横浜地方裁判所相模原支部(以下、相模原支部)は、政令指定都市を管轄する裁判所としては、全国でただ一つの合議制裁判を行えない裁判所です。
合議制裁判 | |
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複数の裁判官によって構成される裁判。最高裁判所、高等裁判所では常に合議制、地方裁判所、家庭裁判所では、場合によっては、原則裁判官3名による合議制をとることになっている。(裁判員裁判を除く) |
長年にわたって地元の首長や弁護士会などが、合議制裁判を行うよう要望していますが、未だ実現しておらず、司法アクセスに不合理な差があるとの指摘もなされています。2016年の衆議院法務委員会でも取り上げられましたが、最高裁判所長官代理の答弁においては、実現しない理由が述べられませんでした。
2002年に閣議決定された司法改革推進計画では、裁判所運営に関する国民の意見を反映する制度を整備することとされていましたが、十分とはいえず、裁判所の運営については、不透明な部分も残っているようにも思えます。
こうした点について、牧山ひろえ参議院議員が質問主意書を提出していますので、質問と答弁を紹介しつつ、わかりやすく解説していきます。
地方裁判所を第一審とする事件において、合議体で審議すべき事件は以下の通りです。
相模原支部は、相模原市(政令指定都市)と座間市を管轄しますが、合議体を持たず、単独審理しか行っていません。政令指定都市は全国で20都市を数えますが、政令指定都市を管轄する地方裁判所で合議体を持たないのは相模原支部のみです。
横浜弁護士会(現神奈川弁護士会)によると、医療過誤事件等の慎重な判断が必要な民亊事件や、法定合議事件、勾留決定に対する取り消し・変更に関わる裁判が合議体で扱われるため、相模原支部管内の市民が横浜地方裁判所本庁に出向く必要等が生じているといいます。
事件数は少なくなく、合議体を構成できる横浜地方裁判所との距離も近いとはいえないため、これまで、相模原支部での合議制裁判導入を求めて、管内の自治体や弁護士会などが決議や要望を繰り返してきました。しかし、いまだ実現されていません。
牧山議員の質問主意書によれば、これまでになされた決議や要求は、次の通りです。
2008年 | 座間市議会が合議制裁判実施を求める決議 |
2008・2010・2015年 | 相模原市議会が合議制裁判実施を求める決議 |
2008~2020年 | 相模原の市長・副市長並びに弁護士会会長が合議制裁判を要求 |
2011年 | 関東弁護士会連合会が合議制裁判を求める決議 |
2012・2016年 | 横浜弁護士会が合議制裁判を求める会長声明 |
2015年 | 横浜弁護士会相模原支部が合議制実現を求める決議 |
2016年 | 日本弁護士会連合会が最高裁判所と協議し、合議制実施を要求 |
また、質問主意書によると、2016年3月16日の衆議院法務委員会で、畑野委員が行った「横浜地方裁判所の各支部において、合議制を行う基準が不明である」旨の質問に対し、中村最高裁判所長官代理が「相模原支部で合議を扱う必要はない」旨答弁しましたが、その理由には触れなかったとのことです。
こうした点に関連し、牧山議員は、次のように質問しています。
質問
憲法で、国民は平等に裁判を受ける権利を保証されている。「国民間の司法アクセスについての不合理な差異(※)」を縮小するよう国は努めるべきではないか。※原文を引用しました
答弁 裁判所へのアクセスの拡充は重要である。
政府はアクセスの拡充は重要と答弁していますが、拡充のための努力については触れませんでした。
「司法制度改革推進計画」とは、国民にとって身近になるよう司法制度を見直し、充実強化するとの認識に立った改革推進計画で、2002年に閣議決定されました。計画には、「裁判所の配置について、人口、交通事情、事件数等を考慮し、見直しに関する検討を行う」という項目も含まれています。
こうした点を踏まえて、牧山議員は、裁判所の配置見直しに関して質問しています。
質問
