2020年6月までに成立した第1次・第2次補正予算の歳出合計は、約57兆円。新型コロナの感染拡大の影響で、非常に大規模になっています。こうしたことを背景としてか、7月に閣議決定された「骨太の方針2020」からは、「財政健全化」に関する記述がなくなりました。
そして、現在国会で審議中の「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律」においても、「プライマリーバランスの黒字化」という記述が削除されました。
2001年に小泉内閣で「骨太の方針」を閣議決定した後、財政健全化のためにプライマリーバランスの黒字化が目標とされてきましたが、達成されることなく先延ばしを繰り返し、ついには上記のような状態となっています。
この記事では、これまでの財政健全化計画の推移やコロナ禍のもとでの変化を解説していきます。財政再建への道はあるのでしょうか。
いわゆるバブル崩壊後の税収減少や景気刺激策などによって我が国の財政状況は悪化しました。そのため、1996年に「財政再建目標について」が閣議決定され、1997年には「財政構造改革の推進に関する特別措置法」(以下、財政構造改革法)が成立し、2003年度までに赤字国債の発行をなくすことなどが目標とされたのです。
しかし、その年のアジア通貨危機をきっかけに、1998年には日本長期信用銀行が破綻。経済環境が悪化したことから、1998年に「財政構造改革の推進に関する特別措置法の停止に関する法律」が成立しました。そして、「財政構造改革法」の施行は停止され、赤字国債発行をなくす目標も棚上げにされました。
2001年に小泉内閣が発足し、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(骨太の方針)」を閣議決定しました。ここでは、財政健全化のために、2010年代初頭に、プライマリーバランス(基礎的財政収支)(※)を黒字化することが目標とされました。そして、2006年の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針) 2006」において、黒字化の目標年度を2011年としたのです。
※プライマリーバランス:一般会計において、歳入の総額から国債等による収入を引いた金額と、歳出の総額から国債費等を差し引いた金額のバランス。プラスなら、借金以外の歳入で、その年の支出をまかなえたことになる。
しかし、2008年のリーマンショックを端緒とする金融危機を背景に、プライマリーバランスが悪化。2009年に、目標を10年間先送りすることとしました。
民主党の菅政権時代の2010年になると、「財政運営戦略」において、2020年までにプライマリーバランスを黒字化することが目標とされました。そして、この目標は、自民党と公明党の連立政権となった後も引き継がれたのです。
その後、安倍政権のもと、2017年に、経済成長の低下に伴い税収の伸びが想定よりも少なかったことなどを理由に、プライマリーバランス黒字化の目標年度が2025年と先延ばしとなりました。
過去の財政健全化の目標は、いずれも経済状況の悪化によって、達成されることはありませんでした。
①骨太の方針2020からは「財政健全化」に関する記述が消える
2020年度になると、7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2020」においては、財政健全化や、2025年度までにプライマリーバランスを黒字化する目標に関する記述がなくなりました(関連記事)。2019年の「骨太の方針」では、財政健全化という語句が20回にわたって現れていたことからみると、驚くべき変化です。
閣議決定された当時は、すでに2020年度第1次補正予算・第2次補正予算が成立しており、補正予算の歳出合計は、コロナ対策の必要などから約57兆円となっていました。ちなみに当初予算の歳出は約103兆円でした。
コロナ禍による大規模補正予算の必要性も財政健全化に関する記述の消滅と関係しているように思えます。しかし、コロナ禍の非常時にあるとはいえ、財政規律に対する意識が甘くなっているのかもしれません。
また、その後、報道によると2021年1月28日には、約21兆円の追加歳出を行う第3次補正予算が成立し、第1次・第2次・第3次の補正予算の歳出を合計すると、約78兆円の規模となっています。
②本法案では「プライマリーバランスの黒字化」に関する記述が消える
