出入国管理法の改正案を簡単解説 国連も批判する入管による外国人長期収容問題は解消できるのか

出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案

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提出者 :内閣

内閣が、今国会(第204回)に「出入国管理及び難民認定法等を改正する法律案」を提出しています。

2019年、入国管理施設に収容中のナイジェリア人男性が長期間の拘束に抗議してハンガーストライキを行って死亡しました。また、同年には、入国管理施設に収容されていたクルド人男性の家族が救急車を呼んだにもかかわらず、東京入国管理局が2度にわたって救急搬送に消極的な態度をとり、救急搬送ができなかったこともありました。

こうしたことを背景に、入国管理施設への長期間にわたる収容や、収容者の人権問題が注目を集めるようになったのです。そして、2020年9月には、国連の「恣意的拘禁作業部会(WGAD)」が、日本における入管収容が長期に及ぶことを国際法違反であると指摘しています。

今回の改正法案は、こうした長期間の拘束や人権に関する問題を解決することができる法案なのでしょうか。改正法案における収容者を減らす仕組みや、人権への配慮などを見ていきましょう。


長期収容問題を解決するための仕組みを導入

1.収容者の実態

まず、入国管理施設に収容されていた人数の総数と、収容期間6か月以上の人数を見ていきましょう。

    
被収容者数 収容期間半年以上の人数
(総数のうちの割合)
2014年12月末 932 290(31%)
2018年12月末1246 681(55%)
2019年12月末 1054 462(44%)
2020年4月末 914(速報値) データなし

被収容者総数は1000人前後です。また、近年では、収容期間が6か月を超える長期の被収容者は全体の半数近くとなっています。

2.送還を促す仕組みを導入

収容者を減らすために、送還者数を増やす仕組みが導入されます。送還者数を増やす仕組みは、次の2つです。

①難民・補完的保護対象者の認定申請の回数制限

現在は、難民申請中であれば送還の対象外です。また、難民認定申請の回数制限はありません。改正案では、対象外となるのは申請回数が2回までと規定しました。この改正によって、現在と比較すると早期に送還対象となるわけです。

②再上陸拒否期間の短縮

現在、在留が認められない外国人が退去を求められた後、自費で出国すると、再入国が認められない期間が5年ですが、改正案ではこの期間を1年と規定しました。自発的な出国を促す狙いがあります。

3.収容されずに滞在できる仕組みの導入

現在は入国管理施設に収容される場合であっても、社会内で生活できるようにする仕組みを導入します。その仕組みは、次の2つです。

①監理措置の新設

改正法案では、「監理措置」という制度を新設し、これまでは入管施設に収容していた人でも、社会内で生活できるようにしています。

逃亡や不法労働の恐れなどを考慮し、主任審査官の判断で、監理措置を受けることができます。監理措置を受けるには、法務省令で定める保証金(300万円を超えない範囲)を納めることが必要で、住居や行動範囲が制限される等の制約が付されます。また、選定された監理人が、被監理者の生活状況を届け出ることになります。

②補完的保護対象者の新設

また、国籍国で迫害を受ける恐れがある場合、その理由が難民認定のための要件を満たさなくとも、「補完的保護対象者」と認定します。認定されると、在留が許可され、自由に働くこともできるようになります。


収容者の処遇を初めて規定 運用の監視が重要に

1.現行法にない処遇に関する規定を整備
  現行法では、収容中の処遇に関する規定がありませんでした。改正案では、これを整備しています。

①人権規定の整備

被収容者の処遇に関して、人権を尊重し適正に行う旨の規定が新たに設けられました。

②収容所内の処遇に関する規定が網羅的にかつ大量に導入

現行法では、収容所内での処遇に関する規定がありませんが、それが網羅的にかつ大量に導入されました。内容は、以下のとおりです。

収容開始時の告知 下記の金品の取扱い・保健衛生・外部交通・不服申立て等を書面で告知する
金品の取扱
           
  • 日常生活に必要な衣類・寝具・食事・日用品等を貸与又は支給する
  •        
  • 自分の衣類・食糧品・嗜好品・文房具等を原則許可する
  •        
  • 所持・差し入れの金品で、渡せるものは渡す。それ以外は施設長等が保管
保険衛生および医療
           
  • できる限り運動の機会を与える
  •        
  • 適切な入浴を行わせる
  •        
  • 定期的な医師による健康診断を受けさせる(3か月に1回以上)
  • 負傷・疾病の疑いがある場合や、飲食物を摂取せずに心身に著しいしい障害が生ずるおそれがある場合、速やかに医師や歯科医師の診療を受けさせる
規律及び秩序の維持 規律・秩序維持のための措置は、収容確保・適切な処遇環境・安全で平穏な共同生活の維持に必要な限度を超えてはならない
外部交通 原則として、面会と郵便のやりとりを許す
不服申し立て
           
  • 宗教上の制限・書籍閲覧禁止等への不服は、書面で入国在留管理庁長官に審査申請を行うことができる
  •        
  • 収容所等の職員による暴行・不当な手錠の使用等は、書面で出入国在留管理庁長官に申告することができる
  •        
  • 処遇に関する苦情があれば、法務大臣・ 監査官・入国者収容所長等に対し、申し出ることができる
死亡 遺留物を遺族等の申請に基づき引き渡す

これまで、2019年に長崎で収容中のナイジェリア人男性がハンガーストライキの結果死亡したことや、同年に東京で収容中のクルド人男性の家族が呼んだ救急車が2度も東京入国管理局に拒絶されたことが報道されました。

