種苗法の改正に関する質問主意書

提出議員 : 丸山 穂高

自家採取の禁止と種苗の海外流出

種苗法の改正法案が内閣から提出されている。この改正法案には反対意見が多いが、その中でも特に批判の対象になっているのが、登録品種の農家による自家採取(増殖)の禁止であろう。

登録品種の権利である育成者権を保護すること、特に登録品種の不正な海外流出を防ぐことは重要ではあるが、従来許されていた農家による登録品種の自家採取の禁止が本当に必要なのだろうか。そもそも「種苗の海外流出」と「自家採取の禁止」は関連した問題なのか、全く別個の問題なのか。

もしも政府がその疑問を払しょくできないのであれば、種苗法の改正に反対する人々が主張する、「自家採取を禁止することで農家が民間企業から種苗を購入することが必要になり、結局は海外企業を含む民間企業の利益を誘導する法改正」との声が更に強まるだろう。

丸山穂高議員は政府による国民への丁寧な説明が必要とし、統計データの開示や疑念点に対する政府の説明を求めている。

また、登録品種の種苗の海外流出防止に対しても「現行法で対応できるのでは」との声があるようだ。この疑問についても政府がどのように説明をしているのか、見ていくこととしたい。

法改正を見越した駆け込み登録品種数の増加はあるのか

この法改正により、従来は認められていた農家による登録品種の自家採取が育成権者の許可なしには認められなくなる。そうすると、この法改正を見越して品種を登録品種として登録しておき、農家へ種苗の販売機会を増加させようとする動きが出てくることが考えられる。そのような事態を見越した動きは近年の登録件数に表れているのだろうか。実際の統計データを確認することから議員は質問を始めている。

登録品種数と一般品種化品種数の推移

年度 登録品種数 登録品種数と
一般品種化品種数の合計
割合
2014 8,204 24,275 34%
2015 8,269 25,166 33%
2016 8,291 25,949 32%
2017 8,311 26,744 31%
2018 8,135 27,396 30%

登録品種数は過去8200件前後で推移しているが、一般品種化品種(編集部注:登録品種の育成者権が消失して一般品種となった品種)が徐々に増加しているため、全体に占める割合は34%から30%へと緩やかに減少している。登録品種数が急激に増加している事実はなく、データを見る限り上述したリスクは少なくとも現時点では顕在化していないことが分かる。

では、登録品種の数と一般品種化品種の数はどのように推移してきているのだろうか。

登録品種数と一般品種化品種数の推移

年度 登録品種数 一般品種化品種数 合計
1998 4,018 3,149 7,167
2003 5,382 6,671 12,053
2008 7,338 10,816 18,154
2013 8,134 15,251 23,385
2018 8,135 19,261 27,396

登録品種数は8000種を超えた時点で安定しているのに対し、一般品種化品種数は急激に増加している。これは、一時期は登録品種として保護されていた品種が、育成者権が消滅したことで一般品種として急速に保護の対象から外れていることを意味する。

こうしてデータを見てみると、法改正により農家が自由に自家採取できなくなる登録品種が年間で8000件程度登録されている一方、育成者権の消滅により一般品種化=育成権者の許可なく農家が自家採取できる品種も増えてきていることが分かる。

もちろん今回の改正法案では、登録品種として農家が自家採取できない品種が毎年8000種程度増加するが、その一方で登録品種ではなくなる種も20000件以上存在する訳なので、農家は一般化品種を栽培すればよいとの意見も出てくるかもしれない。競争力のある品種は登録品種として登録されるので、農家の負担は確実に増えるのであろう。この辺りは、実際に農家の経済的負担がどの程度増加するのかの試算を見るなどしないとなかなか結論がでないと思うが、今回の質問ではそこまでは踏み込んでいない。


改正案で自家採取が一律に禁止されてしまうのか

そもそも、本改正案は現行法21条2項を廃止するとしているが、それにより同条項が規定する「農業者による登録品種の種苗の利用行為」を一律に禁止するものなのかどうか、丸山議員は追及している。

