「手続きに手間がかかる…」不在者投票の利便性を高めるには?

不在者投票制度に関する質問主意書

提出議員 : 丸山 穂高

不在者投票は旅行や冠婚葬祭等を理由に、期日に選挙人名簿に登録されている自治体(住民登録がある自治体)で投票できない場合に、滞在先の自治体で投票できる制度です。また、あまり知られていませんが、不在者投票制度には、入院をしている方が、指定された病院内で投票を行える制度や、郵便によって名簿登録地の選挙管理委員会に票を送付できる制度もあります。

【不在者投票制度】

  • 名簿登録していない自治体の選挙管理委員会での投票
  • 指定病院等(都道府県の選挙管理委員会が指定した病院、老人ホームなど)での投票
  • 郵便等による投票(対象者に条件あり)

不在者投票制度を利用する人が増えれば、伸び悩む投票率の改善が果たされるかもしれません。しかし、どの不在者投票も、投票用紙を、事前に地元の自治体に申請し、入手する必要があり、手続きに手間がかかります。

今回の質問主意書で、NHKから自国民を守る党の丸山穂高衆議院議員は、土曜の配達を廃止する、郵便法の改正や新型コロナウイルスの感染拡大の状況を踏まえると、不在者投票制度における投票環境を改善する必要があるのではないかと主張しています。

不在者投票について、わかりやすく解説します。


投票用紙の入手を簡単にする方法は検討しているが…

不在者投票制度を利用するには、まず、名簿登録地の選挙管理委員会に直接、または郵便、オンラインで投票用紙を申請する必要があります。

投票用紙のオンライン請求は2016年、総務省が省令を改正したことによって可能となりました。このシステムを導入するかどうかは各市町村の判断に委ねられていますが、全国的に見ると、あまり普及していないのが現状です。

オンライン請求は、投票用紙の入手方法において、非常に利便性が高いと思えますが、この現状について、政府はどのように考えているのでしょうか。丸山議員が質問しています。

質問 不在者投票時に使う投票用紙をオンラインで受け付ける自治体があるが、実施している自治体は少ない。政府としては、なぜこのオンライン申請を実施しない自治体がいるのか、理由を把握しているか。また、政府がこうした自治体に対して、オンライン申請導入にかかる支援を行うと投票環境の改善に効果があると思われるが、どう考えているか。

答弁 2017年に総務省が行った「不在者投票の投票用紙等のオンラインによる請求にかかる意向調査」によると、オンラインによる不在者投票用紙の請求制度を整備しない理由として、電子申請システムが存在しないこと、不在者投票の利用者数が少ないことなどが挙げられている。また、「投票用紙などのオンライン請求の導入支援」については、オンライン請求を可能にするための必要事項について、質疑応答集を作り、各選挙管理委員会に提示している段階である。

答弁によると政府は、投票用紙のオンライン請求に関する調査を行い、現状を把握、各自治体に導入を促しています。実現のスピード感がいかほどのものかは分かりませんが、比較的前向きに、オンライン請求の普及を進めようとしているのではないでしょうか。

さらに、丸山議員はそもそも不在者投票制度において、登録地の投票用紙を取り寄せる仕組みに負担があるとして、滞在地で投票用紙を受け取り、その場で投票することができる仕組みを導入することを提案しました。政府の考えを見てみましょう。

質問 投票の秘密の保持や投票用紙の書式の統一など導入の際は考慮すべき事項はあるが、実現すれば投票環境の向上に繋がる。不在者投票の投票用紙を滞在先の選挙管理委員会で入手できる環境を整備することについてはどう考えているか。

答弁 滞在先で投票用紙を入手できる環境の構築については検討したが、選挙管理委員会の事務作業量の増大や選挙の公正の確保において課題が山積している。具体的には、住所地の自治体から滞在先の自治体に通知する仕組みを構築する必要や、当該通知後に選挙人が滞在地を変更する場合どうするのかなど検討する必要がある。

より利便性の高い不在者投票について、政府としても様々な研究をしているようです。しかし、乗り越えなければならないハードルが多く、なかなか実行に踏み切れないのが現実なのでしょう。


郵便法改正によって用紙受け取りまでの期間が延びることへの対策

オンライン請求、滞在地での投票用紙受け取りの普及・導入が難しいとなると、当面はこれまで通り、名簿登録地で直接または郵便を利用して、投票用紙を受け取ることになります。しかし、ここでも懸念すべきことがあります。それは、郵便法の改正で、普通郵便物の土曜配達が廃止されるため、不在者投票の投票用紙の送達が遅れるのではないかということです。来年秋には施行される予定だと言われていますが、その対応策について、政府はどう考えているのでしょうか。

