性暴力被害者の支援 ワンストップ支援センターの整備で泣き寝入りの状況改善なるか?

性暴力被害者の支援に関する法律案

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提出議員 :阿部 知子

ジャーナリストの伊藤詩織氏が、元TBS記者の山口敬之氏から強姦被害を受けたとして訴えを起こした民事裁判で勝訴したのは記憶に新しい。裁判所は、酩酊状態で意識がほぼ無く同意のないまま性行為に及んだと認定し、山口氏に損害賠償の支払いを命じた。伊藤氏は準強姦容疑で警視庁に被害届を出したが東京地検は不起訴処分とされた苦い経験を持つ。今回の裁判でやっと彼女の苦痛が報われたと言えるだろう。

性犯罪は行為の性質上、被害者が被害の事実を訴えにくく泣き寝入りに終わるケースも多い。内閣府が2014年に行った調査によると、異性から性行為の強要を受けた経験のある女性のうち、警察に相談した割合はたったの4.3%しかない。こうした現状を変えるために提出された法案が、性暴力被害者の支援に関する法律案だ。この法案では、性暴力被害者の駆けこみ寺となる「ワンストップ支援センター」の整備などを規定している。


性暴力被害者への十分な救済制度の整備が目的

冒頭でも述べた通り、日本においては性被害者に対する救済措置が整備されているとは言えない。強制性交罪の成立要件には、「本人の抵抗が著しく困難なほどの」暴行・脅迫だとの規定がある。つまり、同意を得ずに性行為が行われただけでは立件するのが難しいのが現状だ。 同意がないことをもってのみ犯罪の成立を認めてしまうと、冤罪の危険高くなってしまうため、かなり難しい問題である。いずれにせよ、被害者が声を上げにくい状況は改善する必要がある。

性暴力の被害者が個人の尊厳を失う可能性が高く、被害の性質から支援を受けるのが難しい状況を変えるため、適切な支援策を行うのが法案の基本理念である。女性だけでなく男性でも外国人でも、性暴力被害者全てを支援の対象とする。

被害者が心身の状態を回復させるのに必要なサポートを継続的に実施し、年齢や回復段階に応じた適切な支援を随時行うものとする。


性暴力被害者支援基本計画の策定

政府に、性暴力被害者支援基本計画の策定の義務を求める。策定にあたっては審議会を開き、計画の案を策定しなければいけない。また、都道府県や市町村も独自の支援計画を策定する必要がある。


ワンストップ支援センターの整備・機能拡充

ワンストップ支援センターとは、性暴力被害者に対して、被害直後からの総合的な支援を一箇所で行うことを目的とした機関だ。

主な支援内容は、電話や来所による相談から、被害者の状態・ニーズを把握して必要な機関へとつなぐ支援のコーディネート業務も含まれる。また、医師による診断やカウンセリングなどの心理的サポート・捜査関連の法的な支援も担う。

性暴力・配偶者暴力被害者等支援交付金の予算計上額は年々上がってはいるものの、ワンストップ支援センター運営予算は1都道府県当たり400万円未満というのが現状である。被害者が必要な支援を実施するには予算がまるで足りていない。そこで、本法案では国や地方公共団体に対して、ワンストップ支援センターへ財政上の措置を取ることや、必要な情報提供の措置を取ることを義務付けている。

また、ワンストップ支援センターが取り扱う支援施策の内容を下記の通り定めている。

  • 避妊や感染症の予防などの被害直後の支援
  • 医療や心理的な側面に関する継続的なサポート
  • 一時保護や施設への入居などの安全の確保
  • 性暴力被害者が子供である場合のその特性に応じた支援

さらに、支援の環境面の整備として、具体的な事項を下記の通り定めている。

  • ワンストップ支援センターの機能や支援に関する周知
  • 捜査の過程において被害者がさらに苦痛を感じないための配慮
  • 捜査の過程において苦痛を感じた被害者からの苦情の処理
  • 正しい性に関する知識の普及
  • 性暴力からの回復・支援に関する調査研究の推進
  • 性暴力に関する相談業務に従事する者や医療従事者の育成
  • 民間の知識の共有
  • 支援機関間での情報の共有

性暴力被害支援連絡会議・性暴力被害者支援審議会の設置

国は、被害者に対する効果的・総合的な支援を目的に、内閣府や法務省、総務省等の関係行政機関の職員による被害者支援連絡会議を設ける必要がある。

また、内閣府に性暴力の被害者等を構成員とする支援審議会の設置を義務付ける。支援審議会は基本計画の案策定に携わったり、連絡会議に対し意見を述べたりする役目を担う。都道府県も独自に性暴力被害者支援協議会を設置するよう努めねばならない。


本法案が成立・施行すれば、組織や支援体制の整備が進み、性被害者への適切な支援が進むことが期待される。しかし、本法案はあくまでも基本法であり、具体的な支援内容に関してはそこまで触れられていない。どのような運用がなされるかという点が今後のポイントになるだろう。

以上が本法案の概要だ。皆さんはどのような意見をお持ちだろうか。

<参考リンク>

平成27年版犯罪被害者白書(概要)3性犯罪被害者支援のための連携|警察庁

性犯罪・性暴力とは|男女共同参画局

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧

最新の賛成コメント

@かるた

2020/12/06

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@かるた

2020/12/06

@restog

2020/12/02

ワンストップ支援センターの周知を急いで進めていく必要があると感じた。ワンストップ支援センターの業務内容が多いので、手いっぱいにならないように就労人数を増やすなどして、性被害の被害者にきめ細かい対応が出来るような環境づくりに努めてほしい。

@TONOさん3号

2020/11/28

基本賛成です。予算ももっとつけてよいと思います。これは女性への問題ではなく男女の問題。男性被害者もわずかながらいるだろうし、冤罪的なものも起こり得るので専門的な眼と公正な権限が必要でしょう。ワンストップセンター等の周知をいろんな媒体で行って欲しい。

@なんたん

2020/11/27

ワンストップセンターはすべての県にあるのでしょうか?相談に行くのもすごい勇気だと思うので、リモートとか使って行くのはどうでしょう。

@だるばーど

2020/11/27

海外に比べ日本は性暴力被害者へのサポート体制が全然整っていないと思っていましたが、まさか予算がそんなに少ないとは驚きました。これを機会にワンステップセンターの役割を周知させて、予算も増額することを検討してほしいです。

@もも

2020/11/27

性被害の支援センターがあることやその現状など、あまり知りませんでした。現状では、絶対に予算が足りないと思います(特に都心部)。見えない性被害は多いと思うので、この法案をきっかけに改善すればいいですね。被害にあった人がちゃんと支援センターに向かえるよう、支援センター自体の認知度も上がっていってほしいです。

 詳細情報

議案件名 :性暴力被害者の支援に関する法律案 
提出国会回次 :196
議案番号 :35
議案種類 :衆法
提出議員 : 阿部 知子
提出日 :2018年6月11日
公布日 :
法律番号 :