改正案では、ハンガーストライキで心身に著しい障害が生じるおそれがある場合や、疾病の疑いがある場合は、速やかに医師による診療が行われるようになるとされています。可決されれば、上記のような事件を防止できるよう実効性を持って運用されるかが問われることになります。

2.外部によるチェック機能が重要になる

現在は、入国者収容所等視察委員会(第三者機関)が、入国者収容所等の視察等を行い、意見を述べています。出入国在留管理庁によると、2019年4月から2020年3月までに、同委員会は17回の視察を行い、64件の意見を述べました。

改正後も、集中的に充実した視察活動を行い、適切な運用がなされているか確認し、必要な意見を述べていくことが望まれます。また、被収容者からの不服申し立ての具体的な手順を整備し、申し立てが躊躇なく行える状況なのか、申し立てによって不利益を被る危険性はないのかも注視していくことが必要でしょう。


収容から送還までのプロセスには依然として懸念

1.結局不明確な在留の許可基準

現行法では、退去強制対象者であっても在留が許可される(在留特別許可)のは、「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」とされ、基準は不明確でした。

これに対し、改正法案では、「難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき」に在留特別許可がなされることが明記されています。

しかし、現行法における「法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申請があったときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことができる」という難民認定の基準は、改正法案の難民・補完的保護対象者の認定基準にも引き継がれており、基準は曖昧で透明性に欠けたままとなっています。

2.収容の可否を決める入国管理庁の判断に裁判所のチェックなし

現行法、改正法案ともに、入国者収容所への収容の可否は、入国管理庁が判断します。裁判所のチェックが入ることはありません。

つまり、収容する機関が、収容の是非をも判断し、裁判所のチェックもないわけです。刑事事件手続きにおいては、裁判所が施設に収容するか判断し、行政機関が施設で処遇しています。こうした手続きと比較すると、裁判所の関与がないままに行政機関が収容を行うことには問題があるとの見方も成り立つでしょう。

なお、現行法、改正法案ともに、裁判所が関与するのは、入国警備官が行う違反調査(退去強制事由に該当すると思われる外国人に対する調査)の時だけです。


まとめ:疑問が残る改正法案

改正法案では、収容所に収容するほかに、監理人制度をもうけ、社会内で生活する道を開いています。また、収容所の処遇に関する規定を設けるなど、人権に配慮した側面も認められるでしょう。

しかし、現在の難民認定申請中は送還しないという規定に対し、改正法案では送還の対象外となるのは2回目の申請までです。収容の長期化を避ける効果はあるでしょうが、これまでも申請を重ねたうえで認定されたケースがあるといわれており、安易に回数で区切っていいのか疑問が残ります。

また、収容所に収容するという決定に関して、裁判所が関与しないという現状に変化はありません。刑事事件では、刑務所に収容する場合はもちろん、勾留するにも裁判所の判断が必要です。自由を大きく制限する決定であるため、裁判所の関与を求めることが理にかなっているのではないでしょうか。


改正案に対する各種報道機関、団体の見解


参考

収容・送還に関する専門部会
送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言

参議院
新型コロナウイルスが出入国管理行政及び「収容・送還に関する専門部会」に与える影響に関する質問に対する答弁書

最新の賛成コメント

@なんたん

2021/04/15

こんな長い間収容されているとは知りませんでした。裁判所が絡んでないことも驚きでした。まずは法案に従って行ってみて、また問題点があれば修正していけばいいと思います。

最新の反対コメント

@だるばーど

2021/03/09

評価すべき点もありますし、処遇の改善がこれで進めば良いとは思います。しかし、そもそも無期限収容を可能としている現在の人権を無視した収容制度自体を改善すべきであり、そこに手をつけないままの改正法案には問題があると思います。

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@なんたん

2021/04/15

こんな長い間収容されているとは知りませんでした。裁判所が絡んでないことも驚きでした。まずは法案に従って行ってみて、また問題点があれば修正していけばいいと思います。

@もも

2021/03/14

賛成です。外国人の方が入国管理施設に収容されにくくなるのはよいことですね。収容者の処遇も、現状がひどすぎるのでぜひ改善していってほしいです。あとは、外国人の方の審査に時間が掛かるのは分かりますが、半年というのは長すぎるのでなんとか少しでも短くしてほしいと思います。せめて、3 か月くらいにならないものでしょうか。

@TONOさん3号

2021/03/10

少しでも良くなる方向になるのであれば賛成です。 日本は頑ななまでに現状維持が好きな国です。 差別というのではないのかもしれないけど変化を嫌う体質があります。 やはり少しずつ改善して良い方向を探って欲しい。 外国人は概ね日本を好いてくれているので後悔させないような案に整えて行ければよいですね。

@だるばーど

2021/03/09

評価すべき点もありますし、処遇の改善がこれで進めば良いとは思います。しかし、そもそも無期限収容を可能としている現在の人権を無視した収容制度自体を改善すべきであり、そこに手をつけないままの改正法案には問題があると思います。

@ichi369

2021/03/09

法改正によって、処遇が良くなる方向であるのは賛成ですが、やはり長期間収容されることに関しては、もっと緩和されるべきだと思います。世界基準に合わせ、人権を最優先で考える姿勢を示して欲しいと思います。

 詳細情報

議案件名 :出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案 
提出国会回次 :204
議案番号 :36
議案種類 :閣法
提出者 : 内閣
提出日 :2021年2月19日
公布日 :
法律番号 :