労働者協同組合は地域の課題解決や新しい働き方の突破口となるか?

労働者協同組合法案

賛成 (2)
反対 ()

提出議員 :後藤 茂之

新型コロナウィルスの影響でリモートワークや在宅勤務などこれまでとは異なる働き方へ注目が集まったのは記憶に新しい。所属の会社がうまくリモートワークに適応できず、何かあった時に自分を守ってくれるのかなと不安を抱いた人もいるだろう。また、働き方が多様化し、「会社員=安定」という半ば常識と捉えられていた価値観も崩壊に向かいつつある。

このような状況で、新たな働き方として期待されるのが労働者協同組合という組織形態だ。労働者協同組合の設立や運営にかかる様々な事項を定めた労働者協同組合法案が国会で審議中であり、今般の臨時国会で成立が確実視されている。本記事では、労働者協同組合とは何か具体的に解説してみよう。


地域の事業に自発的に携われる組織形態「労働者協同組合」

自ら仕事を創り主体的に働ける組織形態として、注目を集めているのが労働者協同組合である。労働者協同組合とは、「組合員が出資」「組合員の意見を反映」「組合員が組合の事業に従事する」という3つの原則から成り立つ組織だ。すなわち、出資者・運営者・労働者が一体で、働く人がお金を出し経営にも参画することになる。

一般的な働き方では、出資するのは株主で会社を運営するのは代表取締役で、労働者は会社から賃金をもらう代わりに与えられた指示・命令に従うだけだ。従業員が会社の経営にまで携われるのは何十年も勤務を続け、役員クラスまで出世しなければほぼ不可能だ。そして、収益向上・消費者の満足度向上など会社のために働かねばならない。

一方、労働者協同組合では利益を挙げることを目的とした事業は行ってはいけない。事業内容は自分たちで決めることができ、労働者派遣事業以外は何でも可能と事業範囲も広いが、収益性のある事業は行ってはいけない。

実質的には、地域のニーズがあるにも関わらず、担い手不足で困っている事業の展開を期待されている。例えば、地域で採れた農作物・加工品の直売所や移動販売、障害者就労支援事業などが考えられる。また、後継者不足に頭を抱える中小企業の事業を引き継いだり、介護や保育の担い手としても活躍できるだろう。地域の実情に応じた事業が展開できるので、地域活性化に寄与すると見られる。


NPO法人や企業組合よりも便利

「公益性が高い事業をやりたいならNPOを作れば良いのでは?」「企業組合だって組合員が出資や運営できるでしょ?」と思う人もいるだろう。しかし、企業組合は設立に都道府県の許可が必要で手続きに時間がかかる。NPO法人は組合員が出資できないし、行うことができる事業にも制限が課せられている。自由度が高く手軽に地域に必要な事業を担う組織を作るためには労働者協同組合という形態が適しているのだ。

ただし、組合員は組合と労働契約を締結しなければならず、設立には3人以上の発起人が必要など設立のために遵守すべきルールがある。定款や総会に関する事項も定めなくてはならず、会社設立と共通する手続きは多い点に注意だ。


労働者協同組合設立の話は30年以上前から出ていた

実は労働者協同組合設立に関する動きは30年以上前からスタートしていた。源流は戦後の失業者対策にさかのぼり、自治体の清掃業務を失業者に請け負わせる「事業団」という組織の活動が1970年代にはすでにあった。しかし、なかなか地域住民の理解を得られず、会社の駒として働く以外の道はないのかと悩んでいた事業団の構成員たちは、すでに労働者協同組合が存在していたヨーロッパに着目する。

事業団は1987年「労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」と名を変え、日本でも労働者協同組合を作ろうと尽力する。2009年からの民主党政権時代に法整備の具体化が進んだが、ブラック企業の温床になる恐れがあるとの理由から話が前に進まなかった。この度、与野党全会派の同意を受け、やっと法案が提出・審議されることになった。


主体的に働ける環境を用意する一方、運営面での不安がある

本法案のメリットは、様々な人が自発的に活力を抱きながら働ける未来の到来に貢献する点だ。労働者協同組合なら、精神疾患や障害等で会社で働けなくなってしまった人や定年後の高齢者でも問題なく働くことができる。事業内容も公益性が高い分野なので、自分が地域の担い手になっていると自覚を持ちやりがいを感じながら働ける可能性が高い。地域としても必要性がありながらリソース不足で開始できなかった事業を発進させることが可能だ。

デメリットとしては、主婦やリタイア後の高齢者・非正規雇用の人たちなど、それまで経営とは何の縁もない人たちが組織を運営することになるので、失敗のリスクが高い点がある。もちろんこうした方たちが経営のことを考えるのは大切なのだが、知識不足が心配だ。また、長時間労働が蔓延する危険もある。会社のようにしっかりした労働時間管理が行われなければ、サービス残業が長時間にわたる場合もあるだろう。

以上が本法案の概要である。会社に雇われない新しい働き方を可能とする労働者協同組合について、皆さんはどう感じるだろうか。


<参考リンク>

日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会

最新の賛成コメント

@rolling893

2020/11/19

地域にとっては担い手不足の解消につながり良いことかとおもうが、企業に比べて労働条件が守られていない、収益性というやりがいはない等の環境で働く人は幸せだろうか?

最新の反対コメント

まだ反対意見が投稿されていません。

すべてのコメント

@rolling893

2020/11/19

地域にとっては担い手不足の解消につながり良いことかとおもうが、企業に比べて労働条件が守られていない、収益性というやりがいはない等の環境で働く人は幸せだろうか?

@だるばーど

2020/11/18

NPO法人は組合員が出資できないし日本では寄付文化も十分ではないため経営基盤が脆弱。今回の法制化は、NPO法人の限界をよく考慮しているし、労働者=雇用労働者ではない点で新しい働き方と言えて新鮮。ただ、雇用契約が必須なら、ボランティアで働きたい立場の人はどうなるのか疑問。

 詳細情報

議案件名 :労働者協同組合法案 
提出国会回次 :201
議案番号 :26
議案種類 :衆法
提出議員 : 後藤 茂之
提出日 :2020年6月12日
公布日 :
法律番号 :