質問 郵便法改正案によると、普通郵便物の土曜配達を取りやめるため、差出から配達までに要する日数が増えることになる。本改正により、不在者投票の投票可能期間を十分に確保できなくなる恐れがあると考えられるがどう対応していくのか。

答弁 郵便法の改正によって、選挙人から不在者投票の投票用紙の請求があった場合に、従来と比べさらに時間を要することになるのは事実。「不在者投票を希望する人や、病院や老人ホームなどの指定施設の管理者に対し、これまでよりも速やかに投票用紙を請求する必要があると周知すること」、「指定施設に対しては投票用紙を速達で送るよう十分に周知すること」が望ましいことを踏まえ、適切に対応していきたい。

政府としては、不在者投票の投票用紙の配達が遅れる可能性は認識しているようです。人にできるだけ早く申請してもらう、速達を利用してもらう、という2つの方針で対応していくとのことです。


新型コロナで影響を受けた有権者を郵便投票制度の対象者とするのは現状難しい

新型コロナウイルスの感染者や濃厚接触者は隔離の必要があるため、その期間は投票所に行くことができません。そこで、コロナ患者でも投票できるよう、郵便投票制度の適用対象を拡大すべきなのではとの意見が出されました。郵便投票は、隔離対象者が投票できるだけでなく、投票所における感染リスクを防ぎつつ、投票機会を確保できる制度でもあります。11月に行われたアメリカ大統領選挙では、郵便投票制度の利用が拡大し、話題になりました。

現状、郵便による投票を利用するためには、その有権者が総務省が定めるいくつかの条件を満たしていなければなりません。そこで丸山議員は、郵便投票制度を利用できる対象者の見直す必要があるのではないかと主張し、政府の見解を求めました。

質問 新型コロナウイルスの患者及び濃厚接触者となった場合、選挙人は病態に応じて、宿泊療養または自宅療養を余儀なくされる。外出ができないため投票手段が無くなるが、コロナ患者等に対しても投票期間を確保するため、郵便投票が実施できるよう制度を変更すべきではないか。

答弁 郵便投票は、身体に障害があるなど特別な事情がある有権者に対し、投票の機会を与えるための例外的な方法。どのような者を郵便投票の対象とするかという点は選挙の公平性の確保の観点から慎重に検討が必要であり、各方面と協議を進めていく必要がある。

政府は、郵便投票制度はあくまで例外的な仕組であり、対象を広げるには選挙の公平性も考慮しなければいけないため、慎重に進めていくべきだとのことです。ただし、選挙権があるにもかかわらず、コロナの影響で投票機会が失われると、権利を侵害してしまう恐れがあります。投票機会を確保する何らかの方法を提供するべきでしょう。


不在者投票制度の利便性向上にはまだまだ時間がかかる

初めに説明したように、不在者投票制度を利用するには、事前に投票用紙を手に入れる必要があります。このため、手続きが面倒に感じ、実際にやってみようと思う人は少ないかもしれません。政府は現状の制度変更を検討してはいますが、実際に普及するまでにはまだ時間がかかるでしょう。また、コロナ患者や濃厚接触者の投票環境をどのように整備するかという議論はいまだ不十分です。今後の政府の対応が見どころです。


@もも

2021/06/01

日本は、投票を簡単に行えないため、投票率が非常に低くなってしまっていると思います。この不在者投票も、面倒すぎてとても利用しようという気にはなれません。また、郵便法への対応については、早めに対応すれば解決する問題なので、そこまで問題視しなくても大丈夫かなと思いました。

@restog

2021/02/10

期日前投票を利用してまで投票しようという人が少ないのは、政治に期待していないからではないか?白熱するような議論や、本当に意味のある議論が行われているなら、期日前投票率も高まるのではないか?

@rolling893

2021/01/22

不在者投票の活用によって投票率を上げたいのであれば、システムを抜本的に変えるべき。不在者投票用紙を全戸に配布すれば使ってみようかという気になる。

 詳細情報

質問主意書名 :不在者投票制度に関する質問主意書 
提出先 :衆議院
提出国会回次 :203
提出番号 :5
提出日 :2020年10月30日
転送日 :2020年11月9日
答弁書受領日 :2020年11月13日

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