我が国の行政運営における「私的懇談会」等の運営等に関する質問主意書

出典:首相官邸HP

提出議員 : 石橋 通宏

私的懇談会や専門家会議が広く意見を伺う場であり、法的に設置される審議会と存在意義が大きく異なることを理解している国民がどれだけいるのだろうか。

懇談会や専門家会議は、税金を使って運営されているにもかかわらず、議事録さえ作成されていないのだ。そのため、誰がどのような発言を行ったのか知ることも検証することもできない。今回の石橋議員の質問は、この懇談会や専門家会議の問題点について深く切り込んでいる。


私的懇談会が抱える問題点

日本の行政運営にあたって、各省庁や地方公共団体が専門家など外部の有識者を招致し「私的懇談会」や「懇談会等行政運営上の会合」(以下、懇談会とする)を設置することがある。これらは、国家行政組織法8条内閣府設置法第37条・54条などを根拠に設置される「審議会」と称されるものとは区別することが多い。

大きな違いとして「懇談会」には法的根拠がなく、あくまで「私的」な会合であるため、情報公開の義務がないことなどが挙げられる。

本来なら、独立性をもった機関として行政をサポートする役割である「懇談会」が、方針決定の事後承認や単なる権威付けという属性が強まってきているとの指摘がある。その上、公費で運営されているにもかかわらず、その法的根拠や人選の中立性、運営の妥当性への疑念から監査が必要なのではとの声もあがっている。

こうした批判を受け、政府は1999年4月27日に「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」(以下、基本的計画とする)を定め、「懇親会」はあくまで意見交換の場であることや、法的な影響力があると受け取られるような表現や呼称は避けるなどその役割を再確認した。

こうした認識をふまえ、石橋議員は専門家会議の位置付けから確認を行っている。


専門家会議も懇談会に含まれるのか

2011年4月1日に内閣総理大臣決定された「行政文書の管理に関するガイドライン」(以下、ガイドラインとする)は公文書など歴史的事実や国の活動を記した、日本の知的財産とも言える文書を国民に共有する義務があるとして政府が定めたものだ。

このガイドラインは作成以来、現在まで9回改訂が重ねられており、あらゆる公務員の文書作成、整理、保存のバイブルであるとも言える。その点を踏まえ、議員は次の2点について追及した。

ガイドラインの12頁には、審議会や懇談会においては後に検証可能なように、議題や発言内容を含む議事録を作成するとある。専門家会議もこの懇談会に含まれると考えられるが果たしてどうなのか。

専門家会議は、法的根拠がない以上は公務ではなく、あくまで私的に個人の意見表明を聴取する場であることを確認したい。その上でガイドライン13頁にある「各行政機関の対応を円滑に行うため、政府全体として情報交換を行う会議等」とは異なると推察するが、政府の考えはどのようなものか。

答弁:専門家会議はガイドラインのご指摘箇所にある懇談会にあたると認識している。また同時に「歴史的緊急事態に対応する会議等における記録の作成の確保」の項目中の「政策の決定又は了解を行わない会議等」にも該当すると考えている。

石橋議員は、近年に設置された2つの「懇談会」にフォーカスした質問を行った。


1.新型コロナウイルス感染症対策専門家会議について

政府は新型コロナウイルスの感染拡大にともない「新型インフルエンザ等対策特別措置法」第15条第1項の規定に基づき、「新型コロナウイルス感染症対策本部」(以下、対策本部とする)を設置した。

対策本部が設置された約2週間後の2020年2月14日に、より医学的な助言を国民に示す必要があるとして「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議とする)を開催するに至った。これは対策本部の運営上の「私的懇談会」であると思われるが政府の認識はどうか、と質問している。

答弁:ご指摘の専門家会議は、基本的計画のいうところの「懇談会等行政運営上の会合」にあたる。

基本的計画に沿って考えると懇談会も審議会と同じように、会議録や議事録による情報公開を原則とし、非公開にする場合は特定の根拠を示して概要を公開するものとしている。今回の専門家会議は議事録などを公開しないとの方針だが、何らかの根拠があるのか、石橋議員は続けて質問した。

答弁:専門家会議については、出席者が自由かつ率直に議論することができるよう議事録などは非公開とし、その議事概要のみを公開する。


2.「出入国管理政策懇談会」および「収容・送還に関する専門部会」について

続いて、石橋議員が言及したのは出入国管理政策懇談会の位置付けに関して。「出入国管理政策懇談会」は、法務大臣のもと設置された日本の出入国行政について広く有識者から意見を聴取するための私的懇談会であり、収容・送還に関する専門部会はその下に設けられているという認識で間違いはないかと確認を行った。

