日本のDXを進めるため関連法律を一気に整備 情報管理の主体は実質国へ

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案

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提出者 :内閣

菅総理の肝いり政策であるデジタル社会推進に向け、今国会(第204回国会)に提出されているのが、「デジタル社会形成基本法案」、「デジタル庁設置法案」等デジタル改革関連6法案です。

今回は、この6法案のうちの一つ、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」案を解説します。

この法案は、デジタル社会形成のために、個人情報保護制度の見直しや、ナイナンバーを活用した行政手続きの効率化・マイナンバーカードの利便性の向上・マイナンバーカード発行体制等の強化、押印手続きの見直し等を行うために、関連する法律を整備するものです。

これらの具体的な内容や、国による関与の強化などについて、見ていきましょう。


国の関与が強まる情報管理体制

1.個人情報保護規定の見直し

個人情報保護法等の個人情報保護規定が見直されます。具体的に行われるのは、「個人情報保護法」、「行政機関個人情報保護法」、「独立行政法人等個人情報保護法」の3つの法律の統合です。その上で、地方自治体における個人情報保護について、全国的な共通ルールを規定します。全体を所管するのは、個人情報保護委員会です。

また、個人情報の定義等は、国・民間・地方で統一されます。こうしたことにより、個人情報保護について、国の関与が強まります。

一方、個人情報保護法の改正は、各自治体がこれまで行ってきた、地域の実情に合わせた独自の個人情報管理を規制しかねません。これを踏まえ、東京都あきる野市議会は2020年12月17日、個人情報保護法の改正について慎重に検討することを求める意見書を提出しました。また、全国市長会会長は、2020年10月13日に行われた総務大臣との意見交換会で、個人情報保護制度に関し、国は地方の意見を聞いて対応してほしい旨の発言を行っています。

2.地方公共団体情報システム機構の運営に国が加わる

「地方公共団体情報システム機構法」も、一部改正されます。地方公共団体情報システム機構(以下、機構)は、マイナンバー制度関連システムの構築、住民基本台帳ネットワークシステム・コンビニ交付システム・マイナンバーカードに関するシステム等の行政サービス関連システムの運用等を行っている機関です。

改正の主な内容は次の3点です。

①国が運営に加わり、マイナンバーカードの発行体制が変更

機構は、地方公共団体が共同して運営する組織ですが、改正後は、国と地方公共団体が共同して運営する組織となります。国が、新たな運営主体として加わるわけです。よって、マイナンバーカードの発行体制等は、以下のようになります。

           
申請の受付 カードの発行カードの交付
現行 機構
(地方公共団体)
機構
(地方公共団体)
各市町村
改正案 機構
(地方公共団体+国)
機構
(地方公共団体+国)
各市町村

②秘密保持が義務化

機構の職員に対して、退職後も含めた秘密保持義務が新たに課されます。違反すると、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処されると規定されています。

③国が機構に対し資金を提供

機構は、令和8年3月末まで「デジタル基盤改革支援基金」を創設します。政府から補助金提供を受け、これに充てます。


行政デジタル化の課題「マイナンバーカードの普及」 取得を促すための法整備

菅政権が進める社会のデジタル化を実現させるためには、マイナンバーカードの普及が鍵となるでしょう。しかし、カードの普及率があまり高くないのが現状です。

マイナンバーカードの交付は2016年1月からが始まりましたが、毎日新聞によると交付率は26.5%(2021年3月4日現在)です。マイナンバーカードを持つ国民は4人に1人程度にしか過ぎません。交付開始から、5年以上が経過してもなかなか交付が進まないのは、国民がマイナンバーカードの利便性をあまり感じていないなどの理由が考えられます。

よって、本改正案ではマイナンバーカードに様々な機能を搭載させ、制度の利便性向上を図っています。また、発行のしやすさや運営体制なども強化し、より交付を促すための法整備も行います。

なお、2021年3月4日から、今回の法改正とは別に、利便性向上策として、マイナンバーカードの健康保険証としての利用が一部の医療機関で始まっています。

①マイナンバー制度の利便性向上
以下のことが可能になります。(本人の同意の上)

  • 国家資格の登録、情報連携
  • 転職時等の使用者間での特定個人情報(※)の提供  ※特定個人情報:マイナンバーを内容に含む個人情報
  • 電子証明書のスマートフォンへ搭載
  • 転出届に関する情報を転入地に事前通知
  • 市町村間で住民の健康増進事業に関する情報共有     など

看護師等の国家資格をマイナンバーに紐づけできるようになります。厚生労働大臣が看護師情報を各都道府県のナースセンターに提供することが可能となり、人材確保にも寄与することが期待されます。

