国会に、内閣府から「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案」(以下、内閣府提出法案)が提出されています。これは、甚大な災害や感染症が発生した際の特別な給付や、一般的な公的給付・貸付け・還付等にあたって、マイナンバーと紐づけした口座(1口座のみ)を活用することで、「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施を図ることを目的」とした法案です。
一方、昨年6月に与党議員から、類似した法案である「特定給付金等の迅速かつ確実な給付のための給付名簿等の作成等に関する法律案」(以下、与党案)が提出されています。
内閣府提出法案の特徴などを、与党案と比較しながらみていきましょう。
1. 一つの預貯金口座のみ登録可能
法案によると、希望する人は、あらかじめ一つの預貯金口座をマイナポータルに、マイナンバーとともに登録できます。登録を希望する場合は、オンラインもしくは金融機関の窓口から内閣総理大臣に申請しなければいけません。
また、特例として、行政機関が預貯金者の口座情報を持っている場合は、申請がなくとも、預貯金者の同意があれば、内閣総理大臣に提供することができます。
そして、行政機関の長等は、給付の必要が生じれば、内閣総理大臣からの口座情報の提供を受けて、給付を行います。
全口座を登録する必要はないので、複数口座を持っている人であれば、プライバシーや情報漏洩への不安はそれほど大きくないかもしれません。
2. 登録口座の利用場面は?
利用場面として示されているのは、主に、公的給付・年金給付・資金の貸付け・税金の還付です。これらのうち、デジタル庁令で定められたものが、登録口座を通して支給されます。
また、他の利用場面として、特定公的給付があげられています。
特定公的給付 | |
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内閣総理大臣が指定する、生活・経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある災害・感染症の発生時に支給される給付や、経済事情の急変の影響を和らげるために支給される給付 |
広範な範囲で給付や還付を受けられ、行政機関の長の間で情報をやりとりすることもできるので、利便性が高まり、支給のスピードが速くなるように思えます。
1. 名簿が一つになった
2020年6月の201回国会で、今回の内閣府提出法案と類似した法案が与党議員(新藤義孝議員など)から提出されています。この与党案と、今回提出された法案との違いについて見ていきましょう。
与党案では、給付を実施するための基礎となる「給付名簿」と、給付と国税等の還付に利用する「口座名簿」の二つの名簿を作成することになっています。一方、内閣府提出法案では、「口座名簿」・「給付名簿」という名称はありません。「公的給付支給等口座登録簿」に口座番号・氏名・マイナンバーなどを登録します。登録簿が一つになり、名簿管理が合理化されているようにみえます。
2. 立法姿勢の変化
与党案では、第2条で、「感染症」「特定給付金等」という文言を用いています。一方、内閣府提出法案では、まず、第2条で一般的な「公的給付の支給等」に触れた後、第10条で「感染症」「特定公的給付」という文言を使用しています。 与党案には、コロナ流行における給付金を端緒としたことがにじみ出ていますが、内閣府提出法案では、一般的な給付や還付を前提としているといえるでしょう。
3. 預貯金口座情報の管理は内閣総理大臣
次に、マイナンバーと口座番号等を紐づけた情報の管理者については、与党案では、「行政機関の長等」と幅広くなっていました。一方、内閣府提出法案では、「内閣総理大臣」と明確になっています。
責任の明確化がなされたという側面と、内閣への集中が強まったという側面とがあるでしょう。
なお、行政機関が内閣総理大臣に氏名・口座などの情報を提供できることは、両法案に共通しています。
4. 預金保険機構の役割
内閣府提出法案では、預金保険機構が、内閣総理大臣の委託を受け、内閣総理大臣と金融機関との連絡、個人番号の確認等を行うことになっています。また、口座情報の登録・変更の届出等は、内閣総理大臣が金融機関に委託します。
与党案では、預金保険機構への言及がないことから、本法案では同機構が大きな役割を占めることになりました。
