防衛省は2019年5月に国有地20ヶ所を調査した結果、ミサイルのレーダー射程範囲や周囲環境を吟味したうえで秋田県の新屋演習場と山口県のむつみ演習場以外は候補となり得ないとの声明を発表した。
しかし、その後すぐに新屋演習場における調査内容に不備があったことがわかる。2019年6月5日に防衛省は、調査の数値9カ所に誤りがあったことを認めている。
この調査ミスに加え、2019年6月8日に秋田市内で行われた地元説明会において防衛省職員が居眠りをしていたことも要因し、県民の反発意識はますます強いものとなった。2020年3月5日には秋田県議会でイージス・アショア配備反対の決議を求める請願と陳情13件が採択されており、政府の強行策に対しての障壁となった。
そうした批判やミスを経て防衛省は青森、山形県など含む配備候補地20ヶ所を「ゼロベース」で再調査を行うことを強いられてきた。果たして政府が示してきたこの「ゼロベース」の具体的な指標とはどういったものであったか、答弁をもとに見ていこう。
連日メディアで報道されている「イージス・アショア」とは自国に発射されたミサイルを自動で感知し、迎撃ミサイルを発射してこれを迎撃する地上設置型防空システムである。
現在、地球上にあるイージス・アショアはアメリカ軍で採用されている3基のみだ。ルーマニアとポーランドに実戦用が2基とハワイに実験用の1基が設置されている。
日本におけるイージス・アショアの配備計画は2017年から始まった。防衛省は防衛白書(防衛政策の基本理念について日本国民の理解を求めるために毎年刊行されているもの)において、配備に至った背景として北朝鮮の核実験またミサイル配備としている。
政府は3年間にわたってイージス・アショアの配備を試みてきたわけだが、その選定基準とは一体どういうものだろうか。
防衛省はかねてより ①国有地の抽出 ②遮蔽に関する検討 ③インフラに関する検討 の条件を吟味し、それらをふまえて初めて ④国有地の機能・役割等に関する検討 、つまり地元への理解や住宅地とイージスアショア施設との距離など検討し、配備地を決定すると述べていた。 裏を返すと再調査に至るまでは「住宅地などからの距離」がさほど考慮されていなかった、という意図として受け取られかねない。
2019年11月21日の記者会見で菅官房長官は、「様々な条件を総合的に評価していくことになるが、住宅地などからの距離は重要な考慮要素になる。その旨を防衛省にも伝えている。」と発言している。
これは、すでに適地とされていた秋田県新屋演習場は配慮が不足していたという認識にほかならないのではないか。ここに菅官房長官と防衛省の間における考えの相違がうかがえる。
そもそも、適地として認定するまでの過程は適正であったのか。菅官房長官という行政のトップが「住宅地などからの距離」に選定基準の重きをおいていた。だとすれば ①国有地の抽出 ②遮蔽に関する検討 ③インフラに関する検討 の条件を満たして初めて地元への配慮を検討するのではなく、大前提として「住宅地などからの距離」などが考慮されるべきではないかと、緑川議員は提言している。
答弁:配備及び運用に当たっては、地元の皆様に安全上の影響が生じないようにすることが大前提である。政府としては、20の国有地について「ゼロベース」で公平に検討していく考えだ。評価に際して、地元の皆様の不安や懸念を解消し安心していただく観点から住宅地等からの距離を重要な考慮要素とする考えであるが、具体的な評価の方法については今後検討していきたい。
周知のとおり2020年6月15日に日本政府はイージス・アショア配備計画を中止した。防衛省は山口県萩市での説明資料などで「イージスシステムは国防に必要不可欠である。」と主張し続けてきたからこそ今回の計画中止は衝撃である。
かねてより批判されてきた莫大な予算への批判はもちろん、冒頭で述べたように国民の理解を得られなかったことも中止の大きな決め手になったことは明白だ。
イージス・アショア配備計画を中止したことで日本の防衛政策は根底からの見直しの必要が出てくるはずだ。3年間に及ぶイージス・アショアをめぐる計画の反省をふまえ政府にはよりいっそう真摯な姿勢で、透明性のある国防政策を示してほしいものである。
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質問主意書名 : | イージス・アショアの配備候補地選定に関する質問主意書 |
提出先 : | 衆議院 |
提出国会回次 : | 200 |
提出番号 : | 180 |
提出日 : | 2019年12月4日 |
転送日 : | 2019年12月9日 |
答弁書受領日 : | 2019年12月17日 |