児童手当、医療費負担はこう変わる 「全世代型社会保障改革」の注目施策を解説

我が国の少子高齢化には歯止めがかからず、2045年には65歳以上の高齢者の割合が人口の3分の1を越える見込みです。このような状況下で、昨年12月、政府が少子高齢化に対応した社会保障制度を目指す「全世代型社会保障改革」の最終報告を閣議決定しました。

政府は現在、この改革を進めるべく、今国会で関連法案を提出しています。今回はその中でも注目度の高い施策である「児童手当」と「医療費負担」の見直しに関する内容をわかりやすく解説しています。


全世代型社会保障改革とは?

まず、「全世代型社会保障改革」について説明していきます。

現在の社会保障制度は、現役世代より、高齢者への給付を手厚く行う構造で、給付に充てられる財源は現役世代が主に負担しています。しかし、少子高齢化が進行している中で、現行制度を保持していると、現役世代への負担が大きくなりすぎてしまいます。この問題を見直すため、2019年9月、前安倍政権によって打ち出されたのが「全世代型社会保障改革」です。

本政策は、菅政権に引き継がれ、2020年末に意見がまとまりました。「少子化対策」と「医療」という2つの軸で改革が進みます。

それぞれの方針と具体策について下記表にまとめました。

方針 具体的な施策
少子化対策 ①不妊治療への保険適用 ・2022年度から適用開始(それまでは1回30万円の助成金支給)
②待機児童の解消 ・2021~2024年度までに、約14万人分の保育の受け皿確保
・そのための安定的な財源確保のため、児童手当の見直し
③男性育休の取得促進 ・出生直後の休業を促進する新たな枠組みの導入
・本人または配偶者の妊娠、出産を申し出た労働者に対して、休業制度の周知や職場環境の整備等を事業者に義務付け
医療 ①医療提供体制の見直し ・都道府県に新興感染症への対応を位置づけ
・かかりつけ医機能の強化、外来機能の明確化と連携
・オンライン診療の推進
・医師の働き方改革、医師偏在に関する実効的な対策の推進
②後期高齢者の自己負担割合の見直し ・一部の後期高齢者の医療費自己負担を2割に引き上げ
・施行後3年間は、ひと月の負担増を最大3000円に収める措置を導入
③大病院への患者集中を防ぎ、かかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大 ・定額負担の対象病院の範囲を拡大

児童手当の対象見直し

全世代型社会保障改革の一環として、児童手当の支給対象に見直しがかけられます。改正点は以下の通りです。

改正前 改正後
夫婦で高い方の年収
960万円以上
→特例給付の対象
夫婦で高い方の年収
960万~1,200万円未満
→特例給付の対象
1,200万円以上
→特例給付の対象外

児童手当は原則として児童1人当たり月1万~月1万5,000円の範囲で支給されますが、所得が一定以上ある世帯には特例給付といって5,000円に減額されます。今までは年収960万円以上が特例給付の対象となっていましたが、今回の改正で年収1,200万円以上の人は特例給付すら支給されなくなります。

本法案の背景には、待機児童解消の目的があります。現状、待機児童の数は減少傾向ですが、政府は今後も待機児童の解消を目指し、保育士の増員や幼稚園やベビーシッターを含む地域の子育て資源を活用する「新子育て安心プラン」を推進するとのことです。児童手当の支給額の減額分は、この「新子育て安心プラン」の予算確保のために利用される予定です。

児童手当見直しは、2022年10月分から適用される予定です。このスケジュールに間に合わせるために、現在行われている通常国会に関連法案が提出されています。


医療費負担の見直し

全世代型社会保障改革の一環として行われる、医療費負担見直し制度は以下の通りです。

改正前 改正後
後期高齢者(75歳以上)
→一律、窓口での医療費負担が1割
後期高齢者
→以下の条件を満たす人は、窓口での医療費負担が2割
  • 課税所得が28万円以上(所得上位30%以上)
  • 単身世帯の場合、年収200万円以上
  • 複数世帯の場合、後期高齢者の年収合計が320万以上

2022年以降、団塊の世代が後期高齢者の枠に含まれるようになるため、後期高齢者の数が今まで以上に増えることが確実視されています。当然、後期高齢者への給付も増えますが、現役世代は住居費や教育費等支出も多いので、今まで以上負担額を増やすことは難しいでしょう。

