があると考えた。
@ichi369
2021/01/25
法律に規定することで、抑止力への第一歩になると思います。罰則規定については、痴漢冤罪のようにセクハラ冤罪を生む可能性があるので、線引きが難しいように思います。しかし、罰則が無ければ、セクハラも無くならないと思いますので、社会情勢を見ながら慎重に厳罰化してもらいたいです。
@rolling893
2021/01/21
法律を根拠にしないと企業内での罰則規定等を整備しづらいので、法律には賛成です。罰則も必要との意見もあると思いますが、それが進むと痴漢冤罪のように濡れ衣で加害者認定されるケースが増えると思うので個人的には今の案でよいかと思います。
@だるばーど
2021/01/20
弱い立場だった就活生やフリーランスも対象に加わったのは、ようやくという印象ですがかなりの進歩だと思います。罰則規定が無いのは残念です。法制化することでセクハラに対する意識の変容を促せますし、もしセクハラされたときに訴える根拠にもなるので法制化に賛成です。
@TONOさん3号
2021/01/20
あまり大きく幅を取り過ぎて些細なこともセクハラというのには反対ですがある程度は法律で縛らないと仕方ないかな。あまりにも酷い言動をする人は少なからずいる。 上に立つものがその考えでよいのかと思ったことは多々ある。また少数ながら男に対するセクハラもあるようでその面も平等に声を救いあげられるように整備して行って欲しいです。
@m_kmtm@0101
2021/01/20
世間では話題になっているのに、セクハラ禁止の法律がなかったことに驚いた。フリーランスも対象になるのは良いと思う。コロナ禍で在宅のフリーランスになった人も増えたと思うので、そういう人達も安心して働けるような法案にしてほしい。
@もも
2021/01/19
就活生なども対象になるということで、とてもいい法案だと思います。仕事絡みでのセクハラは、法的措置によってどんどん無くしていくべきです。ただ、厳しくしたほうが効果は出ると思うので、どうせなら罰則規定も盛り込んでほしかったなとは思います。
議案件名 : | 業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案 |
提出国会回次 : | 201 |
議案番号 : | 18 |
議案種類 : | 衆法 |
提出議員 : | 西村 智奈美 |
提出日 : | 2020年6月8日 |
公布日 : | |
法律番号 : |