破壊活動防止法(以下、破防法)と日本共産党の関係について、鈴木宗男参議院議員が、2020年11月11日に質問主意書を提出した。
政府の答弁は、日本共産党は「破壊活動防止法」に規定する「暴力主義的破壊活動」を行った疑いがあり、いわゆる「敵の出方論」に基づく暴力革命の方針に変更はないというものである。そして、現在も、日本共産党は破防法に基づく調査対象団体だという。
このような政府の認識に対し、日本共産党は強く反論。暴力による革命は、党が分裂した時期に、ある一派が唱えたもので、その後、明確に否定されたと主張している。また、同党がかつて「敵の出方論」を強調していたのは、平和的に社会進歩を進めるためだったという。
政府は、日本共産党の暴力革命の可能性を払しょくできないとの認識であるが、実際にはどうなっているのだろうか。政府の考え方と日本共産党の考え方を紹介しよう。
破壊活動防止法(以下、破防法):1952年に施行された法律。暴力主義的破壊活動を行った団体に対する規制と、暴力主義的破壊活動を行った者に関する刑罰を定めている。
鈴木宗男参議院議員は、自身が2020年6月3日に提出した質問主意書への答弁書を踏まえ、質問を始めている。
質問
政府は、日本共産党を破防法に基づく暴力主義的破壊活動を行った団体であると、今も認識してい るか否か伺いたい。また、同党が同法に基づく調査対象団体に該当するか否か伺いたい。
答弁
破防法に基づく暴力主義的破壊活動を行った疑いがある。同法に基づく調査対象団体である。また、いわゆる「敵の出方論」による、暴力革命の方針に変更はないと認識している。
この答弁は、鈴木貴子衆議院議員が2016年に提出した質問主意書への答弁や、鈴木宗男参議院議員が今年6月に提出した質問主意書に対する答弁と同様の内容である。
政府答弁によると、主張の根拠は二つ。一つは、日本共産党が過去、破防法に規定する暴力主義的破壊活動を行ったこと。二つ目は、日本共産党が、同党が唱えたとされる「敵の出方論」に立った、暴力革命の方針を継続しているという認識があることだ。
しかし、これらの認識に対して日本共産党は反論している。ここで、互いの認識を整理してみよう。
(1)過去の暴力主義的破壊活動について
今回の答弁には含まれていないが、公安調査庁の公式サイトによると、日本共産党の暴力主義的破壊活動についての公安調査庁の見解は、次のとおりだ。
- 日本共産党は1951年に第5回全国協議会で採択した綱領等に沿って武装闘争を行い、殺人事件や騒乱事件を起こした。
- 同協議会は、日本共産党自身が「ともかくも一本化された党の会議であった」と認めている。
これに対し、日本共産党は党の公式サイトで次のように主張している。
武装闘争は党が分裂した時代に一派が行ったこと。暴力革命を党の正規の方針としたことは一度もない。
分裂が解消した後に武装闘争路線は否定された。(第7回党大会、1958年)
- 「どのような変革も国会での安定過半数により実現する」ことを綱領で明示した。(第8回党大会、1961年)
双方の主張を比較すると、過去の暴力主義的破壊活動に関して、活動の主体が日本共産党と同一であるのかどうかという点で真っ向から対立している。さらなる歴史の検証が必要だろう。
(2)「敵の出方論」について
敵の出方論とは、公安調査庁によれば、日本共産党の「革命の形態が平和的になるか非平和的になるかは敵の出方によるとする」考え方である。この解釈に関しても、政府側と日本共産党では違いがある。
鈴木宗男参議院議員は、日本共産党のいわゆる「敵の出方論」に基づく暴力革命等に関し、質問を展開した。
質問
日本共産党の敵の出方論に基づく暴力革命の方針や、敵の出方論に関する政府、警察庁、公安調査庁の認識を伺いたい。
答弁
「敵の出方論」に対する認識は、1989年2月18日の衆議院予算委員会における石山陽公安調査庁長官の答弁と同様である。
公安調査庁長官、石山氏(当時)の答弁要旨を会議録に基づいてまとめると、以下の通りだ。
- 敵の出方次第では、非平和的な方法をとる可能性がある。
- 直ちに日本共産党への規制を請求すべき段階とは思わない。
- 政権確立後に不穏分子が反乱を起こす場合、これを鎮圧するのはどの政権であろうと当然に行われるべき行為。