司法制度改革推進計画では、裁判所の配置について見直しに関する検討を行うとされているが、どのような見直しをしたのか。人口等の変化に合わせて裁判所の配置を定期的に見直す制度を作ったのか。
答弁
裁判所の配置について、裁判所が常に見直しに関する検討を行っており、政府は最高裁判所との連携を図っている。
閣議決定を行った司法制度改革推進計画に関する質問ですが、回答は最高裁判所が検討を行っているというにとどまっており、具体性はありません。見直しに関する検討内容は不明です。
司法制度改革推進計画では、国民の裁判所運営に関する意見を反映する制度の整備について、最高裁判所の検討状況を踏まえた上で、必要なら、所要の措置を講ずることとされていました。
こうした点を踏まえ、秋山議員は、裁判所運営の透明性に関係する質問も行っています。
質問
裁判所内で裁判所運営に関する検討の審議録作成や公開等を義務化するといった立法措置を行う、もしくは、そのための制度構築を最高裁判所と協議する具体的な計画はあるか。
答弁
裁判所運営に関する意見を反映する制度として、裁判所は、地方裁判所委員会制度の創設や家庭裁判所委員会制度の充実を進めてきた。
質問に対する直接の回答はなく、地方裁判所委員会制度と家庭裁判所委員会制度に関する答弁で終わっています。
なお、政府答弁にある、「地方裁判所委員会制度・家庭裁判所委員会制度」とは、裁判所運営に広範な国民の意見を反映するため、地方裁判所や家庭裁判所に委員会を設置する制度です。委員会は学識経験者・法曹関係者等から構成されていて、裁判所に対して意見することができます。
ただし、地方裁判所委員会規則によると、議事録の公開については「報道機関に公開するのが相当」という規定に留まっており、委員会によって差があるのが現状です。
相模原支部で、長年の自治体等からの要望にもかかわらず、合議制裁判を行うことができない理由は明確となっておらず、国民の司法アクセスに不合理な差があるとの指摘もなされています。
合議制裁判を行えるか否かという点は、国民が裁判所を利用する際の利便性に直結する問題です。政府答弁は、裁判所は常に裁判所の配置について見直しを行っているというものですが、実際の見直しの運営に関しては、不透明な部分があると言わざるを得ません。また、政府は最高裁判所との連携を図っていると答弁していますが、連携の内実も明らかになっていない状態です。
司法制度改革推進計画にあった、司法制度を国民に身近になるよう見直すという観点からすれば、合議制裁判を行えるか否かといった問題等の国民の利便性に直結する課題については、裁判所での検討内容を透明化し、国民の納得を得ていくような工夫が必要ではないでしょうか。
裁判所「裁判手続 刑事事件Q&A」
裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」
はれのくに法律事務所 「単独事件と合議事件とは?」
@ichi369
2021/03/30
司法や裁判は国民にとっては決して身近なものではない。また、多少の個人差はあるとしても、裁判所や裁判官によって大きな差異があることは、システムとしては機能していないといえる。国民の理解を得るためにも透明化は必須であると思う。
@TONOさん3号
2021/01/27
そうですね不自然ですね。合議制に出来ないのは理由によっては理解できます。言い訳を聞きたいですね。なにかに拘っているのでしょうか。 この際可視化まで進むように大転換してもよいのでは?もちろん例外はあってもよいのですが。
@もも
2021/01/26
こんなに何回も決議や要求がされているのに、合議制がかたくなに実施されないままなのは明らかに不自然ですね。何か裏の事情がありそうだと思ってしまいます。何らかの形で、今までとは別のアプローチをしていかないと解決しなさそうな気がします。
質問主意書名 : | 横浜地方裁判所相模原支部における合議制導入に関する質問主意書 |
提出先 : | 参議院 |
提出国会回次 : | 203 |
提出番号 : | 22 |
提出日 : | 2020年11月24日 |
転送日 : | 2020年11月30日 |
答弁書受領日 : | 2020年12月4日 |