「著作権法の一部を改正する法律案」が、内閣から国会(第204回)に提出されています。 本法案の狙いを大きく二つに分けると、①デジタル化した図書館資料の個別送信、②テレビ番組のインターネットによる円滑な同時配信等の実現です。
現在すでに、国会図書館の絶版等資料などはデータ送信が可能です。しかし、データは公共図書館や大学図書館などに送信されるため、利用者は実際に足を運んで閲覧しなければなりません。また、公共図書館などの資料は、紙によるコピーは可能ですが、インターネットを通じた送信は認められていません。こうした点について、かねてからデジタル時代に対応していないという指摘がなされていました。加えて、新型コロナウィルスの流行による図書館の休館、外出自粛などの理由により、インターネットによる図書館資料利用のニーズが高まっています。
さらに現在、テレビで放送される番組をインターネットで同時配信しようとするとき、放送と配信と別々に権利処理を行う必要があり、円滑な配信の足かせとなっています。若者のテレビ離れやネット配信サービスの拡充を踏まえると、この権利処理の問題を解決し、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の発展を図らなければいけません。
これら踏まえて、まとまったのが本法案です。法案の内容を細かく見ていきましょう。
1. 国立国会図書館が持つ絶版等資料のインターネット送信が可能に
電子化した絶版等資料(※)の扱いについて、現状と改正案を比較すると、次のようになります。
現行 | 改正案 | |
---|---|---|
送信先 | 公共図書館、大学図書館のみ可能 | 利用者に個別送信可能(利用者は、事前登録が必要) |
閲覧方法 | 公共図書館や大学図書館に足を運んで閲覧 | 各自、国立国会図書館のウェブサイト上で閲覧 |
プリントアウト・公開 | 規定なし | 自分で利用する目的であればプリントアウト、非営利であれば公開可能 |
※絶版等資料:「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料」(改正法案第31条第1項第3号)と定義される。判断基準は、「一般に入手することが困難」であるか否かがということ。例えば、僅少な部数しか発行されていない大学紀要等は、絶版等資料に含まれる。
改正により、事前登録した利用者は、国会図書館に申し出れば、国会図書館のウェブサイト上で絶版等資料を閲覧し、印刷することが可能になります。これまでは公共図書館等を経由する必要がありましたから、利便性が格段に高まります。
2. 図書館資料のメール送信が可能に
国立国会図書館、公共図書館、大学図書館等による図書館資料の扱いの変化は、次のとおりです。
現行 | 改正案 | |
---|---|---|
複写可能な範囲 | 著作物の一部(一般的には半分までという解釈) | 著作物の一部(政令によっては全部) |
複写した資料の提供方法 | セルフコピー、職員によるコピーの手渡しもしくは郵送が可能 | 現行の方法に加えてメール送信が可能 |
補償金の支払い | なし | 著作物の複写を利用者にメール送信した場合、図書館は著作権者に補償金を支払わなければならない |
①補償金とは?
改正案では、図書館資料のメール送信を可能にする規定が盛り込まれています。この際、図書館は著作権者に対して「補償金」なるものを払わなければなりません。金額や料金体系など気になるところですが、それらについては、法案が成立した後、関係者による検討などを経て、最終的に文化庁が定めることとなっています。
文部科学省が発表した資料によると、現段階では補償金について以下のような検討がなされています。 - 個別の送信ごとに課金する料金体系にする - 著作物の種類や性質、送信する分量などに応じたきめ細かな料金設定を行う - 権利者の逸失利益を補填できるだけの水準とする
また、同資料によると支払いの主体は図書館ですが、この補償金は実質、利用者が図書館側に支払う代金を充てます。現在、図書館は、コピーサービスの利用者に実費を請求することができます。これと合わせて、図書館は補償金を請求するのかもしれません。
②全ての資料がメール送信可能なのか?
本法案では、調査研究の目的であれば原則、著作物の一部(もしくは全部)を電子化し、メールなどで利用者に送信することを認めています。ただし、以下のような例外規定を設けています。
著作物の種類や電子書籍の出版状況、メール送信における図書館のセキュリティ対策の状況に応じて、著作権者が不当な影響を受ける場合には、メール送信を認めない。
電子書籍市場と競合する場合や、不正防止のためのいくつかの要件を図書館が満たしていない場合などは、メール送信が認められません。この例外規定の具体的な解釈は、今後ガイドラインを作成し、それに従って運用していくようです。
1. 現在の問題点は?
インターネットメディアの台頭により、テレビ番組をネット配信する放送局が増えてきました。しかし現在の法律上、放送と同じコンテンツをスムーズにネット配信するのが難しくなっています。というのも、現在放送と配信とでは個別に権利処理を行う必要があり、コンテンツによっては、放送では許諾が得られていても、配信では許諾を得るのが難しい場合があるからです。
例えば、短時間の交渉で、口頭でのみ許諾を取ることが多い一般の方へのインタビューでは、配信にかかる許諾が明確に得られているのかどうか確認しがたい場合があります。このような場合、配信では映像の差し替えや省略が起こっています。
テレビ番組のネット配信は番組の視聴機会を拡大させ、視聴者にとっても便利でしょう。しかし、権利処理にかかる手間が、番組のネット配信の足かせとなっているのです。
2. 今回の改正で対象となるネット配信とは?