そこで高齢者のなかでも負担能力のある方には、負担をお願いすることで、現役世代への負担軽減をはかる目的があります。

改正案の施行時期は、施行に要する準備期間も考慮して2022年後半からで、具体的な期間は政令で決められるとのことです。


政府と公明党で意見が割れた2つの施策

児童手当と医療費の見直しをめぐっては、政府と公明党で主張が割れていました。

児童手当に関しては、そもそも公明党は見直しに反対しており、保育の受け皿の確保は別の財源で対応した方が良いと主張していました。公明党が譲歩したので、今回の内容に落ち着いています。ただし、政府が当初、特例給付の廃止は年収1,500万円と主張していたことを踏まえると、公明党に対し多少は歩み寄りを見せた印象です。

また、高齢者医療費については、政府は負担率を2割にあげる基準を「単身世帯の年金収入が170万円以上」としていました。一方公明党は「単身世帯の年金収入が240万円以上」と主張していました。公明党側の主張を取り入れれば負担が増える高齢者の割合は減る一方、現役世代への負担軽減の効果は小さいです。政府の主張を取り入れれば負担が増える高齢者の割合は大きくなる一方、現役世代への負担軽減効果も大きくなります。結局、両者が歩み寄り、年収200万円に落ち着いています。

しかし、国民に説明できるデータ・根拠が明示されずに意見がまとまったので、もやもやした気持ちを抱く人もいるでしょう。


まとめ

条件を満たした場合に限定されるとはいえ、現役世代の負担が軽減するのは確かです。しかし、児童手当の対象を縮減すると、新たに子どもを産み育てようとする人が減り、少子化を助長してしまうという本末転倒な事態を引き起こす可能性があります。また、一部の後期高齢者の医療費負担引き上げに関しても、コロナ禍で受診控えが起こっている中、負担を増やすことによって、さらに受診控えを促すことになるという懸念も指摘されています。

全世代型社会保障改革という名の通り、全ての世代が支えあい、進展する少子高齢化に対応できる改革になるのか注目していきたいです。

7 件のいいね    0 件のコメント

@もも

2021/05/19

児童手当の見直しについては反対の声が多いようなのでどうなのかな?と思っていたのですが、見直し後に待機児童の解消にお金がきちんと回るのであればいいと思いました。また、後期高齢者の医療費負担の見直しは、とてもいい案です。高齢者は特にお金に余裕のある方もたくさんいると思うので、余裕のある方にはある程度の医療費は払っていただいたほうがいいと考えます。

@TONOさん3号

2021/05/17

払える人は払う。それは基本だと思います。 負担が上がる人も社会に貢献するという考え方で生きていくってことですね。少しずつ見直して平等とは言わないがより公正な方向へ進んで行けばよいと思う。 医療費に関しては無駄な受診等が多いのは事実。改善の方向に向いて欲しい。

@なんたん

2021/05/01

これからの世代の負担は大きくなる一方ですね。私は子供に関しての補助はありがたいですが、子供いない人からするとなんのありがたみもないし、今まで自分の税金からかと思うとそこまで入らないと思います。整備してみると無駄はいろいろあると思う。

@restog

2021/03/23

全体的な印象としては良いことだと思った。しかし、改正案の項目によっては、具体性に欠ける部分があるので、確実に現状を変えていくためにはもっと具体的な取り決めが必要ではないか。

@だるばーど

2021/02/27

こういった制度が決められる時、何故その年収で線引きしたかの根拠や理由を示されることがほとんど無いのが残念です。どういう資料をもとにして計算された数字なのかもっと知る機会があればいいのにと思います。

@rolling893

2021/02/16

支援を必要とする人に支援し、する必要のない人にはしない制度にしてほしい。年収の線引きだけでは、年金収入のみで悠々自適の金持ちは対象内、シルバー雇用でカツカツの貧乏人は対象外になったりしないだろうか。

@ichi369

2021/02/15

現役世代の負担を軽減することには賛成です。しかし、根拠に乏しい対象者の線引きには疑問が残ります。少子高齢化に拍車がかからないように、限られた予算を効率よく使って、希望ある未来を構築してもらいたいです。