内閣府提出法案では、デジタル庁令で定めることができる範囲が広くなっています。例えば、「公的給付の支給等」について、具体的に何の支給(貸付け・還付)が対象となるかについて定めるのは、デジタル庁令です。また、国民が口座を登録する方法や、条文に明示されている氏名・口座番号等以外にも登録すべき事項を、デジタル庁令で定めることができます。
与党案では、政令で定める部分はありましたが、省令や庁令で定める部分はありませんでした。内閣府提出法案における、庁令で定める部分の多さが目立ちます。
内閣府提出法案に庁令が多いことから、臨機応変に対応しやすいという利点があるでしょう。しかし、透明性に疑問がある・ガバナンスに問題が生じる危険性がある・国会でのチェックを行いにくいといった問題点があるといえます。
各種の公的な給付・還付・貸付け等に、マイナンバーと口座の紐づけを活用できれば、利便性は高まるでしょう。一方で、情報の漏洩と第三者による悪用の危険性、政府に口座情報を提供することへの抵抗感、デジタル庁令で決める範囲が広いことへの不安などを感じる国民も少なくないでしょう。
内閣府提出法案では、紐づけを任意としたことで、利便性と懸念の折り合いをつけたとみることもできます。公的な支給・還付・貸付けを繰り返し受ける人にとっては、その都度の手続きが簡略化され、利便性が高まるかもしれません。また、行政機関の事務の合理化にもつながるでしょう。
しかし、公的支給などを繰り返し受けない人にしてみれば、メリットは実感しにくいでしょうから、法案が成立したとして、普及がどの程度進むかは未知数です。いずれにせよ、漏洩や悪用の危険性を極小化することや、万一悪用された場合の十分な補償を確立すること、そして、それらのことを国民に周知することが必要と思われます。また、デジタル庁の庁令について監視する枠組みを設けることも望まれるのではないでしょうか。
@ichi369
2021/02/28
税金の還付や国民年金保険料の納付など、行政に対して預貯金口座を開示している人にとってはあまり抵抗が無いことだが、国民の多くは情報漏洩や政府による監視の不安があると思う。目的や利便性を丁寧に説明しなければ、国民への浸透は難しいだろうと思う。
@だるばーど
2021/02/27
マイナンバーに口座を紐付けしたら、確かに給付がスムーズにいき便利だとは思います。しかし、国が国民の収入を把握することにつながるのではないか心配です。アメリカでは今回申請しなくてもssnに紐付けされた口座に政府から速やかに給付金が支払われました。しかし、ssnの番号で金に関わる契約の際にどれだけの収入があるか行政機関に把握されているそうです。日本も将来それを目指しているのかもと心配になります。
@ichi369
2021/02/28
税金の還付や国民年金保険料の納付など、行政に対して預貯金口座を開示している人にとってはあまり抵抗が無いことだが、国民の多くは情報漏洩や政府による監視の不安があると思う。目的や利便性を丁寧に説明しなければ、国民への浸透は難しいだろうと思う。
@もも
2021/02/28
マイナンバーと口座の紐付けが国民に浸透するかと言われると、情報漏洩を気にする人が多そうなので正直難しいと思います。ただ、紐付けは任意とのことですし、希望者が早く給付金を受け取れるようにする仕組みを作ること自体は便利でよいことだと思います。
@だるばーど
2021/02/27
マイナンバーに口座を紐付けしたら、確かに給付がスムーズにいき便利だとは思います。しかし、国が国民の収入を把握することにつながるのではないか心配です。アメリカでは今回申請しなくてもssnに紐付けされた口座に政府から速やかに給付金が支払われました。しかし、ssnの番号で金に関わる契約の際にどれだけの収入があるか行政機関に把握されているそうです。日本も将来それを目指しているのかもと心配になります。
@なんたん
2021/02/26
私は口座を一つとはいえ国に登録するのは抵抗があります。漏洩などリスクはまだ高いと思います。面倒でももらう時に手続きをして、必要なくなれば破棄して欲しいです。
@TONOさん3号
2021/02/25
今回のような事態に対して早く給付金をという声が上がりました。 それを可能にするにはマイナンバーと口座の紐付けです。 きちんと制度設計をするのは大事ですがこの制度は早く進めるべきです。 マスコミも穿った見方ばかりせずに良い点も報道した上で議論して欲しいです。
議案件名 : | 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案 |
提出国会回次 : | 204 |
議案番号 : | 29 |
議案種類 : | 閣法 |
提出者 : | 内閣 |
提出日 : | 2021年2月9日 |
公布日 : | |
法律番号 : |