今回の改正で対象となるネット配信は次のとおりです。
本法案では、これらの配信を「同時配信等」と表現しています。
3. 改正の内容は?
改正の内容は、次のとおりです。
現行 | 改正案 | |
---|---|---|
学校教育番組や国会演説などの利用 | 放送:許可不要 同時配信等:許可が必要 |
放送:許可不要 同時配信等:許可不要 |
著作物(音楽、写真、書籍)の利用 | 放送:許可が必要 同時配信等:許可が必要 |
放送:許可が必要 同時配信等:放送での許可があれば許可不要(権利者が特別な意思表示をしていない場合) |
音源、歌、演奏の利用 | 放送:許可不要 同時配信等:許可が必要 |
放送:許可不要 同時配信等:放送事業者が権利者に使用料を支払えば、許可不要 |
映像実演(俳優の演技など)の利用 | 放送:初回放送のみ許可が必要 同時配信等:毎回許可が必要 |
放送:初回放送のみ必要 同時配信等: ①初回配信は許可を得た場合 使用料を払えば、その後の許可は不要 ②初回の許可を得ていない場合 実演家と連絡がつかなければ、使用料を支払えば許可不要 |
許可を得るための協議が不調に終わった場合 | 放送:使用料を支払えば利用可能 同時配信等:こうした制度はない |
放送:使用料を支払えば利用可能 同時配信等:使用料を支払えば利用可能 |
法案どおりに改正されれば、オリジナルの番組そのままの同時配信等が実現し、利用者にとってはありがたいことです。また、コンテンツが完全な形で視聴される機会が増えることは、コンテンツ産業が発展する方向に作用するでしょう。
改正法案が成立すれば、絶版等資料を国会図書館のサイトで閲覧、印刷できるようになり、公共図書館等の資料をメールで受け取れるようになります。さらは、放送される番組と全く同じコンテンツの同時配信等も可能となるのです。こうしたことは、利用者の利便性を大きく高めることになるのではないでしょうか。
ただ、特に、公共図書館等の資料のメール送信に関しては、権利者の利益が損なわれることや、出版業界、古書店の衰退につながるようなことがないように、相当な配慮が必要になると考えます。
今後、補償の金額についての検討や、権利者保護のための省令についての検討が進むことになりますが、権利者の利益と、利用者の利便性のバランスをうまくとることが望まれます。
文部科学省「著作権法の一部を改正する法律案(説明資料)」
国立国会図書館「図書館向けデジタル化資料送信サービス」
@rolling893
2021/04/08
絶版等資料の複写時に補償金が支払われることで、著作権者にとっても旨味のある改正案だと思います。
@westman
2021/12/23
テスト
@westman
2021/12/23
テスト
@rolling893
2021/04/08
絶版等資料の複写時に補償金が支払われることで、著作権者にとっても旨味のある改正案だと思います。
@だるばーど
2021/04/03
実現されれば、とても利便性が高まる法案だと思いました。大都市の図書館にアクセスするのが難しい地方の人間にはありがたいです。
@restog
2021/04/03
この取り組みは、コロナ渦でも、人々の学習意欲を満たすことが出来ると思った。 アメリカの大学のようなシステムが日本でも早く実現すると良いと思った。
@なんたん
2021/04/03
図書館のサービスはありがたいです。地方にいるとち
@もも
2021/04/02
とてもいい案だと思います。図書館資料のメール送信について、実現したらとても便利になりそうですね。図書館から遠い場所に住んでいる利用者にとっては大変ありがたいと思います。また、テレビ番組のネット配信手続き簡素化についても、手続きが楽になればテレビ局にとっても視聴者にとってもプラスになると思うので、是非改正してもらいたいです。テレビが使えないときなどに助かりそうです。
@ichi369
2021/04/02
不要な申請や許諾を省略し、利便性が向上するのは望ましいことです。デジタル化によって、コンテンツ制作者の利益が損なわれないような制度にしてもらいたいと思います。
@TONOさん3号
2021/03/31
申請とか許可の手続きは1回で済む方が当然楽だし手間もかからない。 デジタル化も進めやすいので大いに賛成です。 著作権の権利主張もなにか偏ってきていると思うのでこの際それを含めて見直した方が良いと思う。
議案件名 : | 著作権法の一部を改正する法律案 |
提出国会回次 : | 204 |
議案番号 : | 57 |
議案種類 : | 閣法 |
提出者 : | 内閣 |
提出日 : | 2021年3月5日 |
公布日 : | |
法律番号 : |