②マイナンバーカードの発行・運用体制強化

  • 郵便局での電子証明書発行・更新
  • 機構のマイナンバー関係業務に関し、国が目標設定・計画認可・財源措置を整備      など

脱ハンコ、脱書面へ 手続き、意思決定のデジタル化も

脱ハンコ:押印が不要となる 押印が不要となる書類等は次のとおりです。( )内は、押印が不要となる人です。

  • 身近なところでは、婚姻届や出生届の押印が不要になります。
  • 戸籍の届書(届出人)
  • 証人を必要とする事件の届書(証人)
  • 死産届書(届出人)
  • 死産証書、死胎検案書(医師または助産師)
  • 監査法人の監査証明書(業務を行った社員)
  • 土地等の売買等の際に相手方に交付する書面(宅地建物取引士)
  • 不動産の評価鑑定書(不動産鑑定士または不動産鑑定士補)
  • 税務官署に提出する通関書類(通関士)
  • 社会保険労務士、法人が作成する申請書類(社会保険労務士)     など

脱書面①電磁的記録による作成・提供・請求が可能
※電磁的記録:デジタル方式での記録。

  • 財産目録、貸借対照表、決算報告書(農業保険法、土地改良法、農業信用保証保険法、漁業災害補償法、農住組合法の清算人が作成したもの)
  • 公認会計士による会社、その他の財務書類のついての証明
  • 監査法人による会社、その他の財務書類のついての証明
  • 土地等の売買等の際に相手方に交付する書面に記載する事項
  • 保証契約における公共工事の支払い請求
  • 高齢者向けの賃貸住宅の登録に関する事項     など

脱書面②電子情報処理組織や情報通信の技術を利用する方法による提供・合意・交付が可能
※電子情報処理組織:行政機関が使用するコンピュータと申請などをする者が使用するコンピュータとを電気通信回路で接続したもの。

  • 建設工事の見積書の交付、特定専門工事の主任技術者の配置に関する事項
  • 設計受託契約・工事監理受託契約の重要事項説明
  • 社会福祉士・介護福祉士の登録変更証明書類の交付
  • 精神保健福祉士の登録変更書類
  • 建設業の建設工事発注書類
  • マンション管理事務の委託契約書類     など

電子投票:電磁的方法による議決権・選挙権の行使、表決 次に当てはまる人は電子投票が可能になります。

  • 認可地緑団体の総会に出席しない構成員
  • 農事共同組合の総会に出席しない構成員
  • 損害保険料算出団体の総会に出席しない会員
  • 商品先物取引の創立総会に出席しない会員
  • 土地区画整理組合の組合員・総代
  • 防災街区整備事業組合の組合員・総代
  • マンション建替組合、マンション敷地売却組合の組合員・総代     など

まとめ:国主導のデジタル改革だが、政府への信頼を持てるのか?

「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」案では、国が前面に出て、個人情報保護制度の見直しを行うとともに、マイナンバーを活用した行政手続きの効率化・マイナンバーカードの利便性の向上・マイナンバーカード発行体制等の強化・脱ハンコ・脱書面等を目指しています。

しかし、個人情報保護等への国の関与が強まることや、個人情報の流出・悪用に対する不安もぬぐい切れません。度重なる情報流出、システムやアプリケーションの不具合を目にし、個人情報保護や情報流出等に関して政府を十分に信頼できないと感じる国民も少なくないでしょう。

こうした不安を解消できるに足る、丁寧な説明や具体的な対策が望まれるところです。国会での十分な議論を期待します。

最新の賛成コメント

@restog

2021/05/21

政治は国民のためのものであるから、もっと親しみやすさを増やす必要があると思う。その手段としてデジタル化は理にかなっていると思った。

最新の反対コメント

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@restog

2021/05/21

政治は国民のためのものであるから、もっと親しみやすさを増やす必要があると思う。その手段としてデジタル化は理にかなっていると思った。

@もも

2021/04/30

賛成です。日本ではあらゆる手続きに必要以上に手間が掛かりすぎていると思うので、どんどん便利になっていって欲しいです。情報に関する法律は、今回のように時代に合わせて見直していって欲しいと思います。

@なんたん

2021/04/25

これからの時代はデジタル化だと思います。書面管理がなくなればかさばらないし、無くすこともないでしょう。 ただ高齢者はついていけない気がします。

@だるばーど

2021/03/20

マイナポイントがなければ私もマイナンバーカードを持つ理由が無かったです。いろいろと紐付けして機能を強化し、持っていなきゃ不便と感じるくらいまで利便性を高めることに賛成です。

@TONOさん3号

2021/03/17

先進国では当たり前のこと。ある程度の個人情報は国が取りまとめるべきだと思う。この際大きく振り切ってあらゆる改革を進めて頂きたい。 ITを進めるなら強力な技術革新を国の部門へ投入して欲しい。

@rolling893

2021/03/17

むしろ今まで国が主体でなかったことの方が驚きです。個人情報保護に国の関与が強まって困る人って、どんな人でしょうか?

@ichi369

2021/03/16

行政手続きの利便性が向上することには賛成しますが、デジタル化によって個人情報の流出や、詐欺被害などが増える懸念があります。政府のセキュリティ対策は後手後手になることが多いので、国民の不安をどのように払拭するのか、しっかり示して欲しいと思います。

 詳細情報

議案件名 :デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案 
提出国会回次 :204
議案番号 :28
議案種類 :閣法
提出者 : 内閣
提出日 :2021年2月9日
公布日 :
法律番号 :