教育現場を大混乱させた大学入試改革まとめ~民間英語試験延期にポートフォリオ利用廃止~

大学入学共通テストの導入に代表される大学入試改革。 当初は2020年度実施が予定されていた大学入学共通テストだが、試験の具体的な内容が煮詰まらず、結局延期となった。

大学入試改革では政府の判断が二転三転したことで、受験生や教師に大きな負担が生じた点が問題視されている。今回は、特に混乱の種となった「民間英語試験導入の延期」と「e-ポートフォリオ活用の廃止」に関して、制度概要やことの経緯などをまとめてみた。


民間英語試験導入の動きに至る背景

英語民間試験導入とは、民間が行う検定試験の結果を大学入試にも活用しようとする動きのことだ。従来の筆記とリスニングによる試験では、英語の4技能である「読む・書く・聞く・話す」能力を全て測るのは難しい点が問題視されていた。とはいえ、現行の試験内容を変更しようにも、たった1日で全ての能力をバランスよく試せるような試験を実施するのも難しい。そこで、4技能を測る試験として実績のある民間の試験を活用しようという動きが出てきた。


民間英語試験導入延期決定にいたるまでの経緯

下記の通り、民間英語試験導入制度は着々と具体化されていった。

  • 2017年7月文科省は民間英語試験導入も考慮した大学入学共通テスト実施方針を策定
  • 大学入試センターが7団体8種類の民間試験を認定

しかし、同時に問題点を指摘する声も多く挙がっていた。まず大きな問題が、受験生間の公平性を保つのが難しいとの指摘である。認定された民間試験の多くは、主要都市でのみ試験を開催していない。つまり、地方に住んでいる学生は都市部在住の学生に比べ、受験が難しい。地理的制約はもちろん、交通費や宿泊費の負担など経済的格差も生じてしまう。

また、「目的や難易度が異なる試験による比較は本当に適したものなのか」との疑問も生じていた。各試験の結果は6段階で評価され、「大学入試英語成績提供システム」という国のシステムを使って、各大学に送られる。国際的な指標で一元的に測るルールが予定されていたが、民間試験の成績を国際基準に当てはめることに対する疑問の声は専門家からも寄せられていた。

さらに、大学側からも反発の声は多い。北海道大学や慶応大学など一部の大学では当初から、民間試験を入試に活用しないと発表していた。導入初年度であった2020年度においては、民間試験を入試に活用する大学は全体の6割程度にとどまっていた。

そんな中、2017年7月には認定試験の一つTOEICが「責任ある対応が困難」として、試験からの撤退を公表。しかし、8月には当時の萩生田 文部科学省大臣が「サイレントマジョリティーは賛成である」と発言し、この時点ではあくまで国は、今年度中の導入を推進する立場を取っていた。

9月には全国高等学校長協会が延期を求める要望書を萩生田文部科学省大臣に提出する一方、実施6団体とセンターが協定書を締結し、英検は試験申し込み予約を開始するなど導入の動きは進展した。

しかし、試験直前期に突入した11月1日、英語民間試験の大学共通テストへの導入の延期決定したと公表する。多方面からの批判に屈服した形だ。延期期間については、2025年度より実施すると公表された。共通ID発行の申し込み書類を既に郵送してしまった人・学校もいたため、受験生や教師には大きな混乱が生じたところである。


e-ポートフォリオ活用の動きに至る背景

e-ポートフォリオとは、生徒の学習成果と、成果に至るまでの過程に関する記録を集めたファイルのことだ。学業の成績のみならず、課外活動や資格・検定試験の内容なども記載可能だ。よくクリエイターが用いる「過去の実績をまとめた作品集」としての意味はここにはない。

e-ポートフォリオでは成果に至るプロセスも内容に含めるので、生徒の学習状況をより深く理解できる点、学園祭などの学業以外の活動状況が分かる点が特徴だ。試験はチャンスが一回しかないため、本来の実力が発揮できない生徒や逆に能力以上の点数を出すケースなどがあり、本人の能力を適切に測ることができるかという点は兼ねてより疑問視されていた。 入試にe-ポートフォリオを活用すれば多面的な評価が可能なので、生徒の能力をより正確に測ることができると期待されたところだ。


e-ポートフォリオ導入廃止決定にいたるまでの経緯

大学入試改革では「主体性を持って学ぶ態度」がひとつの重要なポイントとされたが、主体性を測るにあたり、e-ポートフォリオが利用できるいうことで、大学入試制度への導入が進められた。

具体的には、高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」を通じて、学びの成果をデータ化していこうとする取り組みだ。JAPAN e-Portfolioは大学の出願システムと連動しており、入学者選抜に利用できる。

当初、の情報は2021年度の大学入試での活用が予定されていた。しかし、運営を委託されていた教育情報管理機構が、財務状況の悪化を理由に、運営の取り消し処分を受けてしまう。これに付随し、2021年度試験からのJAPAN e-Portfolioに登録された情報の、入試への利用はできなくなった。

突然の運営許可取り消しにより、必然的に教師や生徒といった利用者は不利益を被ることになる。教育情報管理機構は、文部科学省と連携して十分な対応に努めるとしている。個人情報保護の観点から登録された情報は確実に消去されるため、情報を保存したい利用者は所定の方法で指定の期間までに保存手続きを行わなければならない。


<参考リンク>

大学入試英語ポータルサイト

JAPAN e-Portfolio

「JAPAN e-Portfolio」について|文部科学省

大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議|文部科学省

大学入学共通テスト|大学入試センター

4 件のいいね    0 件のコメント

@かるた

2020/12/06

@rolling893

2020/11/16

今受験に関わっていないので最近の入試動向を知りませんでした。 評価の仕方は難しいし、公正さを担保する責任を背負いきれないのは理解できます。 難しい問題ですがいい方向に進むといいですね。

@Beagle

2020/11/15

大変理解しやすい記事でした。一番可哀想なのはあれこれ振り回される受験生ですね。なるべく受験生へ影響が少なくなるよう、公平に改革を進めてください。

@replog_cham

2020/09/08

どんな選択肢であろうと大きな変革には問題点はつきものだと思います。 長年マイナーチェンジのみだった日本の教育制度が進化しようとしている現状を知り期待が持てました。 国際的に活躍した実績のある強いリーダーに改革を推し進めていってもらいたい。