- 日本共産党の文献等によると、敵の出方論には三つの出方がある。(①民主主義政権ができる前に、これを阻止しようとして不穏分子を叩きつける動きがあるとき、②民主主義政権ができた後にその不満分子が反乱を起こすとき、③政権運営時に従わない勢力が出てきたとき)
こうした認識に対し、日本共産党の不破哲三委員(当時)は次のように主張している。
- 共産党が政権についたとき、これに従わない勢力を取り締まるのは当然の権利である。
- かつて、敵の出方の警戒を強調したのは、反動勢力の策動を防止し、平和的に社会を進歩させるためである。これを「暴力革命」の根拠とするのはこじつけだ。
「敵の出方論」に関して両者の解釈を比較すると、認識が一部共通しているように思える。石山氏が述べる②、③の出方に対して取り締まりを行うのは、治安維持上やむを得ないため、両者で折り合いがついているのではないだろうか。
また、政府は現段階で、日本共産党に活動規制の要求をする段階にないと述べている。これらのことから、政府が認識する「敵の出方論」は、主張の根拠としてやや不十分な気がする。
政府は、現時点においても、日本共産党の敵の出方論に基づく暴力革命の方針に変化はないと認識しており、公安調査庁は、日本共産党を破防法に基づく調査対象団体としている。
日本共産党は、こうした認識や、調査対象団体とされていることに反論している。
ただし、分裂時代の一派が武装闘争路線を持ち込んだことは日本共産党も認めている。一派がやったことだと切り捨てるのみではなく、今後、社会情勢が変化しても党内からこうした一派が生まれないようにするための方策を実証的に検討し、国民に丁寧に説明してもよいのではないだろうか。
政府側も、敵の出方論について調査研究を進めているというものの、少なくとも、日本共産党に関する規制を請求できるほどの結果は得られていない。将来な暴力革命の可能性を否定できないというが、こうした点を国民にわかりやすく説明することを考えてもよいのではないだろうか。
@なんたん
2020/12/25
昔から共産党は過激と教えられたのはこういう過去があるからとわかりました。噂を払拭できるよう調べてもらいたいです。
@だるばーど
2020/12/23
破防法と言えばオウム真理教を思い浮かべるので、共産党が調査対象団体であることを知り驚きました。破壊行為を行ったのがどんなに昔であろうと、今後再び過激な武装闘争路線をとる一派が出てこないとは完全には言い切れません。やはり、ある意味前科がある限りは積極的には調査対象から外せないと思います。
@rolling893
2020/12/23
過去の破壊活動を「あれは一派がやったことだ」と切り捨てているようでは衰退していく一途だと思います。解体して生まれ変わった方がいいのでは。
@TONOさん3号
2020/12/22
世界を見て共産主義が成功した事例はない。思想的に謳っていても資本主義を取り入れないとやっていけないことは戦後の壮大な実験(と言ってよいと思う)で分かっていることです。共産主義を掲げけている限りは信用できないと思う。掲げている限りは過激な思想もやはり生まれると思う。
@ichi369
2020/12/22
日本共産党が「敵の出方論」に立った、暴力革命の方針を継続しているという認識を、政府が持っていることは時代錯誤とは言い切れない。状況が変われば、また過激な一派が生まれる可能性はゼロではない。その意味では、破防法の調査対象であることは仕方がないと思う。
@もも
2020/12/21
日本共産党が破壊活動を行った疑いがあるのは50年以上も前のことなので、少し引きずりすぎな気もします。政府から、もう少し納得できる説明は欲しいですね。 時効など、調査対象団体の明確な基準があればみんな納得出来そうですが、破壊活動や破壊活動計画の隠ぺいが行われる可能性もあるので、なかなか難しい問題なんだと思います。
質問主意書名 : | 日本共産党と破壊活動防止法に関する質問主意書 |
提出先 : | 参議院 |
提出国会回次 : | 203 |
提出番号 : | 13 |
提出日 : | 2020年11月11日 |
転送日 : | 2020年11月16日 |
答弁書受領日 : | 2020年11月20日 |