ヨーロッパや南米では、パートナーシップ制度が法律婚とほぼ同等の権利と義務が法律で保障されているため、結婚(法律婚)をしないカップルが増えている。
日本ではパートナーシップ制度がないため、日本人が海外の在住国でパートナーシップ制度を選択した場合、日本での夫婦関係や親子関係が問題になるケースがあるようだ。
例えば、日本の法律で離婚をした後に、海外でパートナーシップ制度による事実的な結婚をし、子供が生まれた場合は、場合によっては「思いもよらない事態」になってしまう。
立憲民主党の熊谷裕人議員によれば、そのような場合、海外では「父親」と認められるが、日本では「父親」とは認められなくなるケースがあるという。
この様なケースは実は子供の国籍喪失にもつながりかねない問題であり、熊谷議員はパートナーシップ制度の存在を前提とした対応を政府に求めている。
まず、世界の現状を見てみよう。
フランスでは60%、チリでは実に70%を超えるなど、多くの国で非婚カップルから子供が生まれている。
これは子供を育てることを目的に結婚する必要はないという風潮が背景にある。それに加え、女性の経済的自立、国際結婚の増加、宗教の違い、トランスジェンダーなど、人々の多様な価値観に法律婚が適合しなくなり、代わりにパートナーシップ制度に対する法整備を進めた結果だ。
ちなみに、法律婚をするカップルは年々減少しているが、フランスやスウェーデンなどで出生率は上がっている。
外務省によると、海外在住の日本人は141万356人(2019年10月1日現在)で前年より1万9,986人増加している。統計を開始した1968年以降最多で、2019年に国外で生まれた日本人は12,724人にのぼる(海外在留邦人数調査統計)。
グローバル化が進む近年、海外に出て家族を持つ日本人は今後も増えていくだろう。その際、国際結婚や離婚には、膨大な資料と煩雑な手続きが必要なことから、パートナーシップ制度を選択し子供を持つ人の増加が予想される。
すると気になるのが、海外でのパートナーシップ制度による事実婚が、日本でどの様に扱われるかである。
その前に、海外での婚姻と出産が日本でどのように扱われるのかをまず確認してみよう。
日本には通則法という法律があり、海外の婚姻や父子関係を認めていない訳ではない。
【24条】
婚姻の成立は各当事者につきその本国法による【28条】
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は嫡出である子とする
このように、パートナーシップ制度が法制化されている国で、同制度により事実上の結婚をし、子が生まれた場合、母親のパートナーが日本でも子の「父」となることができる。
このことは、熊谷議員の次の質問とそれに対する答弁でも明らかだ。
質問
パートナーシップ制度が法制化された国で、父子関係も「婚姻に準じて」決定されている場合、日本人の母の子として戸籍に記載をする際に、当該国の登録されているパートナーを子の父とみなすか。
答弁
法律上の父子関係が重複なく認められる場合は、外国人男性が父とする記載のある出生届に基づき戸籍には外国人男性の氏名が戸籍の父欄に記載される。
答弁にもあるように、海外のパートナーシップ制度に基づく父子関係であっても、子供の日本の戸籍には、パートナーが「父」として記載されるので、日本が海外のパートナーシップ制度を認めていない訳ではない。
では、どのような場合に冒頭のような「思いもよらない事態」が起きるのだろうか。
300日問題をご存じだろうか。日本では離婚後300日以内に女性が子供を出産した場合、前の夫を子供の父親として見なす規定(民法772条)がある。
【民法772条第2項】
婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
しかし外国法では、婚姻中に生まれた子供は今の夫を父親として推定する為、日本と海外では子供の父親が異なるケースが生じ訳である。 熊谷議員はこのようなケースについて、次のような質問をしている。
質問