農業者は、同法第二十六条第一項の規定により、育成者権者から通常利用権の許諾を受けることにより、いわゆる自家増殖を行うことができるため、これが一律に禁止されるものではない。

許諾を受ければ自家増殖が可能というのは当然といえば当然であり、今までは許諾が不要だった点を考えれば、禁止ではないにせよ農家へのインパクトは相当にあるのだろう。


在来種を新品種と偽って登録されてしまうリスクに対する措置

次に、今回の法改正では、農家が既に自家採取してきた在来種が逆に品種登録されるようなことはあるだろうか。また、在来種を新品種と偽って登録をうけるケースなども想定することが必要だが、そのような場合になどのような措置がとられるのだろうか。

在来種が品種登録されるのではとの疑問に対して、政府は以下のように答弁し否定している。

品種登録を受けるためには、出願者は育成者であること、公然知られた他の品種と特性の全部又は一部により明確に区別されること、出願品種の種苗又は収穫物が日本国内において品種登録出願の日から一年さかのぼった日前に業として譲渡されていないこと等が必要であり、お尋ねのような品種が品種登録されることはない(一部省略)

また、在来種を新品種と偽って登録を受けるケースについては品種登録が取り消されるだけではなく、罰則が規定されている。

当該品種登録を受けた者は三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金(法人に対しては一億円以下)が科される(一部省略)

以上みてきたように、今回の改正法案を見越した、品種登録の増加は見られていない。また、在来種が品種登録されることはなく、在来種を偽って品種登録した場合には処罰の対象になるようだ。


現在の種苗法で海外流出が防げない理由とは

最後に、今回の改正法案のもう一つの目的である、登録品種の不正な海外への流出防止についての質問を確認してみたい。海外流出の規制については、現在の種苗法もそれを想定した条文をもっている。具体的には、 登録品種の育成に関する保護を認めない国に登録品種の種苗を輸出した場合は、登録品種の育成者権の効力が引き続き及ぶとして、登録品種の海外流出を規制(21条4項)している。政府が、同条項では登録品種の海外流出を防止できないと考える理由はどこにあるのだろうか。

現行法の規定は、品種の育成に関する保護を認めている国(「植物の新品種の保護に関する国際条約」に加盟している国等)への種苗の輸出については、育成者権は及ばないと指定している。その為、現行法では、これらの国に対する登録品種の種苗の輸出を制限できず、海外への流出を防止できない状況である。

現行法21条4項は分かりづらい条文だが、要はその条文で流出防止をカバーできるのは、そもそも品種育成の保護を認めていない国に対する登録品種の種苗の輸出であって、現在問題になっている国=品種育成の保護を認めている国への輸出を制限する根拠にはならないとのことである。


以上みてきたように、現時点で登録品種が急激に増加していることはない様だ。だが、それが農家の経済的負担が合理的な範囲内にとどまることを直接的に説明することではないことも事実である。 また、登録品種の農家による自家採取の制限と、海外への不正流出の防止がどの程度リンクしている問題なのかが分かりづらいのも、この改正案への意見が分かれる原因であろう。両者がリンクしていないのであれば、それらを分けて議論すればよいし、もし互いに関連しているのであれば、その関連をデータで示すなどして、合意を形成すれば良いのではないだろうか。


@kimuu

2020/07/08

丸山穂高議員がこの質問でされているように、単なる種の海外流出を防ぐ目的なら、現行の種苗法で対応できるのではないかと感じます。 種苗法は真の目的があるようで、簡単に見過ごしてはいけない問題だと思うのです。日本の農業を守るためにも。

 詳細情報

質問主意書名 :種苗法の改正に関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :201
提出番号 :228
提出日 :2020年6月4日
転送日 :2020年6月10日
答弁書受領日 :2020年6月16日

 関連するイシュー・タグ・コンテンツ