こうした状況下において、2012年に成立した「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」の改正案が、内閣によって提出されました。現在審議中の本改正案の内容を見ていきましょう。
まず、本改正案では、「地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化」を規定する文言が丸ごと削除されました。
また、現行法では、特例国債の発行額の抑制について第四条で以下のように定めています。
しかし改正案では、「平成三十二年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて」という文言がなくなり、第四条が以下のよう改められました。
この改正案をみると、政府は、これまで目標としていた2025年度までのプライマリーバランスの黒字化を取り下げたといえるでしょう。具体的目標が取り下げられ、財政規律に対する問題意識の強さが感じられなくなりました。
これまでの20年間余り、政府の財政健全化計画は、うまくいっていません。
今年度は新型コロナ対策のため、巨額の補正予算の必要がありました。しかし、だからといって、将来的な財政健全化を、具体的な目標とともに提示する必要がなくなったわけではないでしょう。
巨額の補正予算をつけるのであれば、将来的な財政健全化にいての展望も合わせて提示し、それについての議論も行ってほしいように思えます。そうした展望や議論なしで、単に支出を増大し、財政再建問題を先送りすると、財政規律が弛緩し、財政が破綻するリスクが大きくなるかもしれません。
﨑山建樹財政再建に向けた取組の変遷–OECD諸国の取組事例とともに–
日本経済新聞2次補正予算が成立 20年度の歳出、160兆円超に
日本経済新聞20年度3次補正予算が成立、コロナなど追加対策19兆円
@rolling893
2021/02/08
これは単に黒字化を棚上げしたというより、政府の中にMMTの考え方が取り入れられ始めたのかもしれないです。財政の黒字化が必要という意見が古くなってきた可能性がある。
まだ反対意見が投稿されていません。
@rolling893
2021/02/08
これは単に黒字化を棚上げしたというより、政府の中にMMTの考え方が取り入れられ始めたのかもしれないです。財政の黒字化が必要という意見が古くなってきた可能性がある。
@だるばーど
2021/02/07
子育て世代です。国と地方を合わせると日本の借金額の総額は約1100兆円。それに今回のコロナ禍による給付金や支援金によるさらなる財政悪化。私たちの子どもが大人になったときにそれを背負わされるんですよね。もう何十年も財政健全化が必要と言われながら、どんどん悪化するのは政治が機能していないと言われても仕方がないように思います。本当に、歳出をするなら、将来的な財政健全化の策や見通しを示して欲しいです。
@もも
2021/02/07
コロナ関連で経済が停滞し、さらに経済回復の望みだったオリンピックもどうなるか分からないため、財政はどんどん悪くなっていく一方だと思います。コロナが落ち着いてきたら、財政健全化に向けて積極的に動いていってほしいです。
@TONOさん3号
2021/02/07
財政が破たんするという議論は昔からあった。しかし現在はまだ問題なく国も運営出来ている。単純にどういう仕組みだろうって思ってしまう。 日本は日本人に借金してるから大丈夫という意見も聞く。 給付金にしても100万円ずつ配っても問題ないという人もいる。 議論をしましょう。いろんな意見のぶつかり合いの場を設けて教えて欲しい。マスコミもその場を公平に作りましょう。 これは他の分野も含めて日本(人)の課題です。
@なんたん
2021/02/07
今は仕方がないとしても、給付金など一体どこからお金を工面しているのか?これからが心配です。補償をする国も赤字でとうとう黒字にする目標までなくしてどうするのかと思います。
@ichi369
2021/02/05
現状は有事であり、国民も財政よりも自身の生活や給付金に関心があるため、大きな問題にはなっていません。しかし、いつかは解決すべき問題です。できればコロナ対策と並行して、解決に向けて議論してもらいたいです。
議案件名 : | 財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案 |
提出国会回次 : | 204 |
議案番号 : | 4 |
議案種類 : | 閣法 |
提出者 : | 内閣 |
提出日 : | 2021年1月18日 |
公布日 : | |
法律番号 : |