日本人の夫との離婚後300日以内に、外国人パートナーとの間に子が生まれた場合、日本では嫡出推定(結婚している妻が出産した子を誰(男性)の子と推定するかを定めた規定による)によって日本人の前夫が「父」となる。では、パートナーシップ制度のある外国でパートナーを父とする出生登録が受理されている場合、出生届の父欄に「日本人の前夫」ではなく、「父未定」と記載されて受理されるのか。
答弁
法律上の父子関係が認められる男性が複数いる場合は、戸籍法第54条第1項に規定する父が未定である事由を記載した出生届は受理されるが、「父未定」と記載されるのではなく、父の氏名が記載されないことになる。
日本国内においても海外法にならい後夫を父親として戸籍に記載したいケースが殆どだと思われる。しかし通則法がある限りそれは不可能。
そうであれば、せめて前の夫が父親として記載されることだけは避けたいと家族は願う訳だ。それが「父未定」と記載できるのかどうかという問いにつながっているのだろう。
なんとも虚しい話ではあるが、現実的に考えるとこのような手段しか家族には取りようがないのかもしれない。
これが「とんでもない事態」の実態である。
外国で生まれた日本人の子は、生まれて3か月以内に出生届と国籍留保の届出を行わなければ、出生時に遡り日本国籍を失ってしまう。
上記のように、離婚後に現在のパートナーを「父」として出生届を出したくても、現行では受理されるのか、されないのか、なぜ空欄になるのかなどやり取りしているうちに期限を過ぎ、結果的に無戸籍、日本国籍が取得できないケースも出てきているのが現状だ。
生まれてくる子の戸籍や国籍の相談先として在外大使館や領事館を訪ねても、情報不足がゆえに対応拒否されたケースなどが報告されており、「民法第772条による無戸籍児家族の会(代表 井戸まさえ元衆議院議員)」によれば、20年以上も同じような対応がなされ長く改善が求められているのとのことである。
しかし、政府は「今まで通り、適切な事務が行われるよう努めていくと」の見解を示していることから、運営には問題があるとはとらえていないようだ。
国がグローバル化を進めるのであれば、法整備など柔軟に対応していく必要がある。政府に対しては、引き続き問いかけが重要だろう。
以上みてきたように、海外の在住国では、母のパートナーが子の父として登録されているにも関わらず、日本の戸籍、出生届では父がいないことになるのは子供にとって望ましいとは思えない。
国連で定められた子供の権利条約7条には、「子供はできる限りその父母を知り、その父母に養育される権利」があることが明記されている。
子供の権利を守るうえでも、早急に議論することが不可欠ではないだろうか。
参考リンク
民法第772条の改正を求める意見書(東京弁護士会)
@なんたん
2020/12/20
パートナーシップ制度を初めて知りました。戸籍が変わらないから簡単に離婚に繋がりそうです。300日問題は今の時代に合わないから早く見直して欲しいです。
@kimuu
2020/12/15
300日問題は、一体いつになったら解消されるのでしょうか。子供の人権にも関わる重要なことなのに。
@restog
2020/12/13
婚外子の割合が7割以上の国がこんなにももあることにびっくりした。 日本では婚外子の子供は肩身の狭い思いをする風潮が残っていると思う。 意識を変えていくことは難しいと思うが、制度の関係で無国籍になる子供が出てくることだけは何としてでも避けなければならないと思う。
@だるばーど
2020/12/12
すでに手続きに時間がかかるために無国籍になったり日本国籍を失うケースが出てきていると知り、とても深刻で早急に対応されるべき問題だと思いました。国際結婚や事実婚が以前より格段に増えているので、不幸になる子どもが増えないよう政府は日本の制度と海外の制度のズレによる問題を放置せず、対応に乗り出して欲しいです。
質問主意書名 : | 諸外国のパートナーシップ制度のもとで出生した子の出生手続きに関する質問主意書 |
提出先 : | 参議院 |
提出国会回次 : | 203 |
提出番号 : | 10 |
提出日 : | 2020年11月10日 |
転送日 : | 2020年11月16日 |
答弁書受領日 : | 2020年11月20日 |