答弁:「出入国管理政策懇談会」は、出入国行政について広く各界の有識者から意見を聴取するための「懇談会等行政運営上の会合」である。 また「収容・送還に関する専門部会」は、第7次「出入国管理政策懇談会」の下で2019年10月以降開催しており、出入国行政のうち特に収容また送還に関する問題を解決するために有識者から意見を聴取することを目的としている。

これら2つの会合が出入国政策に関する方針や施策を審議、検討する場ではなく、自由に議論することが目的であるなら、毎回の会合に、出入国在留管理庁長官、課長、室長などが出席していると、参加者が批判的な意見を発言しにくいのではないかと、言及した。

答弁: 政策懇談会及び専門部会の各委員に対しては、就任に際してそれぞれその目的を説明している。方針と異なる意見の表明を妨げるおそれがある、また批判的意見を述べることについて抑制的な影響を生じさせるおそれがあるなどのご指摘には当たらない。


ミスリードが疑われる専門家会議資料

石橋議員は、懇談会は広く自由な意見聴取をするべきであり、行政官による意見の誘導をするべきではなく、ましてや誤った情報や差別・偏向を含む見解を事前に参加者に提示すべきではないと述べている。そこで、問題となった事例について質問も行っている。

第1回「収容・送還に関する専門部会」のおいて出入国在留管理庁から「送還忌避者の実態について」(2019年10月1日付発表)が資料として提示された。しかし、同年12月20日に、「捜査段階の通報内容に基づいて作成したが内容が判決などを十分にふまえていない」と法務省のホームページから資料が削除され、2020年3月27日に訂正版が再掲載されるに至った。

この資料について政府は不適切なものであったという認識をしていたということで間違いはないか、具体的にどの箇所が不適切だったのかを石橋議員は追及した。

答弁:「送還忌避者の実態について」については、2019年11月28日の参議院厚生労働委員会の質疑において、「被退令仮放免者が関与した社会的耳目を集めた事件」として記載した事例のうち1つが判決結果を踏まえた記載となっていないと批判があった。 その後法務省ホームページから同資料を削除、2019年12月12日に開催された第4回専門部会において各委員に対し、そうした経緯などの説明を行った。 2020年3月27日には統計を更新して新たに作成した訂正版の資料を法務省ホームページに再掲載した。この訂正版は、送還忌避者の実情を十分に把握しうる客観的なデータに基づいているものだ。

さらに議員は、資料の訂正後に専門部会参加者へ削除された部分について説明はあったのか、訂正部分に関する影響が残っていると本来の自由な意見の場としての存在意義がおびやかされないかという点を確認した。

答弁:訂正した資料については2020年2月17日に開催された専門部会第七回会合において、更新した統計数値の一部以外は説明を行なっていない。 もとより、専門部会においては各委員の専門性に基づく自由な議論がされているものと認識している。


透明性の確保と記録の重要性の再確認

石橋議員の質問によって、審議会と懇談会の異同やその意義について確認できたと思われる。政府もガイドライン他さまざまな指標を示し、よりよい行政のための手助けとなる会合を目指していることは間違いない。しかし、現段階では都合よく記録したり、しなかったりという事例が少なからずある。

また、石橋議員が指摘しているように行政官、特に重役の存在が会合の正当性を損ねていることは間違いないだろう。

審議会および懇談会の運営にあたり、事実を追認できるように記録を徹底し、あくまで専門性のある自由な場であるように努めてほしいものだ。


<参考リンク>

審議会等・私的諮問機関の現状と論点 西川明子氏


@rolling893

2020/11/16

議事録を残すべきというのはもっともな事だと思います。 重役がいるからはっきり意見が言えないというのは、はっきり言って情けない限りです。

@Beagle

2020/11/15

都合よく記録したり、しなかったりが許されるわけがないと思います。責任の所在をはっきりさせるべきです。

 詳細情報

質問主意書名 :我が国の行政運営における「私的懇談会」等の運営等に関する質問主意書 
提出先 :参議院
提出国会回次 :201
提出番号 :144
提出日 :2020年6月11日
転送日 :2020年6月17日
答弁書受領日 :